第148話 いざ領主の座へ!
「開門! 開門!」
大声でさけぶ。
今いるのはスタートスの街の外だ。門に向かって呼びかけているのだ。
現在、俺は身をヨロイで包み、馬にまたがっている。
周囲を取り囲むのは、たくさんの兵士。じつはこいつらは人間ではないのだが、武装しているため遠目ではわからないだろう。
なんとなく軍隊っぽく見えているはずだ。
やがて、物見台からのぞく兵士があらわれた。
俺はしめしめとほくそ笑むと、さらに声を張り上げる。
「周囲の魔物は討伐した。支援物資もある。ただちに門を開けよ」
「なにものだ!?」
呼びかけに反応したのはやさぐれ兵士だ。事前に打ち合わせした通りの行動である。
有能で助かるわ。冷遇した男爵は、頭がよくともアホだったんだろうな。
「我はサモナイト子爵である。スタートスの街の窮地を知り、秩序を取り戻すべく参上つかまつった。すぐに門を開けよ!」
サモナイト子爵って誰やねんとか、爵位持ち本人がじきじき来るかいな、みたいなツッコミもあるが、そこは勢いで乗り切っていこう。
そもそも俺は爵位など持っていない。ただの平民どころか、金貨1000枚のお尋ね者である。
立ち止まったら負けなのである。
まあ、懸賞金をかけた男爵ももういないし、子爵の称号も申請中であるからして、まるっきりウソでもない。
西側諸国だ。エドモンド伯爵を通し、なんかよ~わからん爵位をさずける団体に金を送り付けたのである。
領土は復興中のオーデルンとした。街の整備も産業の誘致も俺がやっているのだ、領土と言っても問題ないだろう。伯爵も了承してるし。
ただ、オーデルンの復興が、あるていど軌道に乗ったら返す予定ではある。
エドモンドは「その後もぜひ主に治めていただけますれば!」なんて言ってたけど、やっぱり返すのだ。
なにもかも俺がやっていれば、いずれパンクする。
そもそも、グロブスの民は俺と契約関係にあるのだ。グロブス領の発展は俺自身の発展なのだ。
伯爵の手腕のもとでバンバン人口を増やしてくれた方が、俺としてはありがたいわけだ。
「おお! 世に名を
やさぐれ兵士、ノリノリである。
いま作ったばかりの子爵が、どうやって名を馳せるんだっつー話だが。
とはいえ、効果はてきめんである。他の兵士からも「おお~」と歓声があがっていた。
ぶっちゃけ細かいことを気にしている余裕などないのであろう。待ちに待った援軍だと、喜びでこころがいっぱいなのだ。
ちなみに、やさぐれ兵士、彼がノリノリなのにはワケがある。
俺が領主になったあかつきには、兵士のまとめ役をやってもらう約束なのだ。
ヒラから一気に兵士長。そりゃあ力も入るってもんだ。
出世もさるものながら、略奪に参加した兵士の粛清もやろうと思えばできるのだ。たぶんこれが一番大きいのではないか?
ヒゲをそって
自分の手を汚さず、嫌いな兵士を切り捨てられる。俺としても一石二鳥だ。
おじゃましま~す。
すぐに門は開かれ、数人の騎士たちと街の中へ。
俺の兵士は外で待機だ。
だって悪魔だもん。じっくり見られたら困るからね。
ちなみに騎士は変身がうまい悪魔たち。
マルコシアスを騎士団長とするサモナイト子爵の親衛隊的な位置づけだ。
俺を守るようにして、パカラパカラと街の中心へと進んでいく。
やがて城へと到着。
馬を降りると、ずいずいと奥へと進み、謁見の間へ。
領主が座る高級そうなイスに、ドスンと腰をおとした。
「な!」
城の兵士たちからどよめきがおこる。
いきなりなに領主の席に座っとんねんつー話だ。
だが、それを手で制すと声を張る。
「領主の不在はすでに知っている。諜報員から報告を受けた」
兵士たちはザワザワとざわめき始める。
諜報員という言葉に引っかかったのだ。いったいどこまで知られているのかと心配になったのだろう。
とくに略奪を働いた者ほど動揺が大きいに違いない。
「じつは以前より男爵が不正を働き、私腹を肥やしているとの密告があった。その調査をしていたのだ」
布で顔を隠した盗賊ギルド銀のバラが、じつは諜報員だったというシナリオだ。
このさい銀のバラは忘れてしまおう。物事はシンプルな方が受け入れやすい。
「残念ながら男爵には逃げられたが、街の窮地を救うことはできたようだ。兵士よ、みなよく頑張ってくれた、私からも礼を言う」
何人かの兵士が安堵したのが分かった。略奪をおこなわなかった者だろう。
ひとまず連座はまぬがれたと胸をなでおろしているに違いない。
あとは略奪をした者だが……
「男爵に逆らえず、不本意ながらも従った者も多かろう。子爵として心苦しく思う」
続けて言ったのは、略奪した者の罪は問わない的なニュアンスの話だ。
いま反発されたら困るしな。しばらくはおとなしくしてもらうためにぼかしておく。
ちなみに罪を問わないとは言っていない。心苦しく思ってるだけだ。
そもそもキミらの処遇を決めるのは俺じゃないからね。
その後なにが起ころうが、俺はあずかり知らぬことなのだ。
「恐縮です。して、子爵さま。こたびは援助と男爵の
やさぐれ兵士がうまく会話をつないでくれる。
うむ。いい感じだな。シナリオ通りだ。
俺としても力づくは避けたい。できれば、みなの納得のうえ領主の座につきたいものだ。
「うむ、それがな。こたびは男爵の不明という形で終わったが、きゃつの領主解任は決定事項であった。つまり、領主不在となる。その穴埋めにわたしが来たということだ」
「では、子爵様が領主の任を?」
「ひとまずはな。それで――」
「ちょっとお待ちください!」
テンポよく進んでいた会話に口をはさむものが現れた。
兵士のひとりだ。険しい目を俺に向けてくる。
「なにか?」
「失礼ながら申し上げます。あなたはほんとうに子爵さまであらせられますか? わたしはあなたの顔に見覚えがございます」
見覚えがあるって? まあ、あたりまえやね。俺ここで冒険者してたし!
でっかい街だけど顔を知っているやつだって普通にいるよね。
ちらりと横を見ると、やさぐれ兵士が、しまった! という顔をしていた。
たぶん根回しを忘れたってことなんだろう。物おじせずつっこむ気質の持ち主だと知っていたようだ。
ふ、大丈夫だ。その程度でビクつく俺ではないわ!
「それが何か?」
ずっしりと構える。なにが来ようとも口先だけで抑え込んでくれる。
「あなたは冒険者ではありませんか? ギルドで見た記憶がございます」
他の兵士からも、「たしかに」「そういえば」などといった声が聞かれる。
さよか。記憶ちがいってこともあるけどな。人の記憶などあやふやなもんや。
「そしてなにより手配書です。金貨1000枚の賞金首。その
あー、うん。似顔絵ね。……似顔絵!?
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