第12話 エリカ戦

 今、俺はエリカの戦いが終わったので舞台の方に向かっている。

 正直行きたくない。お腹が痛くなりましたとか言って試合放棄するのもやぶさかではない。


 だってCクラスの代表を一撃だぞ。余りにも魔力の量が違いすぎる。


 ……生徒会長に傷の治りが悪いので辞退しますとでも言ってやろうか。


 うん、この言い訳なら自然だ。


「よし、言いに行くか」


 俺は戦いを辞退するため、きた道を戻ろうとするとカインが来た。


「カイン! お前よくも俺を!」


 カインに文句を言おうとした瞬間手を握られた。


「僕、感動しちゃった! まさかリックがあんなにも強かったなんて知らなかったよ! 次はエリカとだね。2人とも全力で応援するから悔いのないように頑張ってね!」


 目がめっちゃキラキラしている。


「いや、俺実は腕を……」


「でも本当によかったね! 修行の成果が出たんじゃない?」


「ああ、そうだな。修行の成果だな。でも俺は1回戦での……」


「うん! 次リックがどんな魔法を使うか楽しみだよ!」


 いや、聞けよ。


「だからな、俺は……」


「あっ、もう次の戦いが始まっちゃうね! エリカの方も応援に行きたいけど、実はちょっと喧嘩しちゃって行きずらいんだよね。

 でも、2人ともちゃんと応援してるから頑張ってね!」


 そう言ってカインは走り去ってしまった。


「……もういいや。どうにでもなれだ」


 流石にあの目をしたカインの期待は裏切れない。


 俺はクルリと踵を返して舞台の方へと向かうのだった。



「今日で最後の試合だが、2人とも思う存分力を発揮してくれ」


 舞台の上に上がると生徒会長が激励の言葉をくれた。俺とエリカはお互いに頷く。


「では両者、用意はいいな? ……始めッ!」


 エリカと睨み合う。何か動いてきたらすぐに回避できるように体制を整えておく。


「1回戦はよく頑張ったわね」


 エリカはまるで日常会話をしてくるかのように声をかけてきた。


「ああ、頑張った。でも勝てたのはエリカのおかげでもあるぞ」


 俺はエリカの賛辞を素直に受け取る。マジで頑張ったと思う。前の世界じゃ喧嘩なんて全然したこともなかったし、本当によく勝てたなって感じだ。


「そう、ありがと。それで戦う前に少し賭けでもしてみない?」


「賭け?」


「そう、賭け。内容は勝った方が負けた方になんでも命令できる権利が与えられる」


 なん、だと。破格すぎる。もし俺がエリカに勝つことができればもしもカインがエリカルートに進んだ時に死ぬことが無くなる。


 スタンピードが起きたとしても俺を戦わせるな! って命令できるじゃないか! 


 ……冷静になれ。なんでエリカはそんな事言ってきたんだ? 絶対に勝てるからか?


「なんでそんな賭けを持ちかけるんだ? 俺に勝った時に何してほしいんだ?」


 これを聞いておかないと賭けには乗れない。


「……カインに謝る時についてきてほしいの」


 ? 別にそんな事命令しなくてもついていくけどな。


「私のプライドの問題よ。シャリアーテ家に生まれた以上誰かに借りを作るなんて事したくないの」


 俺の心を読んだかのようにエリカはそう言った。


 確かにゲームでもエリカって謎にプライド高いところあったよな。


「いいぜ! 乗った! じゃあお互い悔いのないようにやろうぜ!」


「ええ! それじゃ……ッ!」


 俺はエリカが頷いた瞬間にアイススパイクを放った。


 が、咄嗟に炎の壁を作られて氷が溶かされた。


 周りから不意打ちとは卑怯だぞ! とかエリカ様に謝れ! と言う罵声が飛んでくるが無視だ。無視。


 エリカ相手に正攻法じゃ絶対に敵わない。それに今は試合中だ。油断している方が悪い。


「やってくれるじゃない!」


 そう言うとエリカは両手を前に突き出した。


 まずい、さっきのアレが来る。


「ブリザード!」


 俺はすぐに地面に向かって氷魔法を使い、地面を凍らせてその上を滑って逃げる。


 ドカーン! と後ろから大きな爆発音が聞こえたと思ったらすぐに爆風に投げ飛ばされた。


「はぁ、はぁ、危なかった」


 直撃してたら終わってたな。


 エリカの魔法エクスプロージョンのお陰で辺りは土埃が舞い。視界が悪い。俺の姿はエリカからは見えないはずだ。


「アイスメテオ!」


 小さい氷じゃダメだ。すぐに炎で溶かされる。砂埃が晴れるまでに出来るだけ大きくしてやる。


「行け!」


 砂埃が晴れたと同時に魔法を放つ。かなりでかいサイズになった。これなら炎の壁でも溶かす事は不可能だろう。


「斬りがいがありそうな氷ね!」


 そう言うとエリカは腰の剣を抜いた。

 一閃。ただそれだけで俺の氷が切れた。


 なんて切れ味の剣だ。


「ん? 待てその剣」


 俺はエリカが持っている剣を見たことがある。赤い刀身に黒い柄。あれってゲームで手に入るエリカの最強装備じゃないか?


「この剣が気になるの? この剣の名前は聖剣バハムート大いなるドラゴンが封印されている聖剣よ」

 

 フフンとエリカは自慢気に剣を見せてきた。


 おかしいだろ!? なんで持ってんだよ! 聖剣バハムートは3年の最終イベント直前で王様である自分の親父から継承されるはずだろ!?


 ゲームでのバハムートの性能ははっきり言って壊れだ。装備するだけで火属性強化。そして高い攻撃力。さらには隠された能力が一つある。

 パワー型で純粋に強い。シンプルだけどそれ故に強い。そんな武器だ。


「おい、王族が素手相手に国の秘宝なんて使わないよな?」


 くそ、こうなったら何がなんでも聖剣を使わせるわけにはいかない。プライドが高いエリカの事だ。これさえ言えば……


「使わないつもりだったんだけどね。どこかの誰かさんが不意打ちなんて卑怯な真似をしてくるから、仕方なく使ったのよ」


 おい誰だ! 不意打ちなんてした馬鹿野郎は!


「待て待て、落ち着け。なっ? 剣を締まって話し合おう」


「あら? 試合中に話し合うの? でもまた不意打ちされたら怖いわよねー」


 こ、こいついい性格してやがる。ニヤニヤしながら話してるのがまたムカつく。


「しない。しません。ですからお願いします。聖剣バハムートだけはどうかご容赦を」


「どうしましょうか?」


 こっちが下手に出てればいい気になりやがって。


「卑怯な事はもうしないと誓います」


「それで?」


「先程の不意打ちは申し訳ありませんでした」


「うむ、よろしい……なんて言うと思ったかしら!」


 クソッ! 人を馬鹿にしやがって!


「なんてね、冗談よ、冗談。リックが人を馬鹿にする気持ちが少し分かったわ。意外とストレス発散になるのね」


 剣を今度こそ鞘に戻すがそんなのは関係ない。久しぶりにプッツン来ちまったぜ。


「うっせぇ、ばーか、ばーか。ペチャパイ〜、悔しかったらこっちにおいでー」


 そう言ってお尻ぺんぺんをしてやる。挑発に乗った所をカウンターで倒してやる。


「……そう、ペチャパイ。……そう思っていたの」


 ん? あ、あれ? なんか雰囲気がおかしいぞ。もしかして言いすぎた?


「あっ、いや、ペチャパイは思ってないぞ。挑発しようと思ってだな」


 実際エリカはそこまで貧乳ではない。むしろちょうどいい。大きすぎず小さすぎずだ。スタイルもスレンダーで綺麗だと思う。


「どうせお姉様に比べると私なんて……私なんて……私なんて……」


 確かに生徒会長はでかい。果物で例えるならスイカだ。エリカはりんごくらいだろう。


「むしろそれくらいの方が好きだぞ、俺は」


 まずい完全に地雷だった。


 エリカがワナワナと震えながら剣に手をかけた。


「……聖剣解放」


 剣を抜くと同時にブワッと炎が巻き上がる。刀身は炎を纏い。エリカの蒼色の瞳は紅色へと変わっている。そしてエリカの周辺には無数の炎がフヨフヨと浮かんでいる。


 聖剣解放。覚醒技の一種で、全ステータスが2倍になる最強の技だ。

 さらに各属性に合った属性の威力は3倍になる。バハムートは炎属性だから炎魔法はさっきの3倍の威力になる。


 これが聖剣が最強装備たる所以だ。


「マジで、どうしよう……」


「殺ス!」


 エリカの目のハイライトが消えている事が俺の恐怖をさらに掻き立てるのだった。


 

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