第3話 受付嬢も女冒険者も嫌いだ!

 もう受付嬢のことは無視し、クエスト掲示板へ向かおうとした時だ。

 背後から彼女がボソリと呟く声が届く。

「……こんなの、私が殺したも同然じゃないですか……」

「……」

 今の一言には、さすがに思うところがあった。

……そうか、あの態度は俺のステータスが弱かったから、わざと冒険者をやめさせようとして……。

 でもそもそもおかしいのはあのステータスの方だ。

 きっと水晶玉が壊れていただけだろ……。

 すぐに結果で見返してやるさ!

 俺はそう誓い、クエスト掲示板の前に立つ。

 その時、自分と歳も近そうな少女がギルドの扉を開いた。

 日の当たり具合で水色にもピンク色にも見える、不思議な色のフワフワなショートカット。

 眠そうに瞼を降ろしていてもわかる、大きな目。

 それに長い睫毛。

 小さくも形のいい鼻と、薄いピンクの脣。

 まごうことなく、美少女だ。

 こんな子もギルドに来るのかと驚いてしまう。

 受付嬢が先程のよう、顔に笑みを張り付けながら定型文で対応した。

「ようこそエナスカのギルドへ。本日はどのようなご用でしょうか?」

「冒険者登録をお願いします」

 その声はワントーンながらも、天使の囁きのよう。

 声まで可愛いのか……。

 レットはつい聞き惚れてしまっていた。

「かしこまりました。冒険者にはランクがありますが、一番下のFランクへの登録でよろしいですね?」

「一応ステータスを確認していただきたいのですが」

「……かしこまりました」

 あんなか弱そうな女の子が、冒険者に……。

 そりゃあ受付嬢も心配するよなぁ。

――っと、俺には関係無いことか。

 気にしないように依頼書を眺めていたが、やはり入れ違いでやってきた冒険者登録中の少女と受付嬢のやり取りが聞こえてきてしまう。

「凄いですよラァムさん! 実質Bランク冒険者相当の数値です!」

 俺は耳を疑った。

 なん……だって……? 

 それに受付嬢の態度が俺の時と全然違わないか!? 

 受付嬢がにこやかに告げる。

「このステータスであればいきなりCランクからでも問題無いでしょう!」

「えっ……Bではないのですか?」

「どんなに実力のある方でも最初は上限としてCランクからという決まりがあるのです」

「わかりました……」

「ロールの登録はどうなされますか? 前衛も後衛も、魔法もいけますよね?」

「では……ヒーラーでお願いします」

「かしこまりました。このステータスでヒーラーならば、引く手数多でしょう。……おめでとうございます、これでCランク冒険者への登録が完了しました。ただ今からあなたは、立派なギルドの冒険者です」

「ついでにパーティメンバーも探したいのですが」

「賢明ですね。どんなにステータスが高くてもそれを過信しないことです。冒険は何が起こるかわかりませんので、仲間に頼ることが重要になります。そしてそのためのギルドです」

 この受付嬢俺の時と言ってることが180度違うじゃないか!?

「では、ヒーラーの私に合いそうな冒険者の紹介をしていただけますか?」

「それが……ですね」

 言いにくそうに、受付嬢が話し出した。

「割りのいい大規模討伐クエストが少し前に行われ、その時に有能な方々同士が一斉にパーティを組み、大きな部隊として討伐へ向かったため、現在は人材が不足しておりまして……」

「そのクエストはいつ終わりますか?」

「わかりません。帰還予定日はもうとうに過ぎているのですが……。とはいえ、さすがにもうしばらくすれば彼らも帰ってくるでしょう。その時ならばパーティメンバーなどの見直しが行われ、チャンスが訪れますよ」

「……待てないのですが、他にパーティを組めそうな方は居ませんか?」

「今はもう、紹介が憚られるような問題のある厄介な冒険者と、この場に残っている人達くらいしか居ませんね……」

 その言葉に、少女がギルド内を見回す。

 そして俺とも目が合った。

「あっ」と思ったのも束の間。

 すぐに視線は逸らされた。

 少女が言う。

「変な人しか残っていないようですね……」

「聞こえてるんだけど!?」

 つい俺はそう突っ込んだが、あっさり無視された。

 くそ……!

 ちょっとステータスが高いからって……!?

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