第86話 竜都改名。
轟音を上げながら、二体の竜が旧帝都の空を低空飛行で横切る。
しかも、後ろからわざわざ魔術でスモークを炊きながらの飛行に、市民たちは空を見上げながら一気に歓声を上げる。
ブルーインパルスみたいに高度な技は行えないが、エキドナを倒した竜たちがそういったアピールを行うだけで、市民たちは大盛り上がりである。
対エキドナ戦をリアルタイムで見ていた彼らにとって、「竜なんて信用しきれるのか?いざとなったら我々を生贄にするのでは?」という疑問は完全に消え去っていた。
ましてや自分たちを見捨てた旧帝国の貴族や王族を見た後である。
彼らの信仰は固いものとなり、それはリュフトヒェンへと伝わっていく事になった。
さらに、その後で地上に着陸したリュフトヒェンは、小型化した後で豪華な戦車に乗って、兵士たちと共に戦勝パレードを行う。
戦車から手を振るだけの仕事であるが、まるで市中引き回しみたいだな、と思いつつも市民からの歓声に、小型化したリュフトヒェンは手を振って答える。
これも全て市民たちから強い信仰心を得て、強大な力を得るためである。
敵国と戦って勝利したわけではないので、豪華な財宝を新しく手に入れたわけではないが、そこはママンから与えられた財宝を馬車などに乗せて、それを見せながらパレードを行う。これは、「我が国はこんなに豊かである」というアピールを行う事により、民衆を安心させるためである。
そして、そこで一番困った状況に陥ったのは、創立されたばかりの偶像たちである。路上ライブなどは何回かはしてきたが、彼女たちはいきなり戦勝式で民衆の前で歌を歌うという大舞台に見回られたのである。
王宮の前の広場には、大勢の民衆が詰めかけており、そこには音量を増幅する魔術装置があちこちに備え付けられている。
流石にいきなりこんな状況で華麗なダンスなど踊れるはずもないし、訓練不足も甚だしいとは理解しているので、三人はたったまま歌唱を行うだけにプランを切り替えている。
「ど、どどどどうしましょう~!!いきなりこんな大舞台なんて聞いてませんよ~!!」
「別に、どうでもいいでしょ。ただ出て歌うだけじゃない。そんなに大騒ぎする事?」
「いやぁ。楽しみですねぇ~!あはは!!」
そんな訳あり色物三人偶像だったが、リュフトヒェンとしてもいきなりこんな大舞台に歌わせる予定はなかったのである。
まずは路上ライブで地道に知名度を稼いで、適当な祭事で歌わせて次第に大舞台に……という感じで慣らさせようと思っていたのである。
だが、予期もしなかったエキドナ戦により、予定が大幅に狂ってしまったのだ。
ダンスを全て削って、棒立ちで歌を歌ってもらう事にしたが、こればっかりは彼女たちに頑張ってもらうしかない。
リュフトヒェンと同じく、彼女たちも知名度を稼ぐ大きなチャンスなのである。
「「「~~~♪」」」
そして、何だかんだできちんと歌い切った三人に対して、リュフトヒェンはほっと息を放つ。これで、自分だけでなく偶像たちも少しは有名になったはずだろう。
そして、偶像たちの歌唱が終わった後で、3mほどの多少体を大きくしたリュフトヒェンは、王宮に集まった民衆に対して堂々と宣言を行う。
『皆の者聞くがいい!我は混沌竜エキドナを撃退し、この国を守った!
これからも我は最前線に立ち、敵を撃退し、この国を守護し繁栄させる事を誓おう!!我はこれからもこの地と住まう人々を愛し続けていく!
皆も我についてきてほしい!!亜人も人族も同じように扱われる国を作る事を我はここに誓おう!!』
彼の姿と音声は幻影魔術を応用して、街の上空に映し出され、街の民衆全てに伝わるその彼の演説に、街の人々は一斉に歓声を上げる。
正直、こうした大げさな事を言いながら演説を行うのは恥ずかしいが、信仰心を集めて自分を強化できる絶好のチャンスである。
そして、いつまでも旧帝都では恰好がつかないため、エキドナ撃退の功績を持って、この街を”竜都”へと改名する事に大規模な宣言を行った。
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