踏切

 気が付くとそこは、見知らぬベットの上だった。


 部屋のにおいと横にぶら下がっている点滴、どうやら病院のベットに寝かされているらしい。と、いうことは自分は生きていて、しっかり受け身をとれたということなんだろうと安堵する。

 そして、一体どれぐらいここに滞在していたのかと思い、辺りを見回すべく体を起こしてみようとした、が背骨と腕、そしてひざから下の足に激痛が走り起き上がりかけたとこからベットの上へ逆戻りする。激痛がおさまるのを待ってから、自分の体の状態を確認する。

 まず足はひざから下が、何かでおおわれて、固定されている。布団の中なので確認することが出来なかったが、包帯よりもずっと固いもので、強固に固められている。   

 次に腕だ、病院の服に隠れているが包帯がされている。包帯と肌がこすれるとあちこちが痛むので擦り傷が無数にあるのだろう。体は、こちらも包帯がまかれており、肩甲骨の少し足側にある背骨のあたりが痛むヒビか最悪骨折なのだろうか、幸い頭は包帯がまかれているのみで、それ以外特に何痛みは感じない。

 体が動かない以上、首を回してみることしか出来ないので、まず左側を見る。小さな机とその上に花瓶とそこに花が入っている。また、窓はカーテンがひかれているが、光が差し込んでこないので夜であろうと断定した。それ以外の情報がないので右側も向いてみる。点滴がつるされており、テレビなどがある。また、保健室のようなカーテンがひかれているが、以前手術をしてもらったときに少し滞在した病室のような感じはなく静寂に包まれている。そこから1人部屋だということも理解できた。しかし、現状で得られる情報はそれだけだった。

なので私は、なぜ今ここにいるのか、全身ボロボロなのかを記憶をたどって自分で整理することにした。


 いつもと変わらぬ高校の帰り道、少し部活の終了が遅れいつもより数本遅い電車に乗った。そのせいか、車内は普段より混んでいて、シートに座れずドアの前に立っていた。

「次は~北町~、北町です。」

と、アナウンスが入り最寄り駅の横にある踏切を低速で通過してゆく。その時、踏切待ちをしている女の子が目に入った。制服は自分の通っていた中学校の制服で、どこか気力のない目をしていた。

 その時はまだ特に何も気にせずに、停車した電車から降り、改札を出て、駐輪場へ自転車を取りに行った。すでにだいぶ日が傾いていたので、珍しかったな程度に思い自転車をこぎだす。帰り道はその踏切を渡るのだが、運悪く踏切がしまり始めた。

「なんだよついてねぇな、早く帰りたいのに。」

 そう愚痴をこぼしながらまだ少し距離のある踏切に向かう自転車のスピードを緩める。しかし、その時踏切に先ほどの女の子がいた。外にではなく、なかにだ。そういえばこの時間は特急が直線の線路を凄く高速で通過する位置に完成した駅だと、小学校の自由研究で調べたことがある。そこから導き出される答えは…

案の定そう遠くないとこから列車の電子警笛と、ブレーキの音が聞こえる。でも、昔調べたときにこの路線の特急は早すぎるがゆえに急ブレーキに難があり、かけるとしばらくは空転してしまうのだ。それは今も直されていないようで、激しい金属音が鳴り響いている。


 体は勝手に動いていた。まず自転車からおり、そのままロックもかけずに走り出す、その勢いで踏切まで走り踏切の遮断機を滑るように下から抜ける。その時点で列車は踏切まであと少しのとこまで迫っていた。余裕がないと判断してそこに立っている女の子を走った勢いそのままに思いっきり体当たりで突き飛ばした。突き飛ばす直前に僕に気づいた女の子はどんな表情をしていたのだろうか、突き飛ばしたことにより勢いが急激に失われ、女の子が先ほどいたのとほぼ同じ位置で停止する。列車は止まることが出来ず、そのまま僕を弾き飛ばした。ゴムまりのように跳ね、ボウリングの球のように転がった僕は線路わきの電柱に背中から激突して止まる。

 意識は朦朧としていたが、かろうじて失ってはいなかった。体の感覚も特にない。停止した列車から降りてきた運転手が駆け寄ってくる。

「大丈夫ですか!?」

 女性は恐らく20代くらいの若い人だったと思うがかなりパニックになっていたと思う。僕はふらつきながら立ち上がって、

「私よりも、さっきの女の子を…」

と、言った。

 意味を察してくれたのか運転手は僕が突き飛ばした女の子がいる電車の反対側の方へ走っていった。しばらくして車掌もおりてきた。かなり年配の方だったきがする。

「いったい何があったんだい?説明は…」

 しかしその時僕は理解できずに一つの言葉を投げかけた。

「女の子は…?」

 車掌は落ち着いた声で答えてくれる。

「彼女なら無事だ、ちょっと擦りむいたみたいだが、君のおかげだよ。」

 それを聞いた瞬間、よかったと思ったとたんに視界が黒く塗りつぶされ、何も聞こえなくなったとこから記憶がなく次の光景はここの真っ白な天井だった。


 次の日、看護師さんが病室に入ってきた。

「あら?おはようございます。大丈夫ですか?どこか痛いとことか。」

「大丈夫です、ありがとうございます。ここにきてどれぐらいになりますか?」

 純粋に確かめたくなったので聞いてみる。看護師さんは少し考えた後に答えた。

「今日で3日目ですね、搬送された時と、昨日まで意識が戻らなかったので心配でした。」

 そんなに日にちが立っていないなと思い一番気になる疑問を問いかけた。

「あの、女の子って…」

「女の子…?あぁ、大丈夫ですよ、ほとんど怪我はしてなかったみたいです。ただ、一緒に搬送されてきたときは、状況が理解できてない顔してましたよ。あ、何かあったらこのボタン押してくださいね。」

 ナースコールの機械を渡してナースさんは部屋を後にした。数時間後にナースコールのマイクから声がする。声は、先ほどの看護師の人だ、

「起きてたらお返事が欲しいんだけど、面会を希望されている方がいます。」

 僕の親は、すでに親と呼べる存在がいないのでそれ以外となると予想がつかないこともなかったが、一応。

「だれが来たんですか?」

 とだけ言い返した。

「お返事ありがとう。あなたの助けた子と、そのご両親様がいらしてます。」

「ここまで案内をお願いできますか?」

 看護師さんはすぐに答える。

「面会していただけるんですね。では今からお連れします。」

 そういうとマイクからは何も聞こえなくなった。


 数分後、カーテンの向こうの扉がノックされる。

「どうぞ。」

 そういうと扉が開閉し「失礼します。」という一言とともにあの時の女の子と、その両親だと思われる人がカーテンの中に入ってきた。入ってきて真っ先に、

「うちの子のために大変申し訳ない!」

「本当にご迷惑おかけしました!」

 と、両親が頭を下げる。

「お前も頭を下げろ!」

 女の子に父親は怒鳴りつけて、無理やり頭を下げさせる。僕は首を横に振る。

「顔を上げてください、どちらも生きているしいいじゃないですか。」

 いたって笑顔でそう言う。

「し、しかしですね…」

 そう父親は申し訳なさそうに言う。

「すこし彼女とお話しさせていただけませんか?」

 と女の子の両親に対して退出をお願いする。

「わかりました、おい、失礼のないようにな。」と女の子にはくぎを刺して部屋を出て行った。

 そうして女の子と僕の2人だけの空間になった。話そうと思った手前、話題が見つからず、数分間静かな時間が過ぎた。

「…大丈夫だった?」

 とりあえず当たり障りのなさそうなところから会話を始めようと思って口に出した。

「大丈夫…です、あのほんとにすいませんでした。」

 声がどんどん小さくなって今にも消えそうな声で泣きそうな声で答えてくれた。

「…なにかあったの?いや、言いたくなければそれでいいからさ、内容までは言わなくてもいいから、教えてくれないかな。」

 そう僕が言うと、彼女は小さくうなずいた。

「そっか、いなくなっちゃいたくなるくらい嫌になっちゃったんだね。」

 女の子は今度はうつむいてしまった。それがどういった心境だったかを十分物語っていた。

「こっちに座ってよ。」

 僕は、近くに来てもらうことにした。うつむいたままでは話せないし、なによりずっと立って居させるのも嫌だったからだ。女の子はベットの横にある椅子に座る。

「なんであの時助けに入ってきたんですか。」

 小さな声でそう聞かれた。素直に僕は答える。

「なんでだろうな、わかんないや。」

「理由もなしに私を助けたんですか。」

 女の子のこちらに話す声は震えていて今にも手で握ればつぶれてしまいそうな声だった。

「しいて言えば親かな。」

「おやですか?」

 そう聞かれたので、少しだけ昔話をした。

「僕の親は中学3年の時に、列車の脱線事故によって亡くなっている。親とは、もともとあまり話をしていなかったので、親との会話や記憶はほとんどない。しかし、家に帰って誰もいないとやはり寂しいもので、数日は家に帰るとひたすら泣いた。」

 そんな過去があり、事故で目の前で死んでほしくなかった。と、話をした。

「わからなくてもいいけど、もしまだあきらめてないなら、僕の今の姿を見てほしい。今の僕は、どう見えるかわからないけど、少なくとも痛くないようには見えないだろ?失敗したらこうなる。君を心配してない人は、0ではないって事だけ覚えていてほしい。」

 そう言って今度は入れ替わりで、親を呼ぶ。

「親御さんたち、どうか彼女を怒らないで上げてください。怒るよりも、生きてるんだからそれを喜んで、心配してあげてください。」

 そう両親の方には手早くいって、帰ってもらった。これですぐに何かが変わるとは思わないし、思えないがきっと変わればいいな、と願った。次の日には警察などの事情聴取をベットの上で終えた。警察には、なぜ現場にいたのか、や女の子との関係、面識などを数時間にわたって質問攻めにされた。



数週間後

「次のニュースです。上川鉄道の北町駅付近の踏切で発生した人身事故による、特急列車の脱線によって止まっていましたが、昨日復旧作業が完了しました。なおこの事故で線路内に立ち入ったのは15歳の中学生女子と17歳の高校生男子の2人です。2人に関わりははなく、面識はなかったそうです。またこの事故による死傷者数は死者1人と軽症者1人ということになっています。」

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