追放された召喚術士、しかたがないので農業をはじめる

第80話 野盗

　赤茶けた土が大地を覆い始めたころ、フォミール砦が見えてきた。

　小高い丘の上にそびえる、石づくりの建造物がそうだ。

　砦へとたどりつく道は一本。折り返すように坂を上り切った先に門がある。

　周囲は切り立った崖だ。

　かなり攻めづらいつくりだ。難攻不落といっていいかもしれない。

　まあ、クイックシルバーを使えば一瞬で落ちるだろうが。

　じゃ、商売といきますかね。

　旗を大きく立てるとフォミール砦へと向かう。

　旗には木箱と杯が描かれている。商人ギルドの旗だ。

　これを掲げてれば攻撃されないだろう。

　……されないよね？

　カッポロロ、カッポロロ。

　馬のヒヅメが鳴り響く。

　坂の折り返し地点は過ぎた。いまのところ矢が飛んでくる気配はない。

　大丈夫っぽい。

　とはいえ油断はできない。

　しっかりと風魔法でシールドを張りつつ進むと、やがて門の前へと到着した。

　周囲を見渡す。

　侵入者をはばむべく高くそびえたつ壁と門には、ところどころ穴があいている。

　矢を射かけるタメの穴だ。

　さらに上を見る。

　もっとも高い位置にあるのは監視のための穴で、そろそろあのあたりから、何しにきた？　と声がかかるハズ。

　…………

　……

　あれ？

　しばらく待ってみてもなにもない。

　なんでだ？　見張りが居眠りでもしてんのか？

「たのも～」

　ちょっと声を張り上げてみた。

　しかし、反応がない。

「商人ですよ～。妖しいものじゃありません」

　……やはり反応がない。

　これは――

「クイックシルバー隊、見てこい」

　手でGOサインをだすと、ちぴっこクイックシルバーたちは砦の中へと飛んでいった。

　彼らは門やら壁やらすりぬけて入っていく。

　便利やな。

　飛ぶ、壁をぬける、姿も見えないと恐ろしいまでの偵察能力だ。

　まだ幼く、コミュニケーションが取りづらいといった難点もあるものの、ひとでは到底不可能なミッションをやりとげてくれる。

　しばらくしてクイックシルバーたちが帰ってきた。

　さて、どんな情報をもってきたか。

「だれもいないよ～」

　――なんと！　

　おチビちゃんたちが、しゃべった！！

　幼い、幼いと思っていたが、会話ができるほど成長したか。

　ここにくるまでけっこう魔物から生気を吸ったからな。急激に成長したんだろう。

　このぶんだと、すぐ彼らは大人になる。

　早めに、お嫁さん、お婿（むこ）さん候補をみつけておかないと……

「マスター、誰もいないっておかしくない？」

　ルディーがなんか言ってきた。

　誰もいない？　なにが？

　――あ、うん、そうか。砦か。

　クイックシルバーの成長を喜ぶあまり、肝心の報告内容が耳に入ってなかった。

　え、やべーじゃん。砦に誰もいないって。

　ふつう忙しくても、留守にはせんやろ。

「死体もなかったか？」

　あらためてクイックシルバーに問いただす。

　争いがあったなら誰もいないってこともありえるからな。

　全滅的な。

　いや、それでも勝った側が占拠してないとおかしいか。

「うん、死体もなかったよ～。あ、そうだ。お馬さんはいたよ～」

　馬？

　人はいないのに馬がいる。う～ん、奇妙だな。

　入って調べっか。

　ポンと跳躍すると門を飛びこえた。

――――――

「誰もいないねえー」

「そうだね」

　ルディーの言うように砦の中を一回りしてみたものの、ひとっこひとりいない。

　なんだこれ？

　誰かと争った形跡もない。生活雑貨も手付かず。

　なんとも不思議な状態だ。

　ただ、クイックシルバーの報告どおり馬小屋には十数頭の馬が入れられており、飼い葉、水ともにカラになっていた。

　馬はまだ生きている。

　状態を見るに、放置されて三日ぐらいだろうか？

「お馬さんかわいそう」

　だよな。このままだと脱水で死んでしまう。

　とりあえずエサ桶に、水と草を追加することにした。

「マスターやさしいね」

　そう？　見殺しにするほうがどうかしてると思うが。

　まあ、それはそうと今後どうするかだな。

　砦にいたものが帰ってくる可能性は低い気がする。ならば馬をおいていくワケにもいかんしな。

「よ～し、今日はここに泊まってようすを見る。それでなにもなければ、金目のものを馬に積んでオサラバしよう」

「わ～、馬まで根こそぎ。マスター野盗みたい」

　だれが野盗じゃい。

　馬は保護するの。ここに置いていったら死んじゃうでしょ。

　金品はどうせ誰かに盗られる。俺が持っていったほうがマシってもんだ。

　それこそ本物の野盗がやってきたらどうすんだ。

　放置された武器で装備を固め、金品を周辺を襲うための資金にする。

　いいことなんてひとつもないじゃないか。

　あ、そうだ。ここに農場とつなぐトビラを設置しとくか。

　そうすりゃ誰かに占拠されても簡単にうばい返せるしな。

　行商の中継地点にするのもアリかもしれん。

　いや、まてよ。

　あえて野盗に占拠させるのも手か？

　タイミングをみて急襲。やつらが頑張って集めた富を根こそぎいただく的な。

　はっはっは。夢が広がるなー。