『追跡劇』②

 「手荒な真似をして、ごめんなさい。ですが、署には医務室もありますから」


 氷の冷徹さから一転し、静穏な表情を浮かべる蛍。

 まるで普通の穏やかな少女に気を遣われたように妙な感覚に見舞われた石井。

 一方、蛍は丁寧な口調のまま淡い微笑みすら浮かべる。


 「では、我々と一緒に署まで行きましょう? 不満は署でも聞きます。ご飯も、中々悪くないですよ」


 さすがの石井も蛍に圧倒されながらも、すっかり毒気を抜かれたらしい。戦意喪失で大人しくなった石井を刑事官達も慌てて取り押さえると、<ruby>警察車<パトカーまで連行した。


 「おい! 大丈夫か、蛍!」

 「見ての通り。今はまだ勤務中ですよ、藤堂刑事官?」


  "待て”状態で見守っていた光は真っ先に蛍のもとへ駆けつけた。

 慌てている様子の光を蛍は苦笑と共に宥める。

 対照的に、黒沢は愛用の電子タバコをくわえながら光を揶揄おうとする。


 「ったく、相変わらず心配性だな、光。蛍の強さはお前が誰よりも知っているだろ? まあ、お前のいいとこだけどな」

 「心配するのは当然だ。たとえ強くても蛍は女だ。男に襲われたら危険なことに変わりない」

 「だから男のお前が守ってやらねーと、ってか? 熱いねえ、光ちゃん」

 「口を慎めと言っているだろ。それに、ちゃんづけはやめろ。気色悪い」

 「そうですか? 光ちゃん、も可愛くて私はいいと思いますけど」

 「「本気マジか」」


 たとえ勤務中でも蛍を常に心配し、そこを指摘されるとバツが悪そうにする光。

 そんな光の優しさから感じる愛情と照れ隠しに、蛍はまた困ったように瞳を細めた。

 氷のように冷徹な雰囲気から一転し、親しい者に向ける柔らかな微笑み。

 しかも天然なのか、黒沢の茶化しに冗談みたいな返答を真面目に零す様子も、雪のように周りを和ませる。

 光も溜息を吐いているが、頬を微かに染めて満更ではなさそうだ。

 黒沢に至っては、二人の態度がどこかしらツボにはまったらしく、終いには腹を抱え込んでいた。

 バツの悪そうな光と黒沢の爆笑に蛍は首を傾げるが、気にせず彼らとの談話に興じた。


 「本当にすげぇな、櫻井先輩。男相手に一人で瞬殺だぜ」


 一方、三人を観察していた後輩刑事官達は感服した様子で語り合う。

 数秒で被疑者を制圧した蛍の戦いぶりは一枚の写真となって、彼らの記憶にも鮮烈に焼き付いていた。


 「香坂刑事官は初めて見たんだっけ。櫻井先輩の格闘技十八番……

“キックボクシング“よ」


 旧時代に日昇国が独自で発展させた、足技を中心とする格闘技の一種。

 源流はムエタイと呼ばれるタイ式のボクシング。

 ただし、日昇国式キックボクシングでは、他の競技で禁止手とされる膝蹴りや首相撲、下段回し蹴りローキック 等が認められている点がムエタイとの違いだ。

 応用次第では相手の命すら奪う危険を伴う技だ。

 しかし蛍は絶妙な力加減で行使し、相手への配慮と敬意は欠かさない。

 蛍にとってキックボクシングは、あくまで犯罪の暴力から誰かを守るための一手段に過ぎない。

 警察学校時代から、蛍は己の肉体を堅実に鍛えてきた。

 徹底した強さをもって、蛍は犯罪関係者を必要に応じて制圧し、一般市民を守り続けてきた。

 氷のように強靭で美しい脚力。冷凛とした雰囲気に、時折慈悲を香らせる柔らかさ。


 故に蛍は、ルーナ警察署では「氷の戦女神」の異名で称えられている。


 霜月班を率いる蛍の傍には、正義感に厚い誠実で勤勉な光・藤堂、野性の五感と直感を誇る果敢な弓弦・黒沢も付いている。

 天賦の才を備えた刑事官二人、と彼らを支える刑事官、“最強の三人“がいれば難事件も百人力だ、と刑事部内でも一目置かれている。


 「さて! 私達も早く先輩達に続かなきゃ!」


 かくして、猟奇殺人事件の一人目の容疑者の身柄を無事に確保した蛍達は、ルーナ警察署へ帰還した。


 *

 幻想色に霞む秋月が、人の喧騒と電子音楽で賑わう中心街を照らす深夜。

 今日の職務を終えて帰宅した蛍と光は、遅めの夕食を取っていた。

 経済低迷期の時代、長時間労働者の健康的睡眠を確保する一環として、各区の自治体が支給する宅配簡易食が市民の主食となった。

 しかし、蛍にとっては料理そのものが息抜きの趣味だ。

 多忙と疲労が重ならない限り、夜の食卓には手料理が並ぶ。

 光自身も、宅配食にはない美味な手料理を心待ちにしてくれるため、蛍も俄然意欲が湧く。

 空になった食器を片付けている蛍は、光にシャワーを先に浴びるよう勧める。


 「大丈夫か? 蛍」

 「私はいつも通り大丈夫よ? どうかした?」

 「いや、その……」


 自分から切り出したわりにどこか歯切れの悪い光。

 元々、彼の真面目でぶっきらぼうな性格をよく把握しているつもりだ。何だか気になった蛍は手を止めて光と向き合う。


 「ふふふっ。仕事では真面目でハッキリした物言いするけど、私と話す時は口下手になる所、あなたらしいわ。何か心配事でも?」


 光を揶揄うようにクスクスと可憐な笑みを零す。

 しかし、返事に困窮している光を映す瞳も、彼の言葉を落ち着いて待つ態度も優しさに満ちている。

 警察官としての冷徹さは影を潜め、今は少女のように無垢な笑顔を咲かせている。

 自宅で二人きりの時にしか見られない"素の蛍"の姿は、自分だけのもの。

 仄暗い熱が渦巻くような愛しさに胸が甘く満たされる一方、片隅に浮かぶ一抹の不安。

 逡巡の沈黙を流すこと数秒後、光は一つの疑念を打ち明けた。


 「蛍。佐々木被害者の現場で、何かあったのか」

 「何のこと?」

 「俺の目を誤魔化せると思うな」


 第二事件の現場確認をした時から、正直光は居ても立っても居られなかった。

 勤務中の蛍は氷人形のように職務と命令を冷徹、合理的に遂行する所は高く評価されている。

 反面、責任と重圧を負ってばかりの心を他者に見せず、気がかりな事は確信を得るまでは独りで背負い込む。

 仕事をそつなくこなす器用さ、それで今まで立ち回れた実績も災いして身に付いた蛍の数少ない欠点。

 故に時折、率先して無茶を働く蛍を同僚として頼もしく思う反面、常に心配で気苦労が止まない光だ。


 「お前は悩んでいる時こそ、普段よりも異様に冷静になる。付き合い始めてから一年しか経ってない俺が言うのも何だが、蛍のことは見てきているつもりだ」


 今日だって、被疑者の気配を感知した時点で、逃亡を防ぐために蛍一人で真っ先に駆け付けた。

 身柄確保に素早く確実である一方、危険を伴う行動だ。

 ただそれだけなら普段と変わりないが、今の蛍は"わだかまり"を独りで抱え込んでいる気がする。

 それも、光にすら想像に及ばない、“何か“暗くて深い、おぞましいものについて。


 「……ふふっ。やっぱり光には、敵わないわ。いつも私のこと、そんなに見つめてくれたのね」

 「馬鹿っ。変な意味で言っているんじゃなくてだな」


 一方、光の唐突な問いに蛍は思わず穏やかな笑みを零した。

 相手の浮気をさりげなく問い詰めるのと似たぶっきらぼうな声色。

 けれど、蛍だけを映す瞳は太陽のように温かくて、光の真摯な愛情が灯っている。

 光をよく知らない相手には、生真面目でぶっきらぼうな物言いが近寄りがたい、としばしば誤解されることも。

 しかし、不機嫌そうに“見えるだけ“の光の言葉へ耳を澄ませば、彼自身の誠意と思いやりは確かに伝わってくるのだ。

 取り繕う器用さも、嘘で誤魔化す狡知さとも無縁の、実直な情熱と優しさが、蛍には何より愛おしかった。

 光の不器用な愛情をもっと感じてみたい、照れくさいほど嬉しいとい気持ちから、蛍はあえて揶揄ってしまうことも。


 「もしかして、佐々木所長の遺体に刻まれた『怪文書』――気になっているのか」


 そんな無邪気な質問返しを零す蛍に、光は甘い感情を伴う悔しさに駆られる。

 普段なら惚れた弱みを発揮しそうだが、今回はそうはいかない光の本気を察した蛍も、ようやく微笑みを消して本題に入った。


 「ええ。実は私、子どもの頃に本で読んだことがあって、知っているの」


 遺体の背中に彫られていた、或る有名な哲学の言葉。

 胸の深淵を覗き込まれるような侵蝕感や不安、ざわめきへ無性に駆り立てる呪文のような。


 『深淵をのぞきこむ者は、深淵からものぞきこまれているのだ』


 十九世紀の著名な哲学者・フリードリヒ・ニーチェが、著書・『善悪の彼岸』で記した言葉。

 強者を徹底的に排斥することで成立させる「平等という名の救済」を謳い縋る弱者の嫉妬・怨恨ルサンチマン

 それは、歪な正しさと平等を強要し、人間らしい向上心を奪う宗教がもたらした負の状態である、とニーチェは非難した。

 生産性と効率性、合理性を重んじる時代では、空腹や財布を満たすことのない哲学と文学を放棄しがちになっている現代人。

 人間の生死や魂の次元を思考追求を嗜む人間は「絶滅危惧種化」している空虚な時勢に、わざわざ哲学文章を残した犯人の意図は不透明だ。

 単にインテリぶりたい犯人の自己顕示欲による悪戯。もしくは意味不明な怪文で警察を困惑させて嘲笑うくだらない作戦だ、と刑事部ではあまり重要視されていない。

 しかし、蛍唯一人はニーチェの引用文にこそ真犯人の正体と動機を解く鍵があると推測している。

 ニーチェの引用文にこだわるのには理由がある。蛍にとってひどく懐かしい文章を読んだ瞬間、脳裏で鮮烈に閃いたものがある。


 ――蛍――


 純氷さながら冷たく透き通った声が蛍を優しく呼ぶ。

 雪に咲く花のような微笑み。

 古紙に記されたニーチェの文字をなぞる白磁のような指先。

 久遠の過去に葬られたはずの存在が今、蛍の耳元で囁いた――。

 そんな奇妙な感覚に一瞬だけ眩暈を覚えた。


 「なあ……蛍から見て、石井被疑者はどう思う?」


 刹那、蛍が遠い瞳をしていたことに心配したのだろう。

 事件の話題をさりげなく移した光の問いかけに、蛍の意識は現実へ戻った。


 「あくまで俺の主観に過ぎないが、石井があの残忍な事件を起こした快楽殺人鬼には、正直思えないんだ」


 ルーナ警察署での石井は今までとら打って変わり、気弱で従順な様子を見せた。

 ただ、暗い絶望に凍結した目付きと共に「俺は何も悪くない……あいつが悪いんだ……。あいつが、俺の……殺したのは、俺じゃない……」、と自己弁護と佐々木への憎悪を滅裂に繰り返した。

 結局、佐々木殺害の真偽や動機について決して口を割らなかった。

 まるで目に見えぬ亡霊に怯えるように。

 今は取り調べの可能な精神状態ではない、と判断された石井は署内の留置所に一時身柄を拘束されることになった。

 安全性に特化した人工知能を搭載した厳重な監視と警備システムの下で。

 収容室は窓も扉も全てが機械の壁に閉ざされ、警察証と面会許可番号がなければ解錠不能だ。

 今頃は暗い部屋で恐怖の夜を独り過ごしている石井の心境を想像しながら、蛍は何気なく答える。


 「光もそう思う? 人は見かけによらないけれど、私も何か引っかかるものを感じているの。石井が事件に関与していることは間違いないと思うけど」

 「、か?」


 純粋に心配する真摯な声と眼差しに、蛍は一瞬息を呑んだ。

 蛍自身も自覚していない、胸の奥深くに眠っていた"何か"が波紋をあげた気配。

 それは当たらずとも遠からず今回の事件と関係し、蛍の核心へ触れる"謎"であることに、光は薄々勘づいている。

 しかし、珍しく口を噤む蛍の顔に沈痛な色が浮かんだのも、光は見逃さなかった。


 「悪い、蛍。お前が話したくないのなら、無理にとは言わない」


 寒空に独り晒された幼子のような心細げな眼差しに、光はそれ以上の追求を止めて蛍を慰めたくなった。

 出逢った時から、いつもそう。

 光は私のことをちゃんと見てくれている。

 冷徹非情な警察官の仮面に隠れた、一人のちっぽけな女に過ぎない私の心の薄氷。

 光は触れようとしても決して土足で踏み込んではこない。

 植木鉢から庇ってくれた時もそうだが、自分よりも他人の心の機微や痛みに誰よりも敏感でおもんばかる、どこまでも優しい男性。

 真夏の太陽を彷彿させる優しさは、冬のように冷徹な蛍の仮面も心も温かく融かす。

 光の前でなら当たり前の日常に悩み笑う、一人の普通の人間でいられる。


 「ごめんなさい、光」


 ただし未だ、胸の最奥で暗く渦巻く疑念と向き合い、言語化する勇気すら、今の蛍にはなかった。

 ニーチェの『善悪の彼岸』は、蛍の義兄が愛読していた本。

 蛍の義兄は、流行から古典に至るあらゆる文学作品や心理学関係の書物に造詣が深かった。

 義兄の愛読書から引用された文が遺体に刻まれていたことは、単なる偶然の一致と呼ぶべきか。

 時間のある時に『』へ意見を伺えば何か判明するかもしれない、と。

 凄惨な事件にかつての身内が巻き込まれた可能性と不安を思う自分は果たして冷静なのか、と。

 突如、義兄の存在を思い出してから、蛍は自分がただの非力な少女に逆戻りしたような心細さに襲われる。

 何の根拠も確証もない仮定話で現場と同僚を混乱させることだけは憚られる。


 「そう自分を思いつめるな。前にも言っただろ? 謝られるよりも、お前がこうして傍で笑ってくれるだけで、俺には十分だ。一人で抱え込むな」


 申し訳なさそうに謝る蛍の小さな頭を、光は子どもをあやすように撫でた。

 黒羽のさながら柔らかい黒髪は蛍の肩上で踊り舞う。

 照れ隠しの代わりに無造作に触れてくる逞しい手。

 記憶の義兄は、幼かった蛍の長い黒髪を気に入り、優しく梳いてくれた。

 柔和な義兄の手とは正反対の、無骨で温かな手に蛍の胸は安堵に満たされる。


 「ありがとう……光。私、あなたのこと大好きよ」


 蛍の隣に並んで寝台に腰掛けている光は面映そうに、自分の黒髪を掻いてそっぽを向く。


 「――やめろよ。そんな表情で、そんな事言われたら、俺は」


 止まらなくなる――。

 不愛想な唇から漏れた台詞の意味を蛍が理解し切る前に、華奢な体はゆっくりと傾いた。

 気付けば蛍は生命を誇示する男のぬくもりに抱擁されていた。

 光が今何を想っているのか、ようやく察した蛍は目の前の温もりと香りに双眸を閉じて委ねた。

 スパイシーな甘い電子煙草の芳香に溶け込む光自身の匂いに、蛍の鼓動は安らぎと共に高まる。

 普段の服装からは見え辛い、程良い筋肉に引き締まった体躯。

 華奢な背中に回ってきた両腕は、儚い花を扱うように優しい。

 一方で、蛍という女を渇望する炎の衝動に突き動かされている男の昂りも、肌越しに熱く伝わってきた。

 可憐な花びらのような唇へ噛みつくように口付ける。

 不器用で力強い接吻に、薔薇色の唇は嬉しそう弦を描く。

 甘く濡れてきた唇、仄かに漂う無垢な香りに光は眩暈と共に酔いしれる。

 蠱惑的な熱と吐息を交換する中、折れそうなほど華奢で細長い腕は光の首へ回される。

 妖艶と無垢の相反する少女さながら健気に応える蛍の全ては愛らしい。

 すっかり気を良くした光から、目の前の温もりを貪る以外の選択肢は消え失せた。


 *


 甘やかに燻っていた蛍と光の熱は一つへ溶け合う。


 「光……光……っ」


 先程はどこか不安に揺れた眼差しで思いつめていた蛍。

 そんな彼女は今、光の言葉と指の一つ一つへ敏感に応じてくれる。

 恥じらう少女のような淡い微笑み。

 熱に溶ける氷膜のように濡れた瞳。

 自分への愛しさに色づいた桃色の頬。蛍の無垢で、艶やかな全ては、光の全てを狂わせていく。


 「っ――蛍」


 清らかな氷の戦乙女のように冷凛とした女の顔を、己の持ち得る熱と欲によって溺れさせ、乱してやりたい。

 隙や弱みを見せない彼女の口から、自分だけを求める狂おしい嬌声をつま弾かせ、愛し、甘えさせたい。

 光自身ですら憚られるほど浅ましい欲に爛れた熱情。

 しかし、蛍に燃やす甘い炎は、理性や建前を嘲笑うがごとく灰塵へ帰す。

 たった一人の愛しい女を求める、ただの男に成り下がってしまう。

 一方、光の力強くも優しさを忘れな熱の抱擁によって、蛍自身も翻弄され、甘い衝動へと押し上げていく。

 溶けるほどに熱くて。苦しいほどに激しくて。

 それでも、愛おしいほどの優しさに満たされる。氷の理性をみるみる溶かす光の愛情と熱が生む多幸感に耽る――。


 『蛍――君は、深淵"を覗いたことがあるかな――?』


 心の片隅から離れない漠然とした不安。

 不合理な感情を統制しきれていない自分自身にも困惑している。

 光に抱きしめられるだけで、こんなにも胸は熱く疼く。

 目の前にいる光のことしか見えなくなるはず。

 光に愛される度、彼と出会えた幸福に酔い、彼に愛されなかった場合の人生は不幸だ、と嘆くこともできる。

 それほど、かけがえのない幸福に満たされているはずが、何故かが頭から離れない。

 光の愛欲を懸命に受け入れながら、時折少女らしい恥じらいに微笑みむ蛍。

 光は不器用な口付けを再び落とす。

 不器用で優しい光への愛に熔かされていく最中、互いの熱は同時に高みへ昇り、ほとばしる。

 最後には甘い微睡みを残していく刹那ですら――。


 熱に熔けた蛍の脳内で雪のように浮かんでは消えることを繰り返す、冷たくて、甘い声と微笑み――。


 "深き白い月“は、今宵もほくえ笑んでいることを誰も知らない。




***次回へ続く***


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