第37話、暴走

「ハァァァァ~~~……」


 リュウキは、獣のような呼吸をしていた。

 わけがわからない。だが、レイは呟いた。


「……リュウキ、ドラゴンに闘気をもらったって言ってた。でもこれ、どう見ても闘気じゃない」

「ど、どういう意味だよ?」

「ヒトの、身体じゃない。あれ……鱗、だよね? それに、ツノも生えてる」

「……ドラゴン」


 アピアがポツリと呟いた。


「あれは───ドラゴン、です」


 ◇◇◇◇◇


 リュウキの右腕が膨張し、さらに腕が伸びた。

 マルコシアスの顔面を鷲掴みにし、執拗に床に叩きつける。マルコシアスは動けなかった……ただの掴みなら、どんな魔獣相手でも逃れる自信はある。

 だが、リュウキの手は違った。びくともしないのである。

 叩きつけられても痛みはない。だが……このままではよろしくない。

 マルコシアスは、叩きつけられた瞬間に両足で着地し、踏ん張った。


「ハァァ……???」


 目の前の人間……果たして人間なのか?

 角が生え、牙も生え、口から金色の吐息が漏れている。

 マルコシアスは両足で踏ん張りつつ、顔を振る。すると、リュウキの拘束が解けた。

 反撃───マルコシアスは、『自身の影に潜った』

 マルコシアスが最強である理由。マルコシアスは『スキル』を使う魔獣。

 スキル『影牢』……影に潜むことができるスキルで。

 このままリュウキに接近し、足元から喉笛を食い千切ろうと接近する。

 だが───リュウキは、笑っていた。


「グゥゥ……ハハ、ッハッハ!!」


 左腕がバキバキと音を立て、装甲版のような鱗が割れていく。

 すると、割れた左腕から、濃密な黄金の闘気が立ち上る。まるで、闘気の噴出口のような左腕。

 リュウキの腕の周辺に闘気が噴出し……なんと、巨大な『槍』が何本も生み出された。

 『闘気精製ドラゴンスフィア』───普段のリュウキとは桁違いの練度。芸術品のような装飾の施された黄金の槍が、一気に三十本以上闘気から精製された。

 リュウキが左腕をあげると、槍が一斉に頭上へ飛ぶ。

 そして、一気に降り注いだ。


『!?』


 マルコシアスの潜む影に、黄金の槍が降り注ぐ。

 マルコシアスの身体に槍が突き刺さり、影に潜んでいたマルコシアスが飛び出した。

 その間も、リュウキの『闘気精製』は続いている。

 一本の巨大な『杭』を生み出し、恐るべき腕力で床に突き刺す。さらに、無数の『鎖』が左腕から伸び、槍が刺さったままのマルコシアスの身体を、がんじがらめにした。


『が、ガガガッ……!?』


 動けない。

 槍が刺さり、全身鎖でがんじがらめになり、鎖は床に突き刺さった杭に巻き付いている。

 さながら、家の庭で飼われている飼い犬のような、そんな有様。

 屈辱的だった。マルコシアスはブチ切れ、暴れまくる。

 だが───闘気で精製された黄金の鎖は、マルコシアスの強靭な顎と牙をもってしても、噛み千切れない、砕けない、引き千切れない。

 そして、リュウキの右腕が今までにないくらい巨大化し、装甲版のような鱗が割れ、闘気が噴出。

 黄金の装甲を纏った、巨大な右腕へと変わった。


『……ッ』


 マルコシアスの目が見開かれる───死ぬ。

 

「ギャァァッハッハッハッハッハァァァァァァァァァァ!!」


 リュウキの右腕が振り下ろされ、マルコシアスの身体がペチャンコに押しつぶされた。


 ◇◇◇◇◇


 ぐちゃ、ばきぼき、べきべき……と、肉と骨が砕け、咀嚼するような音が響く。

 レイたちが見たのは、リュウキの右手が巨大化し、マルコシアスの身体を押しつぶし……そのまま右手を静かに握り締めると聞こえる、咀嚼音のような何か。

 なぜ、マルコシアスの死骸がないのか。

 なぜ、リュウキの右手から咀嚼音が聞こえるのか。

 咀嚼音が消えると、リュウキの右腕が収縮していく。

 髪と目の色が戻り、ツノが消え、失った両腕は人間の腕に戻った。怪我も全て消え、不思議なことに着ている服の破れや汚れも消えていた。


「……えっ」


 リュウキは、自分の両手を見た。

 そして、振り返る。


「お、俺……何した?」

「「「「…………」」」」


 レイたちは答えられない。

 

「あの、バケモノ……マルコシアス、は?」

「……覚えて、ないの?」

「な……何を?」

「あんたが、やったのよ。あのバケモノを」

「お、俺が? え……う、嘘だろ?」

「…………」


 レイ自身もわけがわからず……これ以上、何も言えなかった。

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