第29話 天罰
「ん? ここは……」
この体がふよふよと浮かぶ感覚覚えがある。ヴィナス様と初めて会った空間と一緒だ。
「てことはヴィナス様が……そうか! 信者を増やした俺にご褒美をくれるのか!」
やったぞ! これで無限の魔力を貰える!
すると空から光が落ちてきた。ヴィナス様だ。
相変わらず綺麗だな。
「マジ激おこぷんぷん丸だよ!」
あれ? 怒ってらっしゃる? 言葉だけ聞くと冗談のように聞こえるが表情は私、怒ってますと言っているようだ。
「あの何をそんなに?」
「君、アーレスの所の信者引き抜いてきたでしょ?」
ヒーデリックの事か。
「はい、それがどうかしましたか?」
「どうかしまたか? じゃなーい! 大問題だよ! 大問題! 信者を引き抜くなんて戦争ものだよ!」
「えっ? そんな大袈裟な……信じる神を変えるなんてよくある事なんじゃないですか?」
俺が日本人だから感覚がおかしいのだろうか?
「たまにあることではあるけどね。でもそれは位が同じ神たからいいの。
私みたいな信者が全然いない神がアーレスなんて最高位に位置する神から信者を取ったてなると話は別なのよねー」
そうだったのか。知らなかった。
「いや、でも俺知りませんでしたし」
「最後に言ったじゃん! ってもしかして聞こえてなかった?」
ん? そう言えば意識が途切れる瞬間、他の……とか言ってたな。
「他の、までしか聞こえてなかったですね」
「うそっ……コホンッ、話を戻すけど結果的に言うと今回の事件は私ヴィナス様の美貌のお陰で今回は許してもらえました!」
アーレス様も男だったのか……
まあこんな美人に対して攻撃とかできねぇよなぁ。
「おぉ! 流石ヴィナス様!」
「でしょ? でも事が事だから流石に無罪放免と言うわけにもいかなかったのよねー」
「もしかして、ヒーデリックを誘った俺が死刑になるとか?」
「それは違うから安心して」
ほっ、よかった。これで死刑ねとか言われたら笑えないぞ。
「じゃあ何をすれば?」
「アーレスの槍を取ってきて欲しいんだよね」
「槍ですか?」
槍を取りに行くとはどう言うことだろう。
「そう槍。彼の信者が昔、戦の神の槍が聖堂に飾られるのはおかしい! って言ってダンジョンの奥深くに持って行ったらしいんだよね」
それなら信者が取りに行けばいいんじゃないか?
と思っていると俺の表情で読み取ったのか呆れた表情をしながら話を続けた。
「ここからが問題なんだけどね、槍を持って行ったは良いものの槍の力でダンジョンのモンスター達が強くなって自分達じゃあ取り返せなくなったらしいのよ」
やれやれと言った様子で肩をすくめるヴィナス様。
「えっ、バカじゃん」
その言葉を聞いてヴィナス様は笑い出した。
「でしょ! ホント脳筋というかなんというか。アーレスにその言葉聞かせてやりたいわ」
「やめてください。僕が死んじゃいます」
それだけはやめてほしい。絶対に殺される。
「冗談、冗談。まっ、そういうことだから後よろしくね!」
「いやいやいや! 待ってください! 場所は? どこに行けば良いんですか?」
「あっ、そうだった」
ポンっと手を叩き思い出したかのような仕草をするヴィナス様。
……1つ1つの仕草があざといよな。
「まず、ダンジョンの名前は死の砂漠。そして場所はシャリアーテ王国の端に位置するわ。後で頭に直接マップ送っておくね」
ちょっと待て。死の砂漠って隠しダンジョンじゃないか。
確かアーレス信者の幹部に話を何回か聞くと出現するダンジョンだ。
なるほど、確かボスを倒すとユニークアイテムの軍神の槍を手に入れることができたはずだ。それが今回の探し物って訳か。
それに今まで忘れていたが、死の砂漠には他にもう1つユニークアイテムがあったはずだ。
あれさえあれば俺はもっと強くなるぞ!
「返事は?」
「はい! 行かせていただきます!」
「おぉ、良い返事だね。実は嫌がるかなーとか思ってたんだけど一安心だよ」
「信者1号であるこの私めにお任せてください!」
「うむ! 行ってこい!」
満足そうに頷くヴィナス様。
そして段々と意識が薄れていく。この感覚はこの空間から出る時に起こる現象だ。
それから間も無く俺の意識は途切れた。
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