第85話、睡蓮水龍エキドナ
俺は闘気の鎖でイザベラを拘束し、頭をペシペシ叩いた。
「おい、起きろ」
「ぐ……」
イザベラが眼を開ける。
俺は一切の容赦なくイザベラの首を掴み、前を向かせる。
そして、首を掴みキルトの方を向ける。キルトはボコボコに腫れた顔で、蔦と枝でがんじがらめにされ、がっくり項垂れていた。
「き……キルト!! あ、あぁぁ……な、なんてことを!!」
「お前の言うこと聞いた末路だろ」
「あなたの弟なのですよ!?」
「知るか。あいつは俺のこと、兄と思ったことはないだとさ。お前も、耳障りのいい言葉並べてるんじゃねぇよ。俺の魔力を奪ってキルトに与えたくせに」
「くっ……」
「お前を殺すのは、質問に答えてからだ。アキューレをどこにやった?」
「……はっ、言うと思う? それに、あなたはもう終わり。我らが盟主、エキドナ様とテュポーン様には絶対に勝てない。ふふふ……あのお方の一番である私をこんな目に合わせて、生き残れると思って? ブガッ!?」
俺はイザベラの肩にナイフを突き刺した。
こいつを傷付けることに、一切の迷いがない。
不思議なくらい、イザベラに対して心が冷え切っていた。
「い、いだぁぁぁぁぁ!? やや、やめなさい!! あなた、私は、私は、あなたの継母なのよ!?」
「母親らしいことなんかしたことないくせに。それと、次に俺の母を名乗ったら指をへし折る。俺の母は、俺を産んでくれた方だけだ」
「こ、この、え、エキドナ様ぁぁぁぁ!! お助けを、お助けをぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
「うるさっ」
喉を潰して黙らせようかと手を伸ばす。
すると、俺の手に細い女の手が添えられた。
「フフ、ダメよ?」
「えっ」
水色の、ロングウェーブヘアの少女だった。
俺と同じくらいか、少し上くらい。
ほとんど白い、水色のドレスを着ている。胸元が緩いせいか、前かがみになると胸が見えてしまいそうだ。少女は、俺の手を掴んで優しく微笑んでいる。
だが───触れられた瞬間、俺は恐ろしい何かが全身を駆け巡ったような気がして、全力で飛びのいた。
「あん、乱暴ねぇ」
「え、え……エキドナ様ぁぁぁぁぁ!!」
「イザベラ。もう、情けない姿ねぇ。でも……そんなあなたも、可愛いわぁ」
「あ、あぁぁ……ありがとうございますっ!!」
何だ、こいつは。
ただの女ではない。というか、人間ではない。
俺は冷や汗が止まらなかった。目の前にいるこいつが、俺に敵意を向けた瞬間、俺は塵になる……そんなあり得ない光景まで浮かんだ気がした。
「怯えてるの?」
「えっ」
肩に手が添えられた。え? え? 俺の前に女はいるぞ?
なんで、女がいない? 何で俺の肩に手を乗せている?
イザベラの隣に……あれ、イザベラの隣に女がいない。イザベラもポカンとしている。
「あなたが、御父上の力を継承した人間ね。なかなか可愛い子」
「…………」
戦うということすら、おこがましい。
遥か格上だ。こいつは、スヴァローグなんて歯牙にもかけない強さ。
生身の俺のレベルが10だとして、変身して200くらいだとする。
こいつは、数千じゃ利かない。それくらい、絶望的な戦力差。
「スヴァローグを倒して、リンドブルムを手懐けたようだけど……それでおしまいね。今のあなたじゃ、アンフィスバエナはもちろん、私にもテュポーンにも勝てないわ」
「……そ、そんなの」
「無理なの。あなたが、人間である限りね」
エキドナは、俺の肩を優しく撫で、胸に手を這わせる。
動けなかった。下手したら、心臓を抉られる。
「そうねぇ……このまま、帰らない?」
「……は?」
「私、あなたのこと気に入ってるの。あなたが望むなら、イザベラを殺してもいいわ。エルフの子も返してもいい」
「え、エキドナ様……?」
「……お前、ギガントマキアは」
「ギガントマキアは、また作れるわ。それより……あなたを主人公にして遊ぶ方が、面白そう」
「…………」
エキドナは、笑っていた。
俺たちを逃がしてもいい。イザベラも殺してもいい。
なんだ、それは?
「次は、俺で遊ぶってか?」
「正解。ふふ、たくさん台本を考えてあげる。あなたの通う学園に、新生ギガントマキアを送り込んで戦うのはどうかしら? 御父上の力で、迫りくる敵を殲滅するの! 学園の生徒を人質にとって、あなたがこっそり救い出すとかは? 影に潜んで悪を倒すヒーロー! ああ、考えるだけでワクワクするわぁ」
「…………」
「ね、楽しく生きましょう? 私と一緒に楽しく……ね?」
こいつは、俺を『敵』と見ていない。
俺は、こいつのオモチャだ。
生きているオモチャ。俺が死ぬまで遊びつくす。
殺そうと思えば、いつでも殺せる存在。
「───……はっ」
「ん? どう、決めた?」
「ああ。お断りだね」
「あら……それは残念。で、どうするの?」
「お前を倒す。そして、二度とギガントマキアなんてクソ組織が出ないようにする」
「ふぅん? まさか……私に勝てるとでも?」
「勝てるかどうかじゃない。勝つんだ───『
俺は変身する。
黄金の闘気を全身に巡らせ、エキドナを睨みつけた。
渾身の威嚇も、全く効果がない。
「仕方ないわねぇ。少し、遊んであげる」
「オォォォォォォォォォッ!!」
俺は巨大化させた五指に力を込め、エキドナに飛び掛かった。
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