08.同期との模擬戦(4)

「それにしても、2対1でも勝てないのね、私達」

「引き分けでしょ。タイムアップだったし」


 励ますつもりでそう声を掛けたが、それは違うとあっさりジネットに否定されてしまった。


「もうほとんど詰んでた状態で引き分けだなんて、恥ずかしくて口が裂けても言えないわ。そうでしょう、ロボ?」

「ま、そうだな。あの状況で引き分けは難しいな。1秒あっても無くても、死んでたのは事実だし」


 どことなく重々しい空気が漂う中、努めて明るく声を掛けてきたのは事務員の2人だった。その手には魔法石を3つ持っている。


「はい、お待たせ致しました。取り敢えず三方向から映像を撮りましたよ。これがその魔法石です。返さなくていいので、渡しておきますね」

「お! そういや、目的はこっちだったな。模擬戦に白熱し過ぎて、忘れてた。ありがとうございます」


 パッと顔色を変えたロボが戦利品を受け取る。その横でジネットが冷静に今後について提案してきた。


「映像は今の模擬戦分で良いわね。本来の目的を忘れてはしゃぎ倒しただけあって、なかなか迫力のある映像になっていると思うわ。主に私が真っ二つにされたり、ロボが刺殺される刺激的な映像にね」

「お、おう。本当にすまんかったな、守り切れなくて」


 ところで、と受付事務員の片割れが目を細めて、少し心配そうな顔をする。


「当然、映像は3つに分かれているので編集して一つに繋ぐなりしないといけませんが……。あのー、頑張って下さい! 我々、事務員も心から応援していますから」


 ――待って、編集も自分達でするの? あ、映像の提出だから、そりゃそうだわ。流石はゲオルクさん。こういう所だよなあ。


「待って。編集はどうやって行うの? 何か、そういう魔法があるの?」


 ジネットの慌てたような問いに、事務員が頷く。


「はい。映像とセットの魔法になっています。使い方をお教えしましょうか?」

「お願いするわ。大丈夫、私達にはグロリアが付いているから、最悪、魔法の使い方だけはすぐにマスターしてくれるはず。センスの面は私達が補うから、問題無いわ」


 確かにセンスに自信は無いが、同期の中に抜群のセンスを持った者がいるかと言われれば首を傾げざるを得ない。何せ、17人消えて生き残った3人だ。見ての通り、全員ゴリゴリの戦闘民族である。

 しかし、魔法の使い方は勉強する必要がある。グロリアは編集という作業だけは自分一人でやる覚悟を決め、受付嬢の穏やかな声に耳を傾けたのだった。


 ***


 最終的に提出物が出来上がったのは、2時間半後だった。主に誰にもセンスが無かったが為に、なかなか編集が終わらなかったと言える。

 そんな訳でブツを納品するべく、受付へ辿り着いた所でグロリアは顔をしかめた。


 ――うわー、受付にゲオルクさんいるじゃん。何の用なんだろう。

 彼の事は嫌いではないのだが、とにかくしつこい。ある一点においてのみ、非常にしつこくて辟易しているのも事実だ。

 どうにかスルー出来ないか、と頭を悩ませているとロボの声が耳朶を打った。


「こんにちは。ゲオルクさんも、受付に用事ですか?」


 ――元気一杯で声を掛けるな! 恐れを知らなさすぎる!!

 分け隔て無い態度は褒められるべきものだが、サブマスターにこんなに気さくに声を掛ける人はそうそういない。特にゲオルクは話し掛けるな、と言わんばかりのオーラが凄いタイプだし。

 そして驚くべき事に、ロボはそのまま受付へ提出物を納品しに行ってしまった。話し掛けたんだから、責任持って相手をしろ。


 そうなってくると、チャンスと言わんばかりにゲオルクがこちらへ寄ってきた。そうして脈絡も無く言葉を紡ぐ。


「久しぶりだな、グロリア。そろそろAランクに上がる気になったか?」

「ないです」

「何故だ? Bランクに甘んじる理由もないだろう」


 ――致命的な欠点があるから上がれないんだって!! こんなクソコミュ障、Aランカーになったら依頼人が困惑するわ!

 そう、これだ。ゲオルクは会う度にAランク試験を受けろと煩い。受験については本人の自由なのでこうして毎度毎度のように受けろ受けろと言われる筋合いはないのだ。


 心中で荒ぶっていると、ジネットが助け船を出してくれた。


「まあまあ、ランク試験を受けるかどうかは個人の自由。きっとグロリアにも何か考えがあるのでは?」

「いや考えも何も、B止めの必要性は――」


 ゲオルクが何かを言いかけたが、空気を一切読まない系ヴォルフ族のロボが乱入してきた事で遮られる。


「報酬を貰ってきたぞ! どうする? このままこの報酬で夕飯にでも行くか?」

「それは良いわね。なかなかの報酬だったし、良い所でご飯が食べられるわ。まあ、夕食代を差し引いてもかなりの量が手元に行き渡るだろうし。どう? グロリア」

「行く」


 こうして、そのままの流れで夕飯へ行く事になった。一部始終を見ていたゲオルクが「元気だな。これが若さか……」と呟いていたが、聞かなかった事にする。あまりにも年寄りっぽい発言だったので突かない方が本人の為だと思ったからだ。

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