第17話 再びのドラゴン

 その瞬間、俺の右腕から凄まじい勢いの炎が渦を巻きながら発せられた。


 俺はその凄まじい威力からくる反動で、左脚を一歩後ろに大きく引いて身体を支えなければならなかった。


 だが何とか全身の力を総動員して踏ん張り、その場に踏みとどまること成功した。


 俺は歯を食いしばりながら、炎の行方に目を向けた。


 だがあまりの火勢に先が見えない。


 俺は炎が収まるよう念じてみた。


 すると、俺の心に反応するように炎はすぐに威力が弱まった。


 俺は炎が吹き荒れていた辺りを目をこらして見てみた。


 だがそこには何もなかった。


 いや、よく見ると地面に黒い消し炭のようなものが落ちている。


 まさか……。


 するとエニグマが落胆したような声音で言ったのだった。


「どうやらニムバス様の特殊能力である炎魔法MAXと魔法威力MAXが作用し過ぎたようですね」


「どういうことだ?」


「ご覧の通り、レベル50のギガンテスが一瞬で燃え尽きてしまいました。さすがはニムバス様と申すべきですね」


「……つまりレベル45でも、炎魔法がMAXだから威力が上方修正されたってわけか」


「それに加えて魔法威力MAXも加算されているはず。ですので魔物のレベルを上げる必要がありそうですね。さしずめ今見たところでは……レベル100相当がよろしいかと思います」


 俺は慌てて叫んだ。


「ちょっと待ってくれ!いくらなんでも上げすぎじゃないか?」


 慌てて止める俺に、エニグマはにべもなく首を振った。


「貴方にはニムバス様の特殊能力、物理耐性MAXと魔法耐性MAXも授けられておりますので、貴方のレベルの倍程度のレベル100辺りが妥当かと存じます」


 エニグマはそう言ってまた軽くお辞儀をした。


 物理耐性と魔法耐性がMAXなら、さっきの魔法の威力と同様、防御も凄い上方修正されているってことか。


 なら……やってみるか。


「わかった。レベル100でやってくれ」


 俺がそう言うと、エニグマが確実に口角をクイッと上げて笑った。


「かしこまりました」


 エニグマはそう言うと、先程同様右手の上に青い火の玉を創出した。


 そして同じく息を吹きかけて炎を飛ばすと、また別の魔物が姿を現わしたのだった。


「……今度はレベル100の……ドラゴンじゃないかよ!」


 俺の目の前には、長さ10メートルはあろうかという細くて長い首をくねらせた巨竜の姿があった。


 全長は30メートルはあるだろうか。


 とてつもない巨体だ。


 俺がこのダンジョンに潜り込んだそもそもの目的はこいつだった。


 このドラゴンを倒して、ドラゴンスレイヤーの称号を得ることだった。


 そのドラゴンが再び目の前に現れた。


「俺は勝てるのか?……そうだ!MPは回復しているんだろうな?」


 俺はステータス画面を出すと、MPの項目に素早く目を走らせた。


 MPは……97だ。


 元々のMPが161で、地獄の業火の消費MPが80だったから、残りのMPは81のはず。


 だけど今見るとMPは97になっている。


 ということはこの短時間にMPが16も回復したってことだ。


 あっ!そうこうしている間に98に上がった。


 凄い。これがMP自己回復MAXか。


 地獄の業火を撃ったら、残りMPは18だ。


 自動的に回復するとはいえ、すぐに満タンになるわけじゃない。


 やはりここは半分くらいのMP消費になる魔法に留めて置いた方がいいだろうな。


 俺は魔法検索をかけて、今あるMPの半分くらいの魔法を探した。


 すると丁度消費MP50の魔法があった。


 しかも氷魔法の欄だ。


 ドラゴンは基本的に炎を吐く魔物だから、氷魔法の方が効果的だろう。


 俺は使用する魔法をこれに決めると、右腕をドラゴンに向けた。

 

 ドラゴンは丁度召喚を完全に終え、ギロリとその恐ろしい視線を俺に向けたところだった。


 俺は準備万端、魔法名を叫んだ。


「破砕氷槍!」


 叫ぶや、俺の右腕からは氷の槍が凄まじい速度で撃ち出された。


 そして瞬く間にドラゴンの首根っこに突き刺さったかと思うと、そのままの勢いで貫き通してしまった。


「すげえ……」


 自らが発した魔法とはいえ、そのあまりの威力に開いた口がふさがらなかった。


 だがドラゴンはそれでは倒れなかった。


 見事に大きな穴が開いた首の根元が、シューシューと音を立てながら湯気を立てている。


 修復しているのか?


「まさかこいつも自己回復能力を持っているのか!」


 俺は自らのMPを確認した。


 49だ。


 もう少ししたらもう一発、破砕氷槍をぶち込める。


 だけど、それで倒せなかったら?


 考えている暇はない。


 奴が修復している間にもう一発当てれば、首を吹き飛ばせるはずだ。


 よし!50に回復した。


 俺は躊躇なく右腕を前に突き出した。


「破砕氷槍!」


 俺の右腕から再び凄まじい威力の氷の槍が飛び出した。


 槍は狙い通りにドラゴンの傷跡に一瞬の内に到達して貫いた。


 血飛沫が辺り一面に飛散する。


 だが……。


 ドラゴンの首はちぎれてはいなかった。


 シューシューと音を立てて回復を図っていやがる。


 どうする?MPは0だ。


 回復するまでにはずいぶんと時間がかかるはずだ。


 どうする?どうすればいい?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る