第十六話 研究と妹誕生
師匠との別れから何日か経った。
俺は六歳になり、剣の訓練の時間が短くなってしまったため、空いた時間で俺は転移魔法陣の研究を進めていた。
俺は今、地下研究所に籠っている。
今日は雨が降っているため、イアは来ていない。
一人で机の上に置かれた魔法陣が描かれた紙とにらめっこしていた。
しかし、転移魔法はやっぱり難しい。全然案がでてこない。領主様の屋敷で本を借りて調べてみたりもしたが、過去の成功例がないことぐらいしか分からなかった。
完全に研究は行き詰っていた。
一旦研究の進捗状況を振り返ろう。
まず、俺は『魔法陣 基礎』に載っていた内容だけで作ろうとしたが、それでできるのはせいぜい大きな風で吹っ飛ばすぐらいだという結論に達したので諦めた。
次に俺は、領主様の屋敷での訓練の合間に、領主様に本を借りて、調べてみた。
そこで俺は、召喚魔法陣というものを知った。
世界のどこかから対象物をもってくることができるのだ。
これはつまり、召喚された側からしたら完全に転移だ。
これを改造すれば転移魔法陣になるのではと思い、これを参考にすることにした。
だが、ここでも問題があった。
召喚魔法陣で持ってこれるのは魔獣などの魔力で構築されたものだけなのだ。
これには理由がある。
どうもこの魔法陣、対象物を一度魔力にしてから移動させて再構築しているようなのだ。
なるほどこれでは人は対象にできないだろう。
できたとしても一度魔力にするという以上倫理的に問題がある。
だが、得られたこともあった。
魔力にしてからといっても、その魔力を移動させる方法が存在しているのだ。
どうやら極小の空間の裂け目みたいなのを作ってそこを通しているらしい。
つまり、この裂け目を大きくできれば人も通れるのではと俺は考えた。
ということで、俺はその線で研究を進めることにし、今に至る。
裂け目を作ることには成功した。
まあこれはほとんど召喚魔法陣からそのままもってこれるので簡単だった。
サイズも大きくできた。消費魔力はとんでもないことになったが。
イアでも起動できなかったので少なくとも上位魔法数百発分は使うことになる。
俺は時間はかかったけど普通に起動できた。本当に俺の魔力総量は底が見えない。
問題は、転移先を指定できないのだ。
召喚魔法陣では、裂け目に入った魔力を呪いをかけるときとかにつかう魔法で特定し、魔力を吸収する感じで魔力を誘導することで転移先を指定していた。
そのため、魔力しか誘導できないので人体はどこに行くか分からないのだ。
一応使用魔力量を調整すればある程度の距離は決められるが、どこに転移するかは分からない。
実験的に小さな石とかを転移させてみたら、地面の中に入ってしまったり、上空に出ちゃったりしてしまっていた。
これでは危険すぎて人には到底使用できない。
ということで、今俺は、転移先を指定する方法に頭を悩ませていたのだった。
ドンッ!
突然上で何かが倒れる音がした。
ダラスが何かしているのだろうか。
最近はセーラの出産がちかいということで、ダラスが家にいることが多い。
「ロエル! どこにいるんだ! ちょっと来てくれ!」
ダラスの俺を呼ぶ声が聞こえた。
なにかまずいことでも起きたのだろう。
俺はダラスにばれないように、俺の部屋と地下をつなぐ通路から慎重に出た。
そして、ダラスとセーラがいるであろうリビングに向かう。
リビングに到着すると、そこではセーラが倒れていた。
さっきの音はセーラが倒れる音だったのだ。
近くでダラスがあたふたしている。
「母さん!? 大丈夫ですか!?」
俺はすぐにセーラに駆け寄ってとりあえず上位回復魔法をかけた。
「う……大丈夫よ。ちょっとお腹が痛いだけ」
なるほど、これはもしや陣痛か?
ということはもうすぐ赤ちゃんが産まれるかもしれない。
「ロエル、もうすぐ弟か妹が産まれるぞ。俺はセーラをベットまで運ぶからその間にちょっと隣のヘルダさんを呼んできてくれ」
さすが二回目。ダラスは落ち着いている。
ヘルダさんとは、隣に住んでるおばちゃんで、七人も子供を産んでいるベテランママだ。
結構セーラの出産について相談にのってもらっているらしく、俺を産む際にも助けてもらったようだ。
今回も助ける気満々でいるらしく、出産のときが来たらぜひ呼んでくれと言われていた。
すごくありがたい話だ。
俺がヘルダさんを呼んできた後、すぐに出産が始まった。
セーラが大量の汗をかきながらがんばっている。
俺はダラスとその手をにぎりしめて回復魔法をかけまくるくらいしかできない。
やがて、頭がでてきた。
ヘルダさんのサポートのもと、赤ちゃんがその身をあらわにしていく。
「よく頑張りました。元気な女の子ですよ」
俺の妹が誕生した。
髪の毛の色はダラスに似て金色。
目の色は俺と同じくセーラに似たサファイアのような青だった。
「よくやった、セーラ」
「俺に妹ができたんですね」
こうして、出産という我が家の一大イベントが終了した。
妹は、リリメラと名付けられた。
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