第81話、イザベラ

 宮殿が騒がしかった。

 リュウキが一階で暴れている。

 それを聞いたエキドナは、宮殿内にいる人間たちの脳内に、直接命じた。


『邪魔者を排除なさい』

「「「「「はっ!!」」」」」


 ギガントマキアの構成員たちは、リュウキの元へ。

 エキドナは、絶対に勝てはしないだろうと確信している。テュポーンも同様だ。

 せいぜい、時間稼ぎがいいところ。

 テュポーンと入れ違いで入ってきたイザベラが跪いて言う。


「これから、どうしますか?」

「そうねぇ……ここ、もう駄目みたいだし放棄しようかしら。人間も残り少ないし、別の国で集めて、また遊びましょう。ねぇ、イザベラ」

「はい、我が盟主」


 エキドナは、いつの間にか部屋にいたイザベラを呼ぶ。

 ベッドの上では、アキューレがエキドナに組み伏せられている。イザベラは、アキューレを見て軽く舌打ちをした。それを聞いたエキドナはクスクス笑う。


「ふふ、やきもちかしら? 可愛いわねぇイザベラ」

「い、いえ。その……」

「大丈夫。人間ではあなたが一番よ。あなたの息子も愛してあげる」

「あ、ありがとうございます!!」


 イザベラは満面の笑みを浮かべ、一礼する。

 エキドナの一番のお気に入りであるイザベラは、ギガントマキアの指揮を任されている。

 莫大な資金を与え、好きに遊ばせ、その様子を眺めるもエキドナの趣味だった。なので、イザベラがドラグレード公爵家に入り、息子のキルトのためにリュウキの魔力を奪ったことも、当然知っている。

 その人間が闘気を得て戻ってきたことは、イザベラに伝えていない。

 なぜなら、言うとつまらないから。

 だから、エキドナは言う。


「イザベラ。侵入者が誰だかわかるわね?」

「はい。リュウキ……あの抜け殻ですね。何やら妙な『獣化』スキルを得たようですが、我が息子キルト、そして私の敵ではありません」

「ふふっ……そうねぇ」


 本当に、可愛い。

 イザベラは何も知らない。知らされていないのだ。

 リュウキがエンシェントドラゴンの力を継承し、エキドナやテュポーンと同じ『闘気』を得た、人間だということを。

 もし、何も知らないイザベラがリュウキと戦ったら?

 その自信が木端微塵に砕け散ったら?

 イザベラは、どんな顔をするのだろうか?


「……~~~っ」

「エキドナ様?」


 エキドナは震えた。

 ゾクゾクして、身体が震える。

 イザベラがどんな顔をするのか、見てみたい。

 そのために、一番のお気に入りを壊すことになるかもしれない。


「ね、イザベラ」

「はい」

「あなたの息子、ここにいるの?」

「はい。ギガントマキアの後継者として、連れてきました」

「そう……じゃあ、見せてくれない?」

「はい?」


 エキドナは、自らの指を嚙み千切る……すると、水色の血がポタポタ流れ落ちた。

 イザベラはゴクリと喉を鳴らす。そして、エキドナが手招きし、ベッドの傍へ。

 アキューレは、その光景を見ていた。

 

「はい、あ~~~~ん」

「あ、あぁぁ……」


 青い血が、イザベラの口から喉を伝い、体内に吸収される。

 すると───……イザベラの身体に変化が。

 三十代半ばのイザベラ。その身体が若返り、十代後半の身体となる。そして、魔力が一気に膨れ上がり……さらに、闘気を纏ったのだ。

 

「あ、ああ……す、すごぃぃぃ……っ!!」

「ね、イザベラ……私、見たいな」

「……っ」

「あなたと、あなたの子供が……侵入者を、排除する姿を」

「っ!!」


 イザベラは立ち上がり、ドレスの裾を持ち上げた。


「仰せの通りに、我が盟主」


 ◇◇◇◇◇


 宮殿内の応接間に、キルトとチーム『アークライト』が集まっていた。

 チーム『アークライト』の数は、総勢40名。全員が揃っていても、応接間には余裕がある。一国の王が使うような宮殿に、キルトは満足していた。

 

「へへへ……これが権力、これが力、これが組織、か」

「キルト様、これから何が始まるんですか?」


 プリメラは首を傾げる。

 プリメラだけではない。どのような『依頼』でここまで来たのか、何をするのか、キルト以外誰もわかっていない。だが、こんな部屋を用意する時点で、相当な依頼だ。

 すると、応接間のドアが開き、イザベラが入ってきた。


「母上。おかえりなさ……え、母上?」

「ええ、あなたの母イザベラよ。キルト」

「……母上はそんなに若くない。お前、一体」

「ふふ、信じられないようね。エキドナ様のお力で若返っただけ……それより、あなたと、あなたのチームを歓迎するわ。ようこそ、『ギガントマキア』へ」


 すると、冒険者たちがどよめく。

 今、確かに言った。『ギガントマキア』と。

 イザベラは、パンパンと手を叩き説明を始めた。


「ギガントマキア。一般には犯罪組織と呼ばれてるわ。でもね、実際には違う。この組織はドラゴンによって作られた組織。そして今、我らが盟主エキドナ様とテュポーン様は……建国の意志を示しているわ」

「け、建国……?」

「ええ。あなたたちも冒険者なら知っているでしょう? その強大な力を……その力で、国を作る」

「は、母上……本気、ですか?」

「ええ。キルト、あなたたちは選ばれたの。偉大なるドラゴンの使徒に」

「お、おお……」


 キルトはブルっと震えた。

 プリメラも、他の冒険者たちもゴクリと唾を飲み込む。


「あなたたちには選択肢が二つある。一つは、ギガントマキアに忠誠を誓い戦うか。二つめ、記憶を消され、このまま帰るか」

「か、帰れるのか!?」


 冒険者の一人が叫ぶ。イザベラは頷いた。


「もちろん。その代わり、今日一日の記憶と、チーム『アークライト』に関する全ての記憶を消すわ」

「……」

「どうするかは任せるわ。ドラゴンの作る国のために働けば、それ相応の地位も約束されている。このまま帰れば何気ない日常が戻るわ……退屈な日常がね」


 室内は、静寂に包まれた。

 すると、キルトは言う。


「みんな、やろうぜ。へへへ……建国だってよ。マジで面白そうじゃん」

「き、キルト様……」

「オレはやるぜ。新しい国の王に、オレはなる。みんな、オレに付いてこい。オレと一緒なら、なんだってできる。オレがみんなに、ユメを見せてやるよ」


 キルトは強く拳を握り、掲げた。

 すると、チームの一人が剣を抜いて掲げ、他にも武器を掲げる者が出た。

 一人、また一人、また一人……最終的には、全員が武器を掲げた。


「やるぞ!! オレたちの未来のために!!」

「「「「「オォォォォォッ!!」」」」」


 チーム『アークライト』は、ギガントマキアに下った。

 イザベラは満足そうに微笑み、全員に言う。


「じゃあまず、最初のお仕事……この宮殿の侵入者を、始末する」


 イザベラは指を鳴らす。

 すると、イザベラの背後に巨大な異空間への入口が開く。

 その異空間から、一体の巨大な『鬼』が現れた。

 真紅で、傷だらけの肌。手には大剣を持ち、背中には斧を二本背負っている。

 頭にはツノが五本生え、現れると同時に吠えた。

 吠えると、赤い身体に火が付き燃える。


『ウォォォォォォォォォォォォォ───ッ!!』


 大罪魔獣、『憤怒の鬼帝』スルト。

 イザベラの切り札の魔獣が、絶叫した。


「さぁ……侵入者を殺しましょうか」

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