第250話 実験型試作竜機《ノーボディ》
初撃で隊長機を撃墜された彼ら竜機部隊は、混乱の極みに達していた。
ど、どうするんだ?逃げるのか、戦うのか、その判断すらつかない彼らは混乱状態に陥っていたのだ。
《よし!逃げよう!こんな奴らと戦っていられない!さっさと逃げるが勝ちだ!》
《おい!帝都の防空任務を放棄して逃げ出すのか!敵前逃亡だぞ!!
帝都を空爆するより遥かに気分がマシだろ!》
《そ、それもそうか。それなら……。》
そんな混乱状況に陥っている彼らに対して、襲い掛かろうとするリュフトヒェンとアーテルだったが、レーダーレドーム付きの
《緊急通信!こちらへ急速接近する熱源があります!これは……早い!早すぎる!注意してくださいご主人様!!》
その彼女の言葉と共に、ダークドラゴンかと思えるような漆黒の色で装甲一面を塗装された一機の竜機がこの空域へと猛烈な勢いで突っ込んでくる。
その超音速すら遥かに超える速度で突っ込んでくる漆黒の竜機は、まるでUFOのように通常の機動を全く無視した異常なジグザグ機動を描いて突っ込んできながら、オープン魔術回線で吠える。
《が、がぁあああああ!!痛い!痛い!痒い!体を!俺の体を返せぇええ!!》
意味不明な事を吠えながら空を舞うその機体は、味方であるはずのシルフィード系列の竜機に真っ先に襲い掛かる。
遠距離から魔術攻撃を仕掛けるのではなく、自分の機体を叩きつけるような空中衝突するような勢いで直接体当たりを行い、その牙で金属の装甲を噛みついて破壊し、爪で装甲をはぎ取っていく。
そして、中のパイロットをむき出しにすると、そのまま自分の牙をむき出しにし、パイロットを食いちぎっていく。
聞こえないはずの悲鳴と絶叫。そして、その際に漆黒の竜機の頭部の透明のキャノピー内部がちらり、と見える。
それは……脳。人間の複数の脳がそこには搭載されていた。
《うげっ!なんじゃありゃあ!脳だけが搭載されているのかアレ!!》
そこで、他の残った二体の竜機から、リュフトヒェンとアーテルに対して魔術通信が入ってくる。
《た、助けてくれ!知ってることは何でも話す!噂でしか聞いたことがないが、あれは多分人間の脳だけで竜機を動かせないかとして作られた試作実験機だ!
何でも、失われた体の痛み……幻肢痛とやらを猛烈に訴えて猛烈に暴れまわるため封印処置&睡眠処置を行われていたらしい!》
つまり、人間の脳だけで操作できる竜機を作り出すコンセプトの実験機だ。
人間の体は複雑なため、Gに弱い。
人間の限界のGはおよそ9G。人間が乗っていなければもっともっと高Gを出せる事も可能である、と考えられている。
最終的には、無人機が有人機を追い越すこともできるだろうが、この実験機はその第一歩となるだろう、とのことだ。
だが、実験は失敗し、ただ暴れまわるだけの到底兵器とは言えない失敗作ができてしまった。
それがこの
《ノーボディ》は次に目に付く存在へと猛烈な勢いで襲い掛かってきた。
つまり、アーテルとリュフトヒェンへと襲い掛かってきたのである。
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