始動①〜メイスで丸太をタコ殴り〜

 次の日、俺はメイスと呼ばれる60cmほどの鉄の棍棒を持って、身の丈ほどの丸太の前に立っていた。


 ここは修練場という場所で、丸太を相手に武器を振るう場所と、200mトラックのある広場がある。

 市が運営しており、9時から17時までが開館時間だ。

 15歳以下なら無料で武器の貸し出しもあり、丸太は1本200円で買えた。


 メイスを振り上げると、目の前の丸太に向かって全力で叩き付ける。

 グシャっとめり込み両手へ反動が襲ってくるが、離すわけにはいかない。

 痛みを我慢して、もう一度振り上げて叩き付ける。


 右から左から、振り下ろしたり振り上げたり、様々な方角から丸太へ叩き付ける。

 そして、痛みを我慢しながら祈り続けた。


(回復しろ、回復しろ、回復しろ!!)


 昨日の夜に調べた結果、職業によるスキルの制限がないことがわかった。

 今メイスを振るっているのは、回復魔法のヒールと、身体能力向上のバフ魔法を覚えるためだ。


 スキルや魔法の習得状況で新たに覚えられるものが増えていくスキルツリーと呼ばれるものがある。


 仮にスキルツリーがヴァーサスオンラインと同じなら、ヒールに取得する条件はない。

 しかし、身体能力向上は条件がある。


スキルツリー

メイス熟練度Lv3  

ヒールLv3

身体能力向上習得可能


 メイスは使い続ければLvが上がると思われる。

 しかし、ヒールは支援職なら条件なしで取得できるスキルのため、取得方法に悩んだ。

 俺の持っているヴァーサス・オンラインの知識の中にあるヒールの説明文を思い出した。


【体力や健康を回復する祈り】


 このため、ヒールを習得するためには体が回復するように祈り続けるしかない。

 30分ほどメイスで殴り続けていると、腕が上がらなくなってしまった。

 メイスをその場に落としてしまい、自分の手をみると皮がめくれて血が出てきている。


 震える腕でメイスを持ち、休憩スペースへ向かう。

 置いてある椅子に座り、俺はヒールを覚えられるのか不安になってきた。


 血の出ている自分の両手をみて、願うように治るように祈る。

 すると、淡い緑の光が自分の手を包み込み、血が止まった。

 見間違いかと思って、もう一度祈ると、今度は手の皮が治った。


「ヒールが使えている……」


 スキルを使用できたことで、思わず呟いてしまう。

 振り返ると、いくら鍛えてあったとしても、30分間も全力で丸太を殴り続ける体力が自分にあるだろうか。


(殴り続けている最中にヒールが使えるようになっていたに違いない!)


 今度は体力が回復するように祈ると、体が楽になるのを感じた。

 もう一度使おうとしても、今度はなにも起きない。

 

(もう魔力切れか)


 魔法やスキルを使い続けていると、魔力がなくなる。

 今の俺にはヒールを使えるほどの魔力が残っていないのだろう。


 確かな手ごたえを感じながら、休憩を続ける。

 休んでいれば魔力が回復すると思い、その場で息が整うまで休む。


 適度に休憩をはさみつつ、俺はこの修練場が閉まるまで丸太を殴り続けていた。

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