第64話、大罪魔獣『傲慢なる大蛇』ミドガルズオルム

 俺は左手を解放し、闘気を放出。

 イメージするのは、無数の鎖。


「『闘気精製ドラゴンスフィア』───〝黄金鎖ゴールドチェイン〟」


 左手から黄金の鎖が現れ、腕に巻き付く。

 それを思い切り振るうと、盗賊の一人に絡みつく。


「ぐぁ!?」

「オラァ!!」

「ぎゃ!?」「がブッ!?」


 そのまま力任せに振り回し、盗賊を二人ほど巻き込んで壁に叩きつけた。ボキグシャと嫌な音が聞こえた……どうやら、叩きつけた衝撃で何か所も骨折したようだ。

 そして、俺の背後に迫るナイフの男。こいつは……アピアを傷付けた野郎か。

 スキルなのか、いつの間にか背後へいた。


「キシシ……死ね」


 ナイフで俺の首を斬る───……が、首に闘気を集中させたので切れなかった。

 驚く男。俺は右手で男の首を掴み、持ち上げる。


「ゴェッ!?」

「お前、むかつく……ムカつくから、このまま喰ってやる」

「え……あ、が、ご、ぅっえ」


 右手が口になり、そのまま男を丸呑みした……うぇ、いい気しないな。

 死んでなくても食えるようだ。男のスキルが頭に浮かぶ。

 スキル『気配遮断』か。けっこう使えそうだけど、ストックできないから消すしかない。

 すると、盗賊たちが言う。


「く、食ったぞ……」「な、なんだあのスキル?」

「おい、あの腕……まさか」「あのガキ、やばい」


 盗賊たちが困惑していた。すると、洞窟の上で待機していたミドガルズオルムが、盗賊を三人ほど丸呑みした。


「テメェらビビッてんじゃねぇ!! さっさとガキを殺さねぇと喰い殺すぞ!!」

「「「ひっ……」」」

「悪いけど、あんたらは俺の敵じゃないね。『闘気精製ドラゴンスフィア』……〝拳骨〟!!」


 黄金の闘気で作った巨大な『拳骨』が、盗賊たちの頭上に落ちた。

 盗賊たちは目を回し気絶。残ったのはスキンヘッドのリーダーだけだ。

 俺はリーダーに拳を向ける。


「あんたらを捕縛する」

「フン……この『ギガントマキア』である我々を捕縛だと? 舐めるなよガキが。我々の盟主、テュポーン様とエキドナ様からいただいたお力、見せてやろう!! ミドガルズオルム!!」

『シャァァァァ……ッ!!』


 頭上の穴から現れた大蛇、ミドガルズオルム。

 ミドガルズオルムは、気絶した盗賊たちを全員丸吞みし、俺に向かって威嚇した。

 俺は拳を構え、闘気を全開にする。


「ヘビ野郎め、ブツ切りにして喰ってやるよ」


 ◇◇◇◇◇


 ミドガルズオルムが襲い掛かってきた。

 上空から、俺を丸呑みしようと大きな口を開けている。

 そんなに食いたいなら、食わせてやるよ。


「『闘気精製ドラゴンスフィア』───〝黄金球ビッグボール〟!!」


 闘気で巨大な『玉』を造り、ミドガルズオルムの口へ放り込む……が、なんとミドガルズオルム、玉を丸吞みして再び俺に襲い掛かってきた。

 ぽっこり膨らんだお腹。だが、その腹は一瞬で元の大きさへ。

 ギョッとしつつ、近くに壁に右腕を伸ばして掴み、身体を引っ張る。ミドガルズオルムは俺が立っていた場所に喰らい付くと、物凄い速度で地面をガリガリ削り地中へ。


「ま、マジかよ……!?」

「くはははは!! ミドガルズオルムの顎、牙、消化能力を舐めるなよ? 地面を喰らいながら地中を移動するなど朝飯前よ!! それと───いいのか?」

「え───しまっ!!」


 俺は全速力で転がっているレノ、サリオを一瞬で作った鎖で巻き取る。そして、その場から離脱した瞬間、レノたちのいた場所からミドガルズオルムの頭が飛び出した。


「ミドガルズオルムは常に腹を空かせている。ククク……守りながら戦えるかな?」

「まずい!!」


 俺は蔦が巻かれている檻へ近づき、鎖でがんじがらめにして背負う。


「え、な、なになに!?」

「俺だ!! レイ、アピア。中にいる女の子たちも!! 俺が檻を背負って戦うから、とにかく檻にしがみついててくれ!!」

「ど、どういう状況よ!?」

「デカいヘビに丸呑みされそうなんだよ!!」


 檻を背負い、気絶しているレノとサリオを背負った檻に固定する。これ、変身してなかったら完全に犠牲が出てた。

 ミドガルズオルムは地面から顔を出し、舌をピロピロ出す。

 獲物を狙う目……この野郎、舐めやがって。

 

「スキルイーター・セット。『炎龍闘気』」


 赤い闘気が可視化されほど濃くなる。

 両手に『炎龍籠手』を装備し、走り出す。


「ミドガルズオルム!! まとめて丸呑みしろ!!」

『シャァァァァ───ッ!!』


 これまでにないくらいミドガルズオルムの口が開く。

 俺は急停止し、バックステップ。思い切り距離を取り、右拳を限界まで溜める。

 迫るミドガルズオルムの口。

 その口の大きさを超えるほど右手を巨大化させ、真っ赤な闘気で包み込む。


「『龍人拳・炎龍ドラッケン・スヴァローグ』!!」


 巨大化した拳が真っ赤に燃え、ミドガルズオルムの口に入る。

 

「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

『───、───!?!?!?』


 ミジミジミジミジミジィィ!! と、ミドガルズオルムの口から身体が裂けていく。

 半分ほど身体を裂き、右手を開いて身体の内側を掴み、全力で持ち上げてから叩きつけた。

 ブジャァ!! と、ミドガルズオルムの身体が裂ける。

 当然、ミドガルズオルムは死んだ。目が真っ白になった。


「あとはお前だけ───……あ、あれ?」


 盗賊のリーダーは……いつの間にか消えていた。


 ◇◇◇◇◇


 背負っていた檻、レノとサリオを下ろす。

 けっこう揺らしたけど、大丈夫かな。

 鎖を外し、覆っていた蔦を外すと、檻の扉が開いた。


「リュウキ、無事!?」

「リュウキくん!!」

「ああ、なんとか───……っ」

「な、なにあの蛇……あんた、やっつけたの?」

「盗賊の方々は……?」

「…………」

「とりあえず、何があったか話してもらうわよ」

「あの、怪我はありませんか?」

「…………あの」


 俺は、なるべく見ないように言う。

 

「ふ、服」

「「…………」」


 二人は、素っ裸だった。

 なるべく見ないようにしたけど……すみません、ばっちり見ちゃいました。

 俺はそっぽ向き、闘気で毛布……は無理だったので、身体を隠せそうな布っぽい生地を大量に作り、レイたちの後ろにいた少女たちに渡した。

 無言で着替えを終えたレイは俺に言う。


「……見た?」

「…………」

「リュウキくん、見ました?」

「……………………すみません」


 めちゃくちゃ小声で謝ると、二人は真っ赤になりそっぽ向く。

 すみません。つまり肯定……ああそうだよ、上も下も見たよ。悪かったですごめんなさい!!

 俺は謝り、レノとサリオを起こす。

 二人が起き、ミドガルズオルムの残骸に驚愕し、ようやく落ち着いた。

 そして、目の前にある問題が見えてきた。


「助けていただき、ありがとうございます」


 エメラルドグリーンの髪、長い耳。

 同年代くらいの少女たちが、総勢八名。


「エルフ……東方の、森の奥で精霊と共に暮らす種族、だっけ」


 レイが言うと、少女の一人が頷いた。


「その通りです。我々は、『ギガントマキア』に攫われ、この中央諸国まで来ました」

「「「ギガントマキア……」」」


 俺、レノ、サリオが首を傾げて言う。

 すると、レイが厳しい顔で言う。


「ギガントマキア。リュウキ……あんたは知っておくべきね」

「レイ、知ってるのか?」

「ええ。ギガントマキアは、犯罪組織認定されている危険な組織。問題なのは……ギガントマキアを率いる、トップの二人。正確には双子」

「……確か、テュポーン、エキドナ、だっけ? さっきの盗賊が言ってた」


 レイは頷く。そして、俺の目を真っ直ぐ見て言う。


「テュポーン、エキドナ。この二人はドラゴンよ」

「え」

「ドラゴンが、人間に力を与えて、好き勝手やってるの。唯一の救いは、その二体のドラゴンは手を出さず、人に力を与えてやりたいようにやらせて、それを見て楽しんでいるの。冒険者がギガントマキアの構成員を倒してもドラゴンたちは笑うだけ。また新しいがぎ←?生まれる」

「…………」

「どうやら、ここにいたギガントマキアの人間は、人身売買をしようとしているみたいね」


 スヴァローグ、アンフィスバエナとはまた違うドラゴンが、脅威として俺の前に現れた……気がした。

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