第49話、リュウキの闘技大会

「スキル『獣化』……すごいな、初めて見た」

『そりゃどうも』


 対戦相手のエドワードは、人型の狼に変身した。

 俺は『闘気開放エンシェント』で全身を強化する。同様に、エドワードも魔力で『身体強化』を使っているようだ……不思議だ。闘気開放すると、相手の魔力の流れもなんとなく見える。

 

『さぁ、遊ぼうぜ!!』

「ああ、楽しめそうだ」


 エドワードが───……一瞬で背後へ。

 俺はしゃがみ、横薙ぎを回避。


『!?』


 驚くエドワード。俺はしゃがんだままの体勢から足払いをする。闘気で強化された蹴りは効いたのか、エドワードの体勢が崩れた。

 そのまま、拳に闘気を込めてエドワードの横っ面を殴る。


『ゴバッ!?』


 エドワードがリングを転がる。だが、すぐに態勢を整える。

 口から「ペッ」と血を吐き顔をぬぐう。


『やるじゃねぇか』

「どうも。お前もな」

『へっ……キルトがギャーギャー騒ぐから、どんなクズ野郎だと思ってたけど……いいパンチだ。やっぱ、実際に戦わねぇとわかんねぇな』

「……お前、いいやつだな」

『はは、いい奴ね。そう思うんだったら、手加減するなよ?』

「ああ。少し本気で行く」


 込める闘気の量をあげる。あまり強すぎると殴り殺しかねない。

 エドワードの毛が逆立つ。


『ったく、どんなスキル宿してんだ……』

「あー……」


 スキルイーターは特に検証してない。だって、相手の一部を食うとか無理だし。

 エドワードの体勢が低くなる。

 俺も身体を低くして、エドワードとほぼ同時に飛び出した。


『ッシャァァァァ!!』

「『龍拳インパクト』!!」


 ズドン!! と、エドワードの腹に俺の拳が突き刺さる。

 今度は吹っ飛ばなかった。衝撃が綺麗に突き抜けた。

 エドワードは口から血を垂らし、ニヤリと笑い……獣化が解けた。

 倒れるエドワードを、俺は支える。


「お前の、勝ち、だ……」

「ああ、ありがとな」

『勝者!! Dクラス、リュウキ!!』


 割れんばかりの歓声に俺は応えた……うわぁ、これ気持ちいいかも。


 ◇◇◇◇◇


 それから、試合は順調に進み……俺は医務室にいた。


「い、痛いよぉ~……リュウキくぅん」

「マルセイ、お前……大丈夫か?」

「ぅぅぅ」


 ボロボロでベッドに横たわるマルセイ。

 マルセイは、魔法スキルで対戦相手と打ち合い、魔力が互いに尽きて、最後は殴り合いの泥仕合となった。互いの拳が同時に顔面にヒットし、ダブルノックダウンで引き分け。

 マルセイが勝てば俺との戦いになったのに。


「うぅ、リュウキくんは次……ぼくとの戦いだったのにぃ」

「悪いな、今度機会があればやろうぜ」

「ふ……いいよ、いたたたた……」


 マルセイは、パンパンに腫れた顔を痛そうに擦る。

 俺は聞いてみた。


「そういえば、次の試合は誰だっけ?」

「Aクラスのレイちゃんと、Dクラスのレノだよ。レノ、Dクラスとは思えない強さらしいよ」

「へぇ……レイとレノか」


 あの二人が当たるとは、なかなか面白そうだ。

 俺もマルセイに構っていないで、様子を見に───。


「ぐ、いでで……ちくしょう、あいつ」

「……レノ!? おま、もう終わったのか!?」


 医務室に担がれてきたのは、レノだった。

 待て待て。どうなってんだ?

 すると、付き添いのサリオが言う。


「瞬殺だよ。試合開始と同時に、レノが倒された」

「え……」

「レイさん、すごく気合入ってる。だって、次の試合は……」


 サリオが対戦表を渡してきた。

 確認すると、レイ対レノ、キルト対プリメラ、マルセイ対ポッケ、俺対バイク。

 俺とバイクの戦いは俺が勝ち、マルセイ対ポッケは引き分け。レイとレノはレイが勝ち……。


「キルト対プリメラ。プリメラ、試合開始と同時に棄権した。これで準決勝はレイとキルトだ」

「……マジか」


 嫌な予感がした。

 俺は不戦勝で決勝行き。もうすぐ試合が始まる。


「すぐに試合は始まる。おいリュウキ、あいつのところ行ってやれ」

「ああ」


 俺は医務室を出て、レイの元へ向かった。

 

「悪いけど、手は抜かないから」


 控室に入るなり、そう言われた。

 レイは、自前の槍を連結させてクルクル回転させたり、手に雷を集中させている。

 一緒にいたアピアも不安そうだ。


「レイちゃん、すごく気合入ってて」

「別に普通だし」

「ふふ、そうですね」


 レイは槍を二本にして背中に収納した。


「じゃ、行ってくる。リュウキ、あんたがやりたかっただろうけど、あたしがやっちゃうから」

「好きにしろよ。それと……気を付けろよ」


 レイは軽く手を振り、リングに向かった。


 ◇◇◇◇◇◇


 リングには、キルトが立っていた。

 手には杖を持ち、腰には剣を差している。

 レイを見てニヤリと笑い、杖を突き付けた。


「兄貴の女か。おもしれぇ」

「こっちは面白くない。あんたみたいなカス、さっさと始末する」


 レイは槍を抜き、双剣として構えた。

 そして───試合開始の合図。

 レイは双剣に『雷』を宿し、身体強化して走り出す。


「ッシ!!」

「っとぉ!!」


 キルトは双剣を回避し、杖を振るう。

 杖から風の刃が飛び出すが、レイは双剣を振って打ち消す。


「『ファイア』!!」


 杖から炎が───だが、レイは横っ飛びで回避。


「『ウォーター』!!」


 水の塊が飛んで来た。レイは身体を捻って回避。

 そして、合わせて風の刃も飛んでくる。レイは絶妙なタイミングで回避した。


「ちょこまかと……!!」

「…………」


 レイは双剣の一本を投げる。

 キルトが突風を生み出し、双剣は地面を転がる。だが、レイはキルトに接近。

 転がった剣に手を向けると、剣はまっすぐレイの手に収まった。スキル『磁界』により、金属ならどんなものでも引き寄せることができる。

 そしてキルト。突風を生み出したことで、次の魔法への行動が少し遅れた。

 レイは見逃さない。

 

「遅い」

「ぬがっ!?」


 キルトの杖が両断され、キルトも地面を転がった。

 経験の差だ。

 キルトには、実戦経験が足りてない。


「実戦経験の差ね。貴族のおぼっちゃん、ろくに戦場やダンジョンを知らないみたい。大事に大事に育てられてきた、箱入りのお坊ちゃまね」

「んだと……?」

「いくら強力なスキルを宿そうと、あんたがヘボなら意味がない、ってことよ」

「ヘボ、ね……それはどうかな?」

「あ?」


 ───俺は見た。

 リングの外から、小さな『虫』が飛んできて……レイの首に、何かを刺した。


「なっ」

「リュウキくん?」

「今の……」

「?」


 アピアには見えていない。

 刺されたレイも気付いていない。

 誰も、気付いていなかった。


「……ッ、?」

「どうした? 体調不良か?」

「……なっ、なに、これ」

「ふん。自己管理もできないお前に、箱入りとか言われたくねぇなぁ」


 キルトは剣を抜き、地水火風の力を集める。

 あれはやばい……!! 


「レイ!! 逃げろ!!」

「遅い。『エレメンタル・ブラスト』!!」

「───……ッ」


 四色の光に包まれ、レイは場外に吹き飛ばされた。

 戦闘不能により、キルトの勝利。

 観客に応えるキルトを無視し、俺とアピアはレイの元へ。


「レイ、レイ!!」

「ぅ……」

「酷い火傷……早く医務室に!!」

「ああ!!」

「おいおい兄貴、次はオレとの試合だぜ? へへへ、楽しくなってきたなぁ?」

「…………」

 

 俺は───キルトを殺すつもりで睨んだ。

 アピアがビクッと震えたのがわかったが、気にしない。


「逃げたら殺す」

「へ、こっちのセリフだぜ」


 俺はキルトを睨みつつ、アピアと一緒にレイを医務室に運んだ。

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