写真家 ~地下都市150階層~

 地下都市10階層、この国の階層は植林地になっており、様々な木が生い茂っている。西欧都市連合から地下高速国際鉄道でこの国に来た写真家は10階層を環状線に走る汽車の中で地図を広げる。1階層~7階層までの工業区と8階層の7以上の階層で働く住民の居住区、9階層の住宅区とこの10階層の植林区のことが乗っている。汽車は警笛を鳴らしながら地図で言う窪地の上の鉄橋を渡る。本来はここは巨大なくぼみになっているが、地表の地割れの影響で水が鉄橋のすぐ下ほどま溜まっていた。見晴らしがすごくいいので写真家はパシャっとシャッターを切る。ほどなくして車内にはアナウンスが流れた、

「次は~足利窪地、足利窪地~。窪地には氷水が溜まっており、現在の水温はマイナス2度になっております。お近づきの際は十分ご注意ください」

 目的地の駅なので荷物置きにのせていた大きなバックパックを背負い列車が停止するのを待ってから客車を出て駅へ降りる。環状汽車は無料で利用できるので、基本的に無人駅だ。国際鉄道との接続駅だけ駅員が配置されている。写真家はスマートフォンを操作して今日の目的地を入力し、眼鏡型の装置にコードを伸ばして接続する。すると眼鏡のレンズに緑色の行先を示す一本の線が現れ、彼はそれに従って歩いた。


 道中で野生の様々な動物を通目で発見し、望遠レンズで彼らを怖がらせないように慎重に撮影をする。写真家の目的地は窪地の水が張っているギリギリ、そこでキャンプをしようと西欧からわざわざ大荷物を抱えてやってきたのだ。テントを立てて周りにある石ころと木の枝で簡易的なキャンプファイアーの組み立てをする。そこに四本支柱を打ち付け鉄板を置けば、立派なキッチンの完成だ。空を見上げると紅に染まり始めている。人工とは思えないほど、いやむしろ人工だからこその澄んだ空がそこにはあった。夕飯の支度をするため着火剤に点火し鉄板に鍋を置く。火が上がりきる前に野菜と肉をきざんでコンソメのキューブと一緒に鍋に入れる。バゲットを軽く火であぶったら夕食の出来上がりだ。

食べながら太陽というかつて地表から観測できたものの模倣品が水面に映り幻想的な光景を生む。彼は計算してここに陣取っていたのだ。シャッターを連写モードに切り替えて連写する。数枚をえらんで保存し、彼は満足げにバゲットほおばる。

日が沈んで辺り一面が闇に包まれる。キャンプファイアーに太めの木を何本か足し、テントの中に入る。チャックを閉じてさらに入り口に鍵をかけて完全に密閉する。ランタンの電源を入れて写真家はバックから本を取り出す。”オオカミと子羊”という西欧で今人気の小説を片手に彼と10階層の夜は更けていったいった。

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