第113話 ガーゴイルをのりこえて

 石像はガーゴイルではなかった。

 正体不明のコナをつめたガーゴイルそっくりのマガイモノ。


「風よ!」


 まとわりつくコナを風魔法で吹き飛ばす。

 かすんだ視界はまたたく間に晴れ、新鮮な空気が辺りを満たした。

 ふー、これでひと安心。

 まったく、姑息こそくな手をつかいよってからに。

 おまえらなんかこうしてくれる!


「ヘーンライホニング」


 ズビビと鼻をすすると、前方に向かって手をかざした。

 おなじみの電撃魔法だ。

 ほとばしる紫電はガーゴイルの石像を粉砕すると、二つに分裂。さらにべつの石像へと連鎖していく。


 一網打尽だ。ガーゴイルの石像はすべて砕け散った。

 こころなしか放たれた紫電が、ねばっこかったが、たぶん気のせいだろう。


「きゃ! またコナ!!」


 大量のコナが部屋を舞う。

 やはりというか、他の石像にもコナは仕込まれていたらしく、破壊と共に辺りに飛び散っていた。

 よ~し、おまえらぜんぶピューだ。

 やっぱり風魔法。背中より吹く風が、すべてを巻き込み、さらっていく。

 残されたのは中身が空洞の石像の残骸と、数体のガーゴイルのむくろだった。


「本物もまじっていたみたいね」

「ああ」


 ニセモノと本物は半々といったとこだろう。

 コナで視界を奪い、襲ってくる仕様でもあったか。

 まったくフザけたことをしやがる。


「マスター、これでチーンして」


 鼻水、どうすっかな? なんて思っていたら、ルディーに手のひらサイズの布を渡された。

 すまんね。

 チーンと鼻をかむ。ほのかにラベンダーの香りがした。


 ほう! 布に花のエキスを染みこませていたワケか。

 なかなか女子力が高いではないか。


「よ~し、先へ進むぞ! ホイ、ルディー。ありがとな」

「洗って返して!!」




――――――




 階段の先は広い通路になっていた。

 脇道はなく、奥まで真っすぐと伸びている。

 そして、床に敷かれたのは真っ赤な絨毯。まさに、もうすぐ王がいますよって雰囲気だ。


「あ、マスター。なんかいるよ」


 またかよ。

 通路の先には巨大な扉。

 その扉の前に、巨大ななにかが鎮座ちんざしている。


「スフィンクスですね」


 ほう! あれが!

 ウンディーネの言うスフィンクスは、獣の体に人の顔をもつバケモノだ。

 たしかに扉の前に鎮座するあいつは、四本足の獣の体に鳥の翼、肩までのびた黒髪の女の顔と、スフィンクスそのものに見える。


 しかし――


「デカイな」


 体高だけでゆうに俺の身長の三倍はありそうだ。

 ドラゴンほどではないが、威圧感もかなりのもの。


 う~ん、戦闘になるのかね?

 戦っても負けはしないと思うんだけど。


「よく来ました。ニンゲン」


 スフィンクスは透き通った声で語りかけてきた。

 その声は意外と心地よい。悪魔というのはもっと冷淡れいたんな印象だったが。


「歓迎してくれてるのかい? アクマちゃん」そう返そうとしたところで、声を荒げる者がいた。

 ウンディーネだ。


「注意してください! この者、言葉に魔力がこもっています!!」


 なに! 言葉に魔力!?

 詠唱か?

 ウンディーネに問う。しかし、彼女は首を横に振る。


「いいえ、違います。詠唱ではありません。ですが、魔力のこもった言葉にはなんらかの強制力が働きます。会話には十分じゅうぶん注意してください」


 なるほど。言われてみれば、俺たち召喚士の契約と似た雰囲気があるな。

 自身の発言にしばられないよう言葉を選ぶ必要がありそうだ。


「おまえが王か?」

「いいえ、違います。王はこの先です」


 まあ、そうだよね。王が扉を守ってたらおかしいもの。

 てことはこいつは守護者的な役割のものか。

 

「王はご在宅かな? ちょっとそこを通してほしいんだけど」

「それはできません。ここを通りたくば、わが問いかけに正解する必要があります」


 問いかけ?

 やだよ。なんできさまとナゾナゾごっこをせにゃならんねん。


「どけ」


 威嚇いかくの電撃を放つ。

 しかし、それはスフィンクスに到達するはるか前方で、かき消えてしまう。


「なに!!」


 発動に失敗した?

 いや、魔法は間違いなく放たれた。それが途中でこつぜんと消え去ったのだ。

 ガーゴイルのように効果がないのとも違う。


「ムダです。わが障壁の前にはいかなる魔法も力を失います」


 マジかよ。便利な障壁だな、おい。

 倒すとなったら肉弾戦か。さすがにそれはツラいな。


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