第16話 魔族と賢者の場合

強いな。

ヤッカは内心舌を巻いている。

相手は銀月騎士団。そう名乗るからにはもとは。とこぞの、領主に仕える騎士団だったのだろう。

だが、彼らは騎馬をすて、鎧兜に身をこ固めての力押しもせず。

三人が一体となった攻防は、剣と魔法を巧みに組み合わせて、反撃のスキを与えてくれない。


このまま、闘い続ければ、どこかで、動けなくなる。

そして、そのあとはなぶり殺しである。

交渉の余地は?

ない。

銀月騎士団の目指すところは、この街での暗殺者ギルドの地位を、“紅玉の瞳”から奪うことであり、その手段として、紅玉の瞳の抱える暗殺者のトップ、リンドとヤッカを殺すことである。


一方。

リンドとヤッカのすべき事は、実にシンプルだ。

襲ってくる銀月騎士団を、潰していけばいい。

銀月騎士団は、その主を失って、放浪している身だ。いくら暗殺や市街戦に特化して、訓練を行おうが、補充できる人員は限られている。


消耗戦にになれば、その地に根を張った組織の方が強い。


という訳で。

リンドとヤッカはら目の前の敵をひたすらに、ぶち殺し続ければそれでいいのだ。


敵の剣士たちの使うのは、片手用のサーベルだ。

片手で使える程度の重さで、自在な軌道でこちらを撹乱し、一撃を加える。


腰の高さから切り上げる斬撃!

肩口から、切り下げる斬撃!


2人の剣士は、同時に斬りかかってきた。

後退してかわせば。


かわしたら、魔法を準備している三人目が、火炎球を放つだろう。


ヤッカの腰にくい込んだ刃は、腰骨出止まった。

左の肩の刃は、肩甲骨を切断したところで、握りしめたヤッカの手がとめた。


指が落ちる。二本、三本。


止まればそれでいい。

構うものか!


剣士たちの腰を抱きしめるように、2人まとめて、ヤッカは剣士を推しやった。


この場における最大の攻撃力。

火炎球は、味方が邪魔をして打つことができない。


「うおおおおおぉぉっ!!」


ヤッカは、体内の魔素が呼び起こす凄まじい力で、剣士たちを抱きしめたまま、突進した。


魔法士を巻き込んで、3人まとめて、塀に叩きつける。

魔法士は、口から血を吐いた。


剣士たちは、ヤッカにくい込んだ剣に力を込める。

ヤッカは拳を振り上げた。


指が3本しかない拳は拳というのだろうか。


顔面に振り下ろしたそれは、剣士の顔を、粉砕した。

死へのダンスに痙攣をはじめる二体をほっておいて、ヤッカは、逃走にうつろうとしたもうひとりの襟首を掴んだ。


「めんどくさいんだよ、結局。」

言い訳するように、ヤッカは言った。

「俺もリンドの姐御も、結局、殺しなんて嫌いなんだ。だから、敵が強けりゃ強いほど、めんどくさいなって結局」

引きずり倒した相手の旨に、足を乗せて。

肋骨ごと、肺と心臓を破壊した。

「力押しになってしまうのさ。」




「た、助けてくれえっ!」


リンドとヤッカが、ウィルニアを探し当てたとき、ウィルニアはちっとも無事ではなかった。

いや、生きてはいた。まだ。


だが。

その右足は、普通に曲がるのとは反対方向にネジ曲がり、腕はちぎれかけてぶらぶらしていた。


首をへんな方向に傾けたままなのは、ひょっとして、頚骨が折れているのか?


「ク、くるなああぁ!!」

襲撃者のあやつる巨人人形が、その腕に持つ棍棒で、ウィルニアを一撃した。

街灯をへし折ったウィルニアは、のろのろと身体を起こす。

額がパックリと割れていた。


流れる血の色は、ふつうの人間とかわらぬ。


だがリンドとヤッカは、理解した。

ウィルニアは、全くダメージを受けていない。


動かぬ足を引きずって、襲撃者に近づくその顔は、笑っていた。


「実に! 実にいいよ、きみ!

いまのイチゲキなんて、まったく熟練者の棍使いが放つようななめらかで、スキのない動作だ。どうやってあやっているのかね。歯車の構成をみたいんだが。」


「や、やめてくれええっ!」

まだ、若い襲撃者は、恐怖のあまり泣き叫んでいた。

「ほ、ほんとは、おまえは殺せとは言われてないんだ。ただ、二、三か月入院しててもらえばいいんだから、もう立ち上がらないでくれええっ!」


「それは、そちらの事情だろう。ぼくの知的な興味は、そんなことにはない。その絡繰人形の構造と操作方法だ。

とくに、パーツを分割して運び、現地で合体させるという運用には、無限の可能性を感じる。

いい子だから、分解させろ!」



リンドとヤッカは、しばらく悩んだ挙句、ウィルニアのほうを止めることにした。

もっとも襲撃者のほうも逃げる気力もなくして、しまっていたので、戦いの方は終了したのだが。

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