第96話、力の使い方

 学園祭の準備……といっても、俺たちのクラスはやることがあまりない。

 だが、ダンジョンに入ったり町で依頼を受けるのは、真面目に学園祭の準備をしているクラスの連中に悪い気がする。

 なので、俺たちDクラスはぶっちゃけ、暇だった。

 時間ができたので、俺はリンドブルムと一緒に、クロスガルド郊外にある小さな森へ来た。

 リンドブルムはいい感じの岩に腰かけている。

 俺は呼吸を整え、両手を交差する。


「『龍人変身ドラゴライズ』」


 そして、変身。

 両手が鱗に覆われ、頭にツノが生え髪の色が変わる。

 四分の一クォーターの姿。今の俺なら、時間制限なしにこの状態でいられる。

 そして、闘気。


「使えるのは、黄金の闘気だけ……武器を作ったり、自分を強化できる」


 俺は試しに剣やナイフ、槍や斧を作る。

 うん、調子いいな。初期のころとはだいぶちがう。


「じゃあ次、『第二解放セカンドリベレーション』」


 鱗が身体を覆い、上半身が鎧のようになる。

 半分ハーフの龍人変身。この状態なら飛行もできるし、スキルイーターの力を行使できる。


「『炎龍闘気』」


 スヴァローグの、赤い炎の闘気。


「『樹龍闘気』」


 リンドブルムの黄緑色の、樹木を操る闘気。


「『嵐龍闘気』」


 ファフニールとかいうドラゴンの、緑色の嵐を操る闘気。


「『毒龍闘気』……う、これあんまり使いたくないな」


 テュポーンの、紫色の毒を操る闘気。


「そして、『水龍闘気』」


 エキドナの、水色の水を操る闘気。

 他にも気配遮断というスキルがある。スキルイーターで獲得したスキルだ。

 はっきり言って強い。ドラゴンの闘気はあらゆるスキルを圧倒する。

 そして、もう一段階。


「『第三解放サードリベレーション』」


 鱗が下半身を覆い、顔以外の全てが鱗に包まれる。

 この状態、闘気の流れが実にスムーズ。さらに足の鱗を展開すると闘気を放出できて、高速で移動することが可能になるのだ。

 たぶん、普通の人間相手だったら、ここまで変身しない。

 そして───……最後。


「『第四解放フォースエヴォリューション』……っぐ」


 最終形態。

 顔も鱗に覆われ、肌の露出が完全に消える。

 それだけじゃない。鱗の形状も変わり、より硬く、より機能的になる。

 だが、ほんの数秒経過するだけで、闘気がごっそり消費される。この状態、一分くらいしかもたない。エキドナとテュポーンの《核》を取り込んだせいか、最初に比べて多少は変身できるようになった。


「ぶっはぁぁっ……ふぅ、こんな感じ」

「おおお……リュウキ、すごい」

「で、正直に言ってくれ。俺は、バハムートとかいう奴に勝てるか?」

「無理」


 リンドブルムはきっぱり言った。


 ◇◇◇◇◇


 こんなはっきり言われると、さすがに傷付く。

 リンドブルムは首を振り、俺を真っ直ぐ見て言った。


「バハムートお兄さま、パパに最も近いドラゴンって言われてた。わたしたち七人の兄弟で挑んでも勝ち目ないって。ハクリュウお姉さまがそう言ってたの」

「ハクリュウ、あいつが? あいつ、バハムートの力を封印したとか言ってたけど」

「ハクリュウお姉さまは、バハムートお兄さまを除いた兄妹全員で挑んでも勝てないくらい強いよ。お姉さまでも、力の一部を封印することが精一杯かも」

「……そんなヤバいのか」

「うん。お兄さまとお姉さま、別格。でも、パパはそんな二人を同時に相手しても掠り傷すら負わず、二人の頭をなでなでしてた」

「…………」


 エンシェントドラゴン……どれだけ強かったんだ?

 

「バハムートお兄さま、パパに勝つってずっと言ってた。パパの死期が近いことも知ってた。パパの力、継承するって言ってた……パパ、いなくなってすごく落ち込んでた。その隙にお姉さまがお兄さまの力の一部を封印したの。危なっかしいからとか」

「……バハムートってやつ、悪い奴じゃないのか?」

「わかんない。でも……ううん、どうせすぐにわかることだから教えるね」

「?」

「バハムートお兄さま、起きた。起きて、西方のロストワン帝国を滅ぼした」

「……え」

「寝起きでイライラしてる。パパのこと、ハクリュウお姉さま、そして……リュウキのことで。まだ完全に封印が解けてないみたいだけど、封印が解けたら、真っ先にリュウキのところに来る」

「お……おい、それ、大丈夫なのか?」

「たぶん。ハクリュウお姉さまのかけた封印は、呪いでもある。力の封印と、酔夢の呪い。まだ夢うつつ……完全に起きたら、動きだす」

「…………リンドブルム」

「ん」

「俺は、そいつと戦わないとダメか?」

「うん。お兄さまは、パパのこと嫌ってた。憎んでた。でも……それ以上に、愛してた。パパの力、欲しがってた」

「…………」


 きっと、俺は逃げられない。

 エンシェントドラゴンの力を持つ人間として、息子であるバハムートと戦わなければならない。

 だったら……俺は、強くならなくちゃいけない。


「もっと強くなる。恨み、怒り、憎しみなんかじゃない。純粋な力をぶつけてくるなら、俺もそれに応えなくちゃいけない……きっと、今回はそんな戦いになる」

「でも、お兄さまは……きっと、リュウキを殺すよ」

「大丈夫。俺は受け止めてみせる」


 俺はリンドブルムの頭を撫で、自分の中にある黄金の力をさらに昇華させることを決意した。

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