第22話 勧誘指令

「ちょっと待ちなさい!」


 退室しようとする俺を、生徒会長の舘林さんが力強く呼び止める。


「一体何が不満なの?」


「何がって……不満しかないでしょう」


「生徒会運営の為に、優秀な人材を選定することが不満な訳?」


「そうじゃなくて……俺が気に食わないのは、奴よりも数倍優秀な人材がいるにもかかわらず、そこを見誤っている点です」


「へぇ、南田君より優秀な人物? どこ? どこにいるの?」


 わざとらしくあたりをキョロキョロする舘林さん。すっとぼけてんのか、それとも天然なのか? いまさら「俺でしょうが!」なんて名乗りを上げるのもおこがましい。


「もしかして自分が勧誘されるとでも思ってた?」


 なんて考えを巡らせている途端、不意に図星をつかれる。


「わ、悪いですか? 普通、生徒会から呼び出しがあれば誰でもそう思うでしょう」


「誰でもそう思わないわよ。噂通りの自信過剰ね」


 イラッ……ついつい怒号を上げそうになる。だが待て、この悪い癖のおかげで痛い目を見たばかりではないか。落ち着け、落ち着くのだ。


「とにかくお断りさせていただきます。第一、なんで俺がそんな骨が折れるような真似を」


「そうそう、そういえば書記と会計のポジションも空いてるのよね。見返りとしてどちらかの役職を与えるってのはどう?」


「は? 馬鹿にしてんですか? なんで奴より下のポジションが見返りなどと」


「聞くところによると、あなた一流大学を目指してるそうじゃない。生徒会業務ほど内申に有利な実績はないと思うけど」


「百も承知です。だけど、それをあえて避けて努力してるんだ。理解したら邪魔立てはやめてもらいたい」


「その考えこそ理解できないわね。生徒会に魅力を感じたからこそおもむいたのでしょう?」


「ちがう、最初から断るつもりだったんです」


「ふ~ん、そうやって逃げ道を作るのね」


「そ、そうではない!」


「ダメだった時の言い訳ばかり。そんな人間は勉強も満足にできません」


 挑発気味な笑顔を向ける生徒会長に、悔しいが言い返す言葉が見当たらない。なんせ現状として学力は下降の一途なのだから。


「わかりました。なら証明して見せればいいんでしょう」


「ほぅ、何を? どのようにして?」


「奴を生徒会に勧誘するくらい造作もない。俺の優秀さが自信過剰じゃないってところを見せてやる」


「期待しているわ♪」


♢♢♢


 生徒会室をあとにした俺はかなり後悔していた。

 啖呵たんかを切ってしまったことだけじゃない。まんまと向こうの術中にはまっていたことだ。もっといい対処方法があったはず……なのに、結局はうまいこと勧誘係を押し付けられてしまった。なんだか負けた気分だ。


(生徒会長はなにゆえ、俺より南田を選んだのか)


 ただ、その点だけはどうにもひっかかる。

 結局、その心地悪さをぬぐえぬままその日は過ぎていった。

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