第10話 宿敵
「クラレイグ様、首尾は上々でござるなぁー。あまりの手際のよさに、瞬きをする暇もございません。」
「信衛門、軽口を叩いたところで、報酬は上乗せせんぞ。さっさと金を受け取って去るがよい!」
クラレイグに一喝された信衛門は、不貞腐れたような態度をとってる。
「だが…」
その態度に苛立ちもせず、クラレイグは続ける。
「お前の情報には一目おいているのは確かだ。町の警備、警戒度…最小の資源で攻略するのに一役買っている。次も頼むぞ!頼りにしている。」
「へへっ。ありがとうでござるよ。」
薄ら笑いを浮かべながら、信衛門は後方へと下がっていった。近くによって確認したが、見間違うはずがない!声、姿も間違いなくあの信衛門だった。
「あいつ!魔王軍に手を貸していたのか!」
俺は怒りで震えていた。遠ざかる信衛門の背しか今は見えていない。俺が立ち向かったってどうしようもないだろうが、この握りしめた拳の行き所は奴の身体以外にあり得なかった。
俺が一歩を踏み出そうとした瞬間、声が聞こえた。
「クラレイグーーー!!!」
声の主は間違いなくシルビィだった。後ろからした声の方を見るより先、クラレイグへと斬りかかるシルビィが視界に入った。
上空からの一撃がクラレイグの頭へと真っ直ぐ下ろされる。しかし、クラレイグの刀に阻まれ剣は届かない。
シルビィは、弾かれた反動を空中でいなしながら着地した。
「クラレイグ!父の敵とようやく会えた。ここで…倒す!」
「人の怨みなど星の数ほど受けておる。お前の父のことなど全く知らんなぁ…。」
シルビィの鋭い眼光に怒りが宿ったのが分かった。一触即発の空気があたりに満ちている。
「しかし、俺に復讐の刃を向けたのはお前が初めてだ。」
クラレイグの切っ先がゆっくりとシルビィの方へ向けられる。
「久々に心が高鳴るぞ。小娘…かかってこい!!」
この言葉をきっかけに二人はピンポン玉のように弾けた。剣のぶつかり合う音、刃が何度もぶつかり合い火花が飛び散っている。しかし、二人の姿を視認することは出来ない。
「はっ、早すぎる。」
二人のスピードが速すぎて目で追うこともできなかった。
「シルビィ…。」
今まで理由を聞いていなかったが、初めて俺は理解した。シルビィは親の敵討ちのために魔王軍を追っていたのだ。そして、その敵が目の前にいる。
「シルビィ、君は俺のことをあんなに理解しようとしてくれてたのに…俺は君のことを何も理解しようとしてなかったな。」
自分が情けなかった。今まで旅をしてても考えていたのは自分の事ばかり。少しでも彼女のことを考えていただろうか?こんな時になって君のことを知るなんて本当にダメな奴だ。
シルビィにとって、大事な瞬間。その手助けも出来ない。むしろ、彼女のことすら理解しようとしてなかった自分に絶望してしまった。
「がんばれ。シルビィ…」
安っぽい言葉しか今の俺には掛けることしかできなかった。
「はっはっは。あの娘、クラレイグ様相手によくやるよ。やっぱり、若い芽は、早めに潰しておいた方がいい。これで、一つ恩も売れるしな。」
建物の陰から声が聞こえた。声の主はさっき離れていったはずの信衛門だった。手にはナイフが握られている。
「気配遮断…。毒生成…。我、暗殺者なり…。」
何かしらの呪文を唱えると、物陰から抜け出しゆっくりとシルビィとクラレイグの戦闘している場所へと歩いていった。いや、行っているかもしれない??
「なんだ?あそこにいる…のか?」
呪文を唱え終わったあたりから、信衛門はそこにいるはずなのだが、そこにいないように見えていた。気配遮断…。姿を隠す呪文を使ったのだろう。呪文を使う前から見ていた俺は、少しだけど信衛門の姿を認識できていた。
「暗殺とか、言ってなかったか?」
確かに不吉なことを呟いていた。そして、向かってる先にはシルビィがいる。背筋が寒くなる感覚がした。
「シルビィ!!」
俺は無我夢中でシルビィの元に駆け出した。あの時のように。
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