第87話


「へっへっへ……悪いけどそれはできねえな。 なんだったらグレイに助けを求めてもいいんだぜ? 出来るものならなぁ」


「ああ、あの野郎ごと殺してやるからよぉ」


 男たちはニヤニヤと厭らしい笑みを浮かべながら戦闘態勢をとる。


(やっぱり駄目か……相手は6人。僕一人では厳しい……でも、負ける訳にはいかない)


 アレスは弱気な自分に活を入れ、男たちを鋭い目つきで睨みながらショートソードを抜いて構える。


「グレイさんは貴方たちのような下衆ゲスには負けませんよ」


 アレスから見て、目の前にいるバズや『迅雷』のメンバーがグレイより強いとはとても思えなかった。いや、6人居てもグレイどころか聖騎士ロンディと向かいあった時の方が遙かにプレッシャーを感じていた。


 聖騎士ロンディが生きていた頃に比べて今のアレスが肉体的、精神的に成長していることを踏まえても、だ。

 だが、だからといって6対1で勝てる保証はどこにもない。


「言ってくれんじゃねえか……楽に死ねると思うなよガキィ!」


 一触即発。どちらが先に斬りかかるか……そんな空気の中で慌てたようにバズが口を開く。


「ま、待て! このガキも無力化して生け捕りにしろ、絶対に殺すなよ!」


「ああ?! 何で……ってコイツ!」


 その言葉に対して『迅雷』のリーダーである男が不満げな声を上げた瞬間、それを好機と判断したアレスが一気に男たちの懐へと踏み込み、『迅雷』のメンバーの一人に斬りかかった。

 防御が間に合わず、胴を斬られた斥候スカウトが短い悲鳴をあげる。しかし、


(っ……駄目だ、浅いっ)


 アレスの斬撃は斥候スカウトに対し致命傷を与えるには至らなかった。もう少し踏み込んでいれば……と後悔するアレスに、仲間の一人を斬られた『迅雷』のリーダーが


「このガキィ!」


 と怒鳴り声をあげながら剣を振り下ろし、他のメンバーもそれに続く。


「お、おいお前ら!」


 その光景にバズが声を上げる。

 頭に血が上った『迅雷』のメンバーは、先ほどのバズの言葉を忘れ一撃一撃に殺意を込める。


「くっ……」


 アレスは攻撃を回避しながら反撃の隙を窺う

 。だが、攻撃に参加せずになにかを喚いてるバズと、先ほどアレスに斬られた斥候スカウトを除く4人の攻撃を避けるのに精一杯でそれも叶わない。


 そのうちにポーションで傷を癒した斥候スカウトが攻撃に加わり絶体絶命の状態になったタイミングで、バズが『迅雷』のメンバーを怒鳴りつける。


「お前たち止めろ! 生け捕りにしろと言っただろうが!」


「っせえなさっきから! なんであのガ……」


 バズの言葉に対し『迅雷』のリーダーである男が反論するも、その言葉を言い終わる前にバズが更に口を開く。


「あのガキは勇者だ。うまく転移のガキと一緒に本部に連れ帰ることが出来れば……」


「ゆ、勇者だぁ?」


 その言葉に『迅雷』の男たちが反応する。 


(この人、僕のことを知って……っ!)


 アレスは先ほどニナと会話していた男に自分が元勇者であることを知られていることに一瞬だけ動揺するも、目の前の男たちが今の会話で見せた隙を見逃すことはなかった。

 アレスは『迅雷』のリーダーに対してショートソードを振るう。


「っと、危ねぇ」


 だが、その一撃は届くことはなく、逆に『迅雷』のリーダーに拳で反撃されて後方へと吹き飛ばされる。


「うぐっ……」


 頬から汗を流し、苦しげな声をあげながらも、なんとか態勢を整えたアレス。


 身体的な能力はともかく、人数差と埋めようのない経験の差。


(せめて最初の不意打ちで一人でも倒せていたら……でも、引く訳にはいかない)


 アレスが腰を落とし、再び敵の懐へと踏み込もうとした瞬間、後ろの方から何処かで聞いた声がした。


「おい、こりゃ一体どういう状況だ?」



 _____



「……本当にこんなところに女神教の“本部“とやらがあるのだろうか?」


 そう言ってエミリアは広げた地図を難しい顔で見ている。

 その地図には、襲撃者どもから聞き出した奴らの“本部“があるという場所にペンで印が描かれていた。


「違ったらコイツらがもっと痛い目にあうだけだ」


 俺の言葉に襲撃者どもは、肩をビクリと震わせる。正直、この件は既に俺と無関係な依頼ではない。

 だが……それはそれとして、俺は早く家に帰ってニナ達を抱きしめたかった。



 __________


 更新止まっていてすいません。


 5月5日からこの作品のコミカライズが始まってます。そちらの方も是非宜しくお願いします。


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