第35話
(第三者視点)
「……チィ!」
ロンディはプライドと性欲の塊のような男だが、ストリア聖国の聖騎士の中でも実力は上の方である。
自分の力に自信があり、冒険者なんて瞬殺できると思っていたのに、目の前の
(クソが! 一撃一撃がやたら早いし重い…コイツ本当にただの冒険者か?!)
つい先程までの余裕はなくなり、なんとか一度距離をとろうとするもうまくいかない。
「ロンディ貴様、でかい口を叩いといて何をしてるのですか! さっさとその男を殺しなさい!」
押されている聖騎士を見て焦った司教が大声で叫ぶ。この冒険者はロンディを殺したら次は間違いなく自分を殺そうとするだろう。
勇者は役に立たないし、このままでは…。
「うる…せえな! 黙らねえとテメェから殺すぞ!」
「…なっ?!」
今のロンディからすれば、偉そうに声を張り上げるだけの司教は邪魔なだけの存在である。
しかも……。
「テメェも! さっきから…どこ…狙ってやがる!」
「あぁ? 性犯罪者は去勢すべきだろ、なあ!」
そう言った
「ふざ…けんなこのイカれ野郎がぁ!」
ロンディはこれ以上この頭のおかしな男に付き合ってられないと全力で押し返す。
「む…」
後方へふきとばされたグレイが驚きの表情を浮かべる。身体強化の魔法を使った状態で押し負けるとは思っていなかったのだ。
しかし男の尊厳のピンチにロンディも必死である。
「くたばれイカれ野郎!」
ロンディは距離がまだ離れている状態で居合いのようなポーズをとる。
それは努力を嫌い、折角あった才能を中途半端にしか咲かせれなかったロンディが習得できた唯一の
(まさかこんな所でこれを使うことになるなんて……野郎絶対殺す! 聖女もコイツの死体の前でさんざんヤッてやる!)
「奥義・雲隠れのぜ……あ?」
その時ロンディは下半身に何か違和感を感じ、それを確認するために視線を下へと向ける。
違和感の正体は直ぐにわかった。
彼の男としての象徴があるはずの所に矢が突き刺さっていた。
そのことを理解して叫ぼうとした瞬間、剣を振る冒険者が視界に映った。
一人の聖騎士の人生が今ここで終わった。
彼は傲慢で、粗野で、力強い男だった。ただそれはあくまでも”聖騎士”として。
(まさかあんな堂々と隙だらけの技を撃とうとするとは…)
グレイからすればロンディの股間に矢が突き刺さるのを見て、驚きで踏み込みが遅れたぐらいである。
「ひっ…ひいぃぃ」
情けない悲鳴を聞いてグレイはそちらに目を向ける。
声の主である司教の足元には元聖騎士の首が転がっていた。
司教は治癒魔法に関してはエキスパートである。ある程度の怪我なら直ぐに治せるし、条件つきだが欠損した部位だって治せる。
だが死んだ人間はどうにもならない。
聖騎士が勝てない相手に残った二人の騎士では手も足もでないだろう。勇者に関しても普通の騎士より強くても聖騎士にはまだ勝てないと報告を受けているし、気を失っているのか今も倒れたまま動かない。
迂闊だった。こんなことなら功を焦らず勇者が育つまで待つか、国同士に交渉させて正式に迎えを寄越すべきだった。そうすればこの男だって…。
後悔は先に立たない。そんな簡単なことを司教はようやく知る。
その命を対価に。
「グレイお待たせ。終わったよ」
手に大きな弓を持ったハルサリアがグレイに話かける。
「ああ、ご苦労さん。助かった」
腰を抜かした司教を上から見下すグレイ。
普段の司教ならば「冒険者ごときが!」と怒っていたであろう。だが今の司教にあるのは
どうすれば助かるのか?
ただそれだけだった。
「待たせたな。ちゃんと神様へのお祈りは済ませたか? んだよその面は、これからお前達の大好きな神様の所へ逝けるんだ、もっと嬉しそうにしろよ」
――――――――――
グレイ「もういい死ね」(こんばんわ、良い月夜ですね(誤訳))
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