第119話 ドワーフと竜
さて、場所は変わってアーテル領。
そこでも大量の様々な人々が流れ込んできて様々な問題が起こっていた。
そのたびにアーテルが切れかかって暴れまわりそうになるのを、アリアが何とか抑え込んで問題解決のために走り回っているという状況だった。
もちろんそれだけではキャパオーバーになってしまうだろうから、セレスティーナの配下の神官戦士や魔術師やリュフトヒェンの部下たちも派遣して、彼らの協力も受けながら何とかやりくりしている状況である。
そして、そんな中でさらなる一つの問題が起こっていた。それは、ドワーフ族との確執である。
「妾に頭を下げろというのか!?」
激昂したアーテルは、手を振りかざしながら、牙をむいて目の前のドワーフ族たちを牽制する。
彼らはリュフトヒェンの手によって、エキドナの落とし子から命を救われたドワーフたちである。リュフトヒェンには恩義はあるが、アーテルに対して恩はない。
しかも、今までアーテルは幾たびもドワーフの居住地を襲って財宝を奪い取っていた前科がある。そんな天敵とも言える存在に対して、ドワーフたちが殊勝にしている理由はどこにもなかった。
「……別に奪った財宝を返せとは言わん。だが、人に物を頼む時には「お願いします」が必要だろうが。それにこちらに対して襲い掛かってくるような奴に力を貸すことはできん。少なくとも、ドワーフの居住地に今後一切襲撃を仕掛けないと誓ってもらわなければな。それもできん奴に力を貸すことなどできん。」
ドワーフ族の言っている事は実に全うである。
今まで竜として好き勝手に生きてきたが、これからはそうはいかない、という事をアーテルに知ってもらうためのいい機会である、とリュフトヒェンたちも止めなかったのだ。
一国の大公が何の大義名分もなしに「金持ってそうだからドワーフを襲って財宝をかっぱらおう」という事をそうそう行ってもらっては困るのである。
だが、今までいい貯金箱代わりにしていた存在に対して頭を下げろ、という事にはそうそう従えないのが竜族の誇りである。
「ぐぬぬ……!ドワーフのくせに付け上がりおって……!だが、妾の生活のためには我慢か……!」
竜族の誇りと将来の安定した生活やら何やらが彼女の中で色々吊り合った結果、アーテルは渋々ながらもドワーフ族に頭を下げる事にした。
「……解った。正当な報酬は払うし、これからドワーフの居住地は襲わないと約束しよう。だから妾に力を貸してくれ。頼む。」
そう言いながら、アーテルは彼らに対して頭を下げて丁寧に頼み込む。
今までとるに足らない者だと思っていた存在に頭を下げるのは業腹だが、ドワーフ族の手が必要な事も理解している。
それに対して、ドワーフはうむ、と一つ頷く。
「よし、過去の遺恨は捨てがたいが、契約は果たそう。我々ドワーフに任せる事だな。……とはいえ、我々ドワーフでも限界はあるから竜の基準で働かせるなよ?」
えっ?当然妾基準で働いてもらうつもりだったんだけど?とアーテルは口にしかけて、その口をアリアの両手によって塞がれる。
「もがもが。」
「はい、それはアーテル様に仕える私が保証いたします。きちんとドワーフたちや人間たちの体力に適したお仕事を行っていただきます。
もちろん福利厚生もバッチリ!鉱夫たちの寮の近くに温泉を引いたり、力のつく食糧を用意し、居住環境もバッチリの寮を作らせていただきます。ですが、ドワーフの方たちは地下施設が落ち着くのでしょうから、そちらをご自身たちで作っていただけるのなら、こちらも資材など最大限供給いたします。」
アリアは、アーテルの後ろからおんぶのような形で背中に乗って、後ろから両手で必死になってアーテルの口を塞ぎながら言葉を放つ。
それを見ながら、ドワーフはふん、と鼻を鳴らしながらも腕を組んで言葉を放つ。
「ふん、それに乗じて地下施設を作って、いざとなったらシェルターにするつもりか。まあ良かろう。その程度ならこちらも譲歩しよう。」
この世界では竜を主にして、魔女部隊やワイバーン部隊、ペガサス部隊やグリフォン部隊など空から襲い掛かってくる敵はそれなりに存在する。
上空からの攻撃に対抗するために、大都市では対空装備や都市全体を守る大規模結界、そして安全に避難するための大規模な地下シェルターなどが装備されているのが常である。
だが、この開拓されたばかりの地では、対空武装や大規模結界などそうそう用意できない。そのため、ドワーフの作り出した地下居住地をいざとなったら地下シェルターにしようというのだ。
「ぷは。どういう事じゃ!この竜たる妾の領土にそのような物を作るなど!この領土の空は竜たる妾の物じゃ!他の者たちの空からの侵略など妾が蹴散らしてくれるわ!」
竜は空は己の領土だと思っている。それはリュフトヒェンなどでも例外ではない。
そんな空を荒らされ、自分の領土に空からの攻撃を許すなど、竜であるアーテルの誇りが決して許さないだろう。
だが、万が一のこともあるし、彼女がいないときに敵が襲い掛かってくることもある。そのときのためにこういった避難施設を作るのは必然といえるだろう。
「アーテル様。どうぞお許しください。確かにアーテル様の実力は信じております。ですが、人間とは弱き物。とても竜族の力には及びません。
そんなか弱い人間、私も含め、避難する安全地帯が必要なのです。」
「ふむ、なるほど。つまりお主たち、人間のようなか弱いクソザコのための安全地帯を作る事を許してほしいということじゃな?仕方ないな~。確かにお主がいなくなっては妾も困るため、寛大なる妾は許可してやろうではないか。感謝するがいい!はっはっは!!」
腰に両手をついてはっはっは!!と高笑いするアーテルに対して、さすがのアリアも(ちょろいですねアーテル様……。)と思わざるを得なかったのは事実である。
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