幕間 少年の見た背中③
「はっ、まさかまたここに盗賊が住み着くとはなぁ。マジで
尻餅をついて自分を見上げていた盗賊の首を刎ねたグレイは、ゴミを見るような視線を盗賊の死体に向けるとそのまま洞窟の中へと歩いて行った。
洞窟の中ではまだ盗賊達が酒盛りをしていた。
「あ? そういやガキ一人捕まえらんねぇアホはどうした?」
「さあな、便所じゃねーか?」
「ギャハハハ! あんま言ってやんなよ。ほら、帰ってきたぞ。おい、いい加減に機嫌直し……」
足音がしたので仲間が戻ってきたのかと思い部屋の入り口に盗賊達の視線が集中する。
「汚えし臭いなおい。これじゃゴブリンの巣穴と大して変わんねえぜ」
しかしそこに立っていたのは筋骨隆々の見知らぬ男。先ほどまでの弛緩した雰囲気から一転、盗賊達は直ぐに立ち上がり武器を構える。
「いきなりご挨拶じゃねえか、なにもんだお前。冒険者や兵士にゃ見えねえ、同業者か?」
盗賊団のリーダーの男がファルシオンを構えながらグレイに対しそう言う。
「……あ? どっからどう見ても冒険者だろうが、テメェの目は節穴か?」
盗賊から盗賊扱いを受けたグレイは眉間に皺を寄せてリーダーの男を睨む。
「…冒険者だぁ? 何でこの場所がわかった?」
平静を装ってはいるが盗賊のリーダーは内心かなり焦っていた。
(くそっ…誰の依頼かは気になるが正直心当たりが多すぎる。そんなことよりこの
まさか冒険者に依頼をしたのが、自分の部下が逃がしてしまった少年だとは夢にも思ってはいない。そして彼はまだこの冒険者を片付けてさっさと逃げれば何とかなると思っていた。
「何でって…前にココに住み着いてた
「……ふん。前にここにいた奴等が何人いたかは知らねーがこの人数相手に一人でどうこうできると思ってんのか? どうせ金に目が眩んで討伐依頼を引き受けたんだろうが直ぐに後悔させてやるよ…大人しく薬草でも毟ってれば良かったってなぁ!」
「あぁ? テメェふざけてんのかよ、薬草一束以下の価値しかねえくせに」
「あ?」
グレイの言葉に盗賊達怪訝なそうな表情を浮かべる。
「知ってるか? 薬草採集は歩合制だ、薬草を集めただけギルドに買いとってもらえる。因みに薬草は一本につき銅貨1枚」
「何が言いたい?」
「テメェ等の
「ふざけんなよコイツ!」
「舐めやがってぶっ殺す!」
この言葉に激昂した盗賊達がグレイに襲いかかる。
「お喋りは終いだ。お前等もあの時の
その瞬間、盗賊達の足元から石でできた小さな槍が何本も伸びて脹脛や太ももを貫通しその場に固定する。リーダーを含め何人かは逃れたようだが、足を貫かれた者達は痛みに叫ぶも移動することも倒れることも叶わない。
「チッ…避けんなよ面倒くせえ」
「魔法?! コイツ魔法使いか?!」
心底面倒臭そうな顔をするグレイに対し、
「魔法使いは剣なんざ振り回さねえだろ」
そう言いながら近くに居た動けない盗賊の首を刎ねる。
「まず1つ」
グレイがまた別の盗賊に向かって剣を振る。盗賊は手に持っていた剣でそれを防ごうとするが、ろくに手入れもされていない盗賊の剣はあっさりと折れ、無防備な首を晒す。
「そんっ…」
「二つ」
盗賊達の悲鳴と命乞いの声で地獄と化したこの部屋でグレイが数字を数える声だけがやたら大きく聞こえた。こうして二十四を数えると、この部屋の中で生きてるのはグレイと盗賊のリーダーだけになった。
(はあ…はあ…な、な、なんだ? なんなんだこいつ?!)
盗賊のリーダーはほとんど動いていないにも係わらず肩で息をし、目は恐怖で焦点が定まっていない。
ゆっくりと近寄ってくる男には同情も取り引きも一切が通用しない、目の前でそれを嫌というほど見せられた。
だが、それでも。
「し、死にたく…な、ない…待ってく…」
「二十五」
盗賊のリーダーが最期に発した言葉はやはりただの命乞いだった。
こうしてグレイは奥の部屋で縄で縛られている乗合馬車の乗客達を発見し助けだす。大した怪我をしているものも居らず、当然少年の家族も無事だった。
この部屋の前にも見張りは居たが仲間の悲鳴を聞いて中央の大部屋へ様子を見に行き、中の惨状を見て逃亡を図ろうとするも運悪くグレイと目が合い、武器を構える間もなく「十六」という言葉とともに首を刎ねられていた。
こうしてこの洞窟に住み着いていた盗賊達は、一人の少年を逃してまった為に壊滅することになる。
あの後、少年の家族を含めた乗客達に物凄く感謝され、依頼を出したのは少年だから感謝は少年にしろとグレイは言った。
バストークに戻り少年とその家族が泣きながら抱き合ってる姿を少しだけ眩しそうに見詰め、カウンターで依頼の達成報告をし、報酬の銅貨6枚を受け取りギルドを出ようとすると少年が近づいてくる。その顔には最初会った時の怯えは一切感じられない、むしろ何処か憧れのようなものすら感じられる。
「あのっ…おじちゃん」
「何だ?」
「おとーさんとおかーさんとお姉ちゃんを助けてくれてありがとう!」
グレイはその感謝の言葉に
「ああ」
と短く返す。
「…この街の祭りは明後日までやってる、楽しんでいきな」
そう言って少年の頭を軽く撫でてから今度こそ冒険者ギルドから出ていった。
その背中を見詰める少年はこの時、自分も大きくなったら冒険者になろうと心に決める。
そんな少年が将来有名な冒険者になるのはまた別の話である。
――――――――――
感染した…ともいう。
次回からまた通常の話に戻ります。
少しだけ穏やかな日々(Inアレス)
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