第8話 山猫再び
シロがいなくなって分かったことだが、どうやらシロを連れた魔女である私は、この町の人に好かれていたらしい。前に白い犬を連れていた魔女だとわかると、次々と人がやってきた。隣町からやってくる人もいた。
「誰が誰やら、私らにはわからんよ。魔女はみんな、同じに見える」
宿屋の女将の言うことも、尤もだ。人は、私とは違い魂の色を見ることが出来ない。魔女は皆、同じ黒い頭巾のついた外套を着ている。遠目には同じ外見だ。
「また来ておくれ」
宿屋の女将の言葉におくられ、私は旅立った。どこかの牧場で犬をもらってこい。番犬を連れてあるけ、という女将の言葉に、私は次の目的地を牧場に決めた。
天幕を張ろうとしたとき、私は目を疑った。あの山猫がいた。
「なんで」
私は、それ以上を言葉にすることを辞めた。町を離れた途端、また現れたのだ。まるで私を付け狙っていたかのようだ。
山猫ではないかもしれない。その晩、私は、シロと同じ手触りの狼の毛皮を抱きしめ、一睡も出来なかった。あの山猫が、山猫でないのであれば、何なのか。シロは犬ではなかった。白い髪の少年だった。
私は人だ。魔女だ。獣人じゃない。
「番犬は連れておいたほうがいいよ」
宿屋の女将の言葉を思い出す。
あの山猫が、もし本当は山猫でなかったら、どうしたらいいのか。牧場で番犬をもらっても、役に立つのだろうか。
「シロちゃん」
シロがいなくて、寒いとは思った。寂しいと思った。心細いと思ったのは初めてだった。
「シロちゃん」
狼の毛皮は同じ手触りでも、シロのようには暖かくない。鼻先を擦り付け、私の臭いを嗅ぐこともない。無闇矢鱈となめてくることもない。時々、邪魔なくらい、私に懐いてきたシロが懐かしかった。
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