第11話 神殿

 俺はゆっくりと神殿へと至る大階段を昇り、いざ中へと入り込んだ。



「……凄い……中まで一緒だ……」



 神殿の中は外観と同様、半透明な材質で出来ており、煌々と光り輝いていた。



 俺は一旦そこで立ち止まり、腰を折って片膝を付き、右手で持って床をそっと触ってみた。



「……冷たっ……」



 俺は軽く握り拳を作ると、コンコンと床を叩いた。



「……硬い……でもガラスとかの感触じゃない……まさか本当にダイヤモンドなのか?……」



 すると鼻で笑うような声がした。




『いつまで油を売っているつもりだ。さっさと中に入れ』




 中?入っているだろ?




『もっと奥だ。その先にもう一つの神殿が見えるだろう。そこに入れ』




 俺は顔を上げて真正面を見た。



 よく見ると、そこには確かに小さな神殿があった。



 いや、実際は小さくはない。かなり大きい。ただそれを覆う神殿が超が付くほど巨大過ぎるだけだ。



 超巨大神殿の中に、もう一つ大きめの神殿があるというのが正しい表現だろう。 



 だがそれがそれまでよく認識出来なかったのは、その中の神殿も床も屋根も周りの列柱も、そのすべてが半透明なために、よく見えなかったからだった。



 俺はゆっくりと立ち上がり、再び歩き出した。



 俺が歩くコツコツという硬い足音が超巨大神殿内に響き渡る。



 近付くとわかる。



 中は暗い。



 入り口が開いているが、その中は暗闇が支配していた。



 俺はその漆黒の入り口を見つめながら、ゆっくりと静かに超巨大神殿内大神殿の前へとたどり着いた。




『さあ、中に入れ。そこがお前の出発点となるか、それとも終着点となるかはお前次第だ』




 嫌な言い回しをしやがって。格好付けるなってんだ。



 俺はゆっくりと深呼吸をし、大きく生唾を飲み込んだ。



 だがまあいいさ。



 俺を殺すつもりだったら、おそらくすでにやっているはずだ。



 なら進むまでだ。



 待っていろ。



 ここは俺の終着点なんかじゃない!



 出発点に決まっている!



 俺は覚悟を決めるや、ゆっくりと漆黒の闇の中へと入っていくのであった。






 中に入ると、やはりそこは一転して漆黒の空間であった。



「……透明の次は黒か……でも思ったより明るい……何故だ?」



 俺が疑問に思うのも無理はないだろう。



 その部屋は壁も床も天井も、すべてが漆黒の石板で出来ていた。



 それにも関わらず何故か部屋の中が鮮明に見えるのだ。



 明かりは入って来た入り口から漏れる光だけ。



 どこにも他に光源となるものは見当たらない。



 それなのに壁や床や天井の材質がよく見える。



 滑らかで艶っぽい黒色で、継ぎ目が見当たらない。



 かなり巨大な一枚岩で造られているようだ。



 部屋は三十メートル四方の巨大な立方体といったところだろうか。



 実に不思議な部屋であった。



 だが……。



「何もないぞ。お前は何処にいるんだ?」



 俺の問い掛けに、声はすぐさま応えた。




『安心しろ。俺はいる』




「いる?……何処にだ?見えないぞ。いや、辺りは黒いけどよく見える。何故だかはしらないけどな。だけど誰もいないぞ。お前は何処にいるんだ?」




『今、見える』




 その瞬間、ぐらっとした。



 突然めまいがして、世界が揺らめいた。



 俺は必死にバランスを取ろうともがいた。



 だがダメだった。



 俺はがくっと膝を折って床に尻もちをついた。



 だがそれだけでは収まらず、俺は横倒しに床に倒れ込んだ。



 なんだ?急にどうした?



 だが、しばらくするとようやく世界が元通りになった。



 俺はほっとため息を吐き、床に横向けに寝そべりながら、目をしばたたかせた。



 そして前を向いたその瞬間、俺は唖然とした。



 何者かの足下が見えたからだ。



 誰か居る。



 あいつか?



 俺は視線を足下から上へと向けた。



 そして顔を見て、心底肝を冷やしたのだった。



「……え?……俺?……」



 そこにはまごうことなき俺が居た。



 俺を見下ろすように、俺が立っていたのだ。



「これは何の冗談だ?」



 俺の問いに、俺が薄ら笑いを浮かべて言った。



『……ふん、なるほどな』



「何がなるほどなんだ?」



 俺のすかさずの問いに、もう一人の俺が答えた。



『おかしいとは思っていたんだ。うるさかったからな』



 俺はカチンと来た。



「うるさくて悪かったな!それにしてもお前しつこくないか?俺のことをうるさいうるさいってさ」



 するともう一人の俺が鼻でせせら笑った。



『そういう意味じゃない。お前の声が必要以上に大きく聞こえたってことだ』



「うん?どういうことだ?」


 

 すると目の前の俺が、俺に対して驚くべき事を口にしたのだった。



『お前、テスター家の者だな?』



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