第42話
「…おぉー…」
「うーん」
「え…と…」
現在リビングでは
ニナは頭の先から爪先までまじまじと見詰め、ステラは顎に人差し指を当てて難しい顔をしている。そしてラッツは顔を近づけスンスンと匂いを嗅いでいた。…犬っぽい(可愛い)
そして当のアレスは身を縮め困った顔をしている。時折助けを求めて俺の方を見るが、悪いとは思いつつ気付かない振りをした。
もう少しだけこの光景を眺めていたいんだ…すまん。
フィオは愛想良く挨拶はするが距離が遠い…と、いうか興味はないけど俺が連れてきたから仕方なく相手をしているような感じだ。
もしかしてフィオは身内以外には結構冷たいのかもしれない。
そして問題はイスカの方だ。
最初アレスとイスカは顔を合わせた瞬間、お互いに気まずそうに顔を反らした。それからもお互いに意識的に目を合わせないようにしている。
まあ無理に仲良くしろとは言えないが、この二人のは仲が悪いというより…。
しかもこの状態でアレスを依頼に連れて行って稽古もつけようとしてるからな。胃が痛い…が、アレスはおそらく孤児院の仲間が見つかればここから出ていくだろう。それを引き留めることも、一緒に行ってやることも出来ない。ならば俺にできることは限られた期間で出来るだけ力を付けさせることだ。
そんな短期間で何ができるのかと思うだろうが、アレスは剣を初めて握ってから僅か三ヶ月でストリアの騎士になら負けなかったらしいからな。勇者としての力なのか、アレス自身のポテンシャルなのか、もしくはその両方。
俺はそこに賭けることにした。
その為に先ずは…
「おとーしゃん!」
俺が考え事をしてる内にアレスの品定めが終わったのか、ニナに服をくいくい引っ張りながら呼ばれる。
「ん、どうしたんだ?」
「あのね、ニナね」
「うん」
「あれしゅのおねーしゃん!」
「うん?」
どういう意味だ? あれしゅ、がアレスなのはわかる。おねーしゃんがお姉さんなのもわかる。
だがニナが何を言ってるのかが分からない。
「あれしゅはニナのおとーと!」
「え」
因みに今の「え」はアレスの発言だ。
成る程。つまりニナが姉でアレスが弟ということか。…何で?
ニナが言うには自分の方がアレスより先にこの家に居たから姉で、後から来たからアレスは弟…と。そんなことをドヤ顔で言ってるニナ。
そうか、家族になった順番なのか…。
「わかった」
「え」
こうして我が家にアレスを迎えるにあたり、子供達の新しい側面を知った。
フィオやアリアメルは心を許してない相手には意外とドライな所がある。
イスカは元々そんなに喋る方ではないが、よく知らない人が居る所では更に口数が減る。
ステラとラッツも誰にでも懐く訳ではないらしく、アレスから興味を失ったのか二人共俺の左右の膝に座ってお茶菓子をぱくぱくしてる。
ニナは手に持ったお菓子をアレスにあげようか真剣な顔でうんうん唸っている。……あ、自分で食べた。
ニナ以外アレスに対してちょっと冷たいのはどうして…初対面だしこんなものなのだろうか…?
顔合わせが終わりアレスの部屋を決めることに。
「端っこって凄く落ち着くんです」
「そ、そうか…」
アレスは部屋を決める際、恥ずかしそうにそう言ってフィオの部屋から二部屋離れた角部屋を選んだ。一瞬フィオに遠慮したのかと思ったら全然違った。…神託の勇者…。
「少しいいか?」
「え? あ、はい!」
荷物を部屋へと運び終えてひと息ついていたアレスを庭へ連れ出す。
「受け取れ」
そう言って練習用の木剣を投げ渡す。
アレスは投げられた木剣を空中でキャッチして此方を見る。
「稽古をつけてやる。構えろ」
「……はい」
予想はしていたのだろう、戸惑うことなくアレスは正眼の構えをとる。その視線は真剣そのものであり、先程のおどおどした感じは微塵もない。
「遠慮は要らん全力でこい」
先ずはアレスの現在の実力を見極める。
いつか現れるかもしれない魔王。そんなのと戦う運命にある
簡単だ、ただ戦う術を出来るだけ身に付けさせるだけ。俺が冒険者として培った技、持っていけるだけ持っていくといい。
だが聖女だろうが何だろうが絶対にアリアメルを連れてはいかせん。
――――――――――
アリアメルは過去に色々あった為同年代の異性が苦手な所がある。(家族は別)
あとこれは稽古だからスタンバイしても飛びません。
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