第24話 角の生えた女の子

 同時刻、ムスキルはダンジョンから出てきた。

 そして町に向かって黄昏時の荒れ地を歩く。

 すると町の方から一人の女の子がやってきた。

 10歳くらいの紫髪の女の子で、頭の左右に大きな黒い角が生えている。


「もう日が暮れる。町に戻った方がいいぞ」


 ムスキルは不思議な格好をしている女の子を怪しみながらも、声をかける。


「あなたがムスキル・ベーナ?」


 女の子はムスキルの言葉は無視して問い返す。


「そうだが?」


「なら死んでもらうわ」


 瞬間、女の子の姿が消えた。

 そして一瞬でムスキルの目の前に現れた。

 振り抜かれる拳。

 やばい!!と直感で思ったムスキルは体をのけ反らす。

 女の子の拳はムスキルの顎を掠めて振り抜かれた。

 先程までムスキルの顔があった場所に紫電が走る。


「チィッ、何者だ!? なぜ私を狙う!?」


 ムスキルは距離を取りながら、剣を抜く。


「別に大した理由はない。強いって聞いたから腕試し。本命は別」


 抑揚なく話ながら女の子はムスキルとの距離を詰める。

 その速さは尋常じゃない。

 彼女は全身に紫電を纏っていて、まさしく雷の速さで動いていた。

 その姿は、


「まるで雷帝のようだな」


 ムスキルは雷の速さで打撃を放ってくる女の子の攻撃を必死に受け流しながら、苦しい顔で言った。

 雷の速さで繰り出される攻撃は一発一発が必殺の威力を持っていた。


「だが、私は本物の雷帝の教えを受けている。負けるわけにはいかない!」


 ムスキルは反撃する。

 たしかに雷の速さで動く彼女の方がムスキルより速いが、ムスキルは魔力から相手の動きを読むことができる。

 先読みして、相手の攻撃を受け流し、返す剣で敵を切る。

 いける!とムスキルは思った。

 その瞬間。

 剣が彼女の胴を切ろうと間近に迫ったその瞬間、彼女はありえない避け方をした。

 拳を受け流され前のめりに体勢を崩されていたはずが、急に直角にのけ反ったのだ。

 そしてその勢いで一回転しながら、ムスキルの剣を左足で弾き上げた。

 そして回転し終わると、今度は右拳を繰り出す。

 それを受け流そうと、ムスキルは剣を振り下ろす。

 それを女の子は、再度ありえない動きで避けた。

 まっすぐムスキルに向かっていた拳は、剣が迫ると、真横に直角に避けたのだ。

 まるで雷のような動きだ。

 慣性の法則などないかのような動きだ。


「なんだと……!?」


 驚くムスキル。

 その鳩尾にめり込む拳。

 ムスキルは吹っ飛ぶ。

 そこにすかさず追い討ちを掛ける女の子。

 当然ムスキルも剣で受け流そうとするが、これまた女の子は雷のような動きで避ける。

 そして秒間数十発もの拳をムスキルに叩き込んだ。


 地面に叩きつけられるムスキル。

 一向に起き上がる気配はない。

 彼の周りに血溜まりが広がっていく。

 その様子を無言で見つめていた女の子は、やがて紫電と共に消えた。

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