第二話 魔法が……
蜘蛛のような魔獣が、数十個の目でこちらを見ていた。
ジキジキジキ……
奇怪音を発しながら、鎌状の前足を口元でこすり合わせている。今すぐに襲ってくる様子はない。こちらの動向をうかがっているのだろう。
「ど、どうする?」
相手の強さが分からないので、敵意がないのなら逃げたいところではある。だが、相手は一匹。今のうちに洞窟にすむ魔獣の強さを知っておきたい思いもある。
「そんなの、倒すに決まってんだろ」
「そうね。いつでもいけるわ」
ラインとフレイが腕をならしながら前に出てくる。どうしてこの二人はこの状況で好戦的なんだ。まあでも古代龍より強いってことはないしな。とりあえず攻撃してみるか。
「二人とも、ちょっと待って。まず俺が上位魔法を撃つから、それが効くようなら倒す。効かないなら逃げよう」
「……分かったわ」
「初撃は譲ってやろう」
二人が後ろに下がったので、俺は右手を魔獣に向け、魔法の構築を始める。使う魔法は高水圧ビームだ。だが、なぜかいつもより構築に時間がかかる。
「よし、くらえ!!」
俺は、完成した高水圧ビームを撃とうとした。だが、
「え?」
手からはいつもの力強いスクリューは出ず、ただ水が蛇口のように流れるだけだった。
「なんで……もう一回!!」
だが、次も同じように水がながれるだけ。何度試しても、足元の水たまりが大きくなるだけだった。
「おい、ロエルどうした? 早く撃てよ」
後ろでラインが訝しんでいる。くそ、どうして発動しないんだ!
「だったら、火!」
魔法の種類が悪いのかと思い、熱線を出そうとした。だが手の前が一瞬光っただけだった。
「土!」
石弾を撃とうとした。足元に土が積もる。
「風!」
何も起こらなかった。
どうして魔法が撃てない? どうして、どうしてどうしてどうして!
「危ない!」
突然体に衝撃が走り、突き飛ばされた。体の上にラインが乗っている。フレイが駆け寄ってきて、倒れている俺たちの前に立った。魔獣に攻撃された、のか?
「おいロエル、どうしたんだよ!」
どうして……どうして……
俺の……魔法が……
「魔法が……撃てない」
「魔法が撃てない? さっき水だしてたじゃねえか。まあいい。不調なら今は逃げるぞ!」
「私が殿をやるわ」
俺たちは魔獣に背を向けて全力で逃げた。幸い魔獣は俺たちにあまり興味がなかったようで、しつこく追っては来なかった。
________
「これくらい逃げれば大丈夫そうね」
俺たちは洞窟の壁に背を預けて休んだ。背中に伝わるひんやりとした感覚が、俺の頭を冷やしてくれる。
「ふう……ロエル、本当にどうしたんだよ」
どうして……どうして魔法は発動しなかったんだ? ……いや、本当に魔法は発動しなかったのか? ラインも言ったように水の生成はうまくいった。俺が魔法を使えなくなったわけではない。となると、あの魔獣が何かしたか、別の何かか……。とにかく外的要因があるはずだ。
「おーい、ロエルー」
あ、そういえば、魔法が阻害される土地があるんだっけな。たしか家にあった本に書いてあったはず。俺たちはそういう土地に転移したのか? 魔法はどこまで阻害されるのだろうか。原因が土地にあるというのなら、体内なら使えるかも。
「ロエルー、返事しろー」
俺は速度強化を試してみた。魔力が動かしにくく、構築に時間がかかってしまったが、なんとか完成した。速度強化は……発動した。試しにだしたパンチのスピードには、確実に速度強化がかかっていた。
「うわ! 急に動くなよ!」
体内なら多少阻害されるが魔法が使えるようだ。となると回復魔法とかもいけるだろう。よかったーー。俺はまだ魔法を使える。でも、攻撃魔法はほとんど封じられてしまうな。もう一度高水圧ビームを撃とうとしても、やはり水たまりになるだけだった。
「ロエル、気でもふれたか?」
「やめなさいライン、ロエルにもそういう時もあるわよ」
あれ? でもこの感じ、前にも味わったことがあるような……は! 師匠の龍闘神気だ! この洞窟には、あれと似たようなものが漂っているのか?
「二人とも」
「あ、やっとしゃべった」
「この洞窟では俺の魔法は攻撃手段として役にたたないみたいだ。なんか師匠の龍闘神気みたいなのがあって魔法が阻害されている」
「なるほど……じゃあこの俺が攻撃担当になるしかないな」
ラインがニヤニヤしながら指を鳴らした。
「いや、なんでちょっとうれしそうなんだよ。つーかそもそも武器もないのにどうやって攻撃するんだ」
「武器なんてお前が魔石で……あ、それができないのか」
はあ~~。しかし、本当に攻撃手段はどうしよう。いっそそこらの石で武器を作ってしまうか? でも、そんなのが魔獣にとおるとは思えないしな。う~~む、体内に魔石で作って吐き出すか? いや、グロいし、痛そうだし、たいしたものも作れなさそうだ。
「せめてどこかで自由に魔法を使えれば……」
「ねえ、ロエルの言う通り父様のあれみたいなので魔法が阻害されているなら、魔法が使える場所、探せるかもしれないわ」
「え?」
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