第144話 ニーズボッグ分体との戦い
《あの感じ……。もしや。》
アーテルの咆哮で混乱したニーズボッグ分体を見て、その視界が衰えたのっぺりとした顔を思いだし、リュフトヒェンも咆哮を上げてみる。
その咆哮に対して、やはりニーズボッグは混乱したようにのたうち回る。
《そうか。音か!》
そう、視力の衰えたニーズボッグは、ニーズボッグの周囲の音を敏感に聞き分ける事によって自分の視界代わりにしていたのだ。
その過敏な聴覚は、大きな轟音は非常にストレスになって混乱をもたらす。
先ほどのニーズホッグ分体もアーテルの咆哮によって、過敏な聴覚が混乱し、行くべき方面を見失ってしまったのだ。
轟音が響く高速の飛翔の中でも、それを聞き分けて正確に飛行するとは恐るべき能力であるが、同じ竜である彼らの咆哮はニーズホッグ分体にとって極めて不愉快で、それを聞くだけで方向を見失ってしまうらしい。
怒り狂ったニーズホッグ分体は、口から凍気を放出して氷の槍を作りだし、リュフトヒェンたちを攻撃していく。
ニーズホッグ分体が高速で翼を使用しながら右へと旋回しようとするのを見て、リュフトヒェンは、敵の旋回面の内側に大きく旋回してリード角を取り、そのまま上昇する。そして十分な高度差ができたら、そのままロールして背面状態になり、ニーズホッグ分体の背後へと取る。その機動は、バレルロールによく似ていた。
これこそ、バレルロール・アタックである。
そして、バレルロール・アタックでニーズホッグ分体の後ろについたリュフトヒェンは、次々と雷撃でニーズホッグ分体を攻撃していく。
《!?》
だが、それらの雷撃は敵の鱗によってほぼ全て弾き返されてしまう。
ハイエルフが攻撃を仕掛けたであろう、鱗に突き刺さった様々な剣や矢を伝って雷撃は多少ダメージを与えられたがそれだけだ。
それがなければ完全に雷撃は防御されていただろう。
竜の魔術ですらほぼ完璧に弾き返すほどの鉄壁の魔力防御。それが神代から生き延びてきたニーズホッグの特質であり、それはこの分身にも受け継がれていた。
追いついてきたアーテルも魔力レーザーで後方から攻撃を仕掛けるが、それらも全てニーズホッグ分体の鱗によって弾き返されていた。
雷撃ではない分、さらにほぼ完璧に弾き返されていて、ダメージも全く存在しない。
それを見て、流石のアーテルも驚きの声を上げる。
《堅……!あの鱗、めっちゃ魔術的防御力がある!妾たちの攻撃を完璧に弾き返すとは!あれなら魔術攻撃じゃなくて直接的な物理攻撃のほうが遥かにマシじゃ!!》
と、そんな中、ニーズホッグ分体の尻尾の部分がバキバキと音を立てて変形し、そこに鋭い牙を生やした口が生えてくる。
そして、後方をぴったりと追尾して高速で飛行している二体の竜に対して、自分の口からじゅうじゅうと音を立てる己の涎を後ろにいる彼らにまき散らしていく。
《うわっ!!汚っ!!エンガチョじゃ!!》
《ブレイク!ブレイク!!》
二体の竜は急激に極端に体を傾けてバンク体勢になり、そのまき散らされた大量の涎を回避していく。
だがそれでも完全に回避できず、多少体にかかってしまうが、強靭なはずの竜の鱗ですら、その液体はじゅうう、と音を立てて融解させていく。
竜の鱗や金属すらをも融解させる猛烈な毒。これもニーズホッグ分体の武器の一つである。
《クソが!妾にこんな汚らわしい物を!ボコボコのフルボッコにしてやるわ!》
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