第23話 隣国からの訪問者1
アルカ王国は日本と同じように四季がある。
穏やかな春の季節を過ぎて、今は夏。
日本の夏ほど酷暑ではないが、暑いことに変わりはないので、このノーティオ魔法学園においても夏休みが存在する。
今日はその夏休み前日だ。
「フィリア様。休暇中はメンブルム領に帰郷されるのですか?」
「ええ、そのつもりですわ」
「ピーッ」
休み時間のコスタとの会話も、自然と夏休みの過ごし方が話題になる。
そういえば、教室内をご機嫌で飛び回っている魔物のエポカは、休み中どうするんだろう。
やっぱりノクス先生が学園に残ってお世話するんだろうか。
「コスタは…ディエス殿下と一緒ですわね。殿下はどう過ごされるのかしら」
「そうですね。一旦お城に戻られて、魔物出現の報告があれば騎士団と共に出陣——という感じでしょうか」
「まあ、休暇中でもお忙しいのでしょうね。この頃王都でも、毎日のように魔物は出ると聞きますし」
「はい。殿下ご自身は苦にされないのでしょうが、少しはお休みを取ることが出来ると良いのですが……」
「ピーッ」
明日からの夏休みとディエスのことを話しているうちに、ノクスが教室に入って来た。
「では授業を始める。まずコスタ。先日の課題だった、一定の距離から正確に魔力を発動させる件について、今ここで実践を」
「は、はい!」
ノクスが攻撃の対象となる小さな目標物——何かよくわからない木彫りの人形を、教壇の上に置く。
コスタの最大の課題、魔力制御は先生の教えと本人の努力の甲斐もあって、最近メキメキ上達している。
「ハッ!」
気合いと共に彼の魔具となる指輪から、ビームのように炎を出現させ、的確に人形を狙い撃つ。
ボッと、人形は燃え上がり一瞬で消し炭となった。
「凄いですわ、コスタ! 今日は一発で成功しましたわね!」
「ありがとうございます、フィリア様。今日は調子が良かったみたいでホッとしています」
「制御の成否が調子に左右されるのなら、まだまだだぞ。しかし先日より精度は上がっているな」
「ピーッ!」
コスタの成功を皆で祝っていると、なんだか外が騒がしいのに気がついた。
今日もシルワ先生の授業は、練習場で実践の筈だ。
ノクスが窓際に近づき、外を見て固まった。
まさかまた魔物の襲来だろうか。俺とコスタは顔を見合わせる。
「どうされましたの? ノクス先生」
俺が訊ねると彼は無言で俺たちを手招き、上を見上げるように空を指差した。
俺たちは先生の指示通り空を見上げ、そして言葉を失った。
「あっ……」
「あれは……なんですの……?」
空には、鯨のように巨大な物体が浮かんでいた。
生前では見たことはないが、フィリアの記憶が俺の問いに答えをくれる。
「グラキエス王国の飛行船だ」
ノクスの言葉は、正しくそれを肯定するものだった。
練習場に降り立ったそれ——グラキエス王国の飛行船の周りを、シルワ先生と生徒たちが取り囲んでいた。
俺とコスタも、ノクス先生の後に続いて練習場に着いた。
「ササ……じゃなかった、クレアさん。現状どうなっていますの?」
俺は生徒たちに中からクレアを見つけて駆け寄った。
「ああ、フィリア様。まだ中から誰も降りて来ないよ。でも、おそらく——」
「『彼』が乗っているのですわね」
クレアは無言で頷いた。
グラキエス王国——
我が国アルカ王国の隣国にして、アウローラ大陸三国の内の一つ。
地図上ではアルカ王国の上部に位置し、メンブルム領と境を接している。
冬の期間が長く栽培出来る農作物が限られるため、食糧の半分はメンブルムからの輸出に頼っている。
魔石の採れない今、かなり下火になってしまったが、昔は魔具の製造が一大産業だったらしい———それがこの国の大雑把な情報だ。
問題は『彼』の訪問によって、ゲームの最大にして最後のイベントが近づいていると言うことだ。
先生や生徒たちの注目を浴びながら、飛行船の入り口が開き『彼』が姿を現した。水色の頭部にピョコンと立った白いウサギのような耳に、モノクル越しの赤い眼。八重歯を覗かせニヤリと笑って、第一声。
「やあやあ皆のもの、出迎えご苦労。我こそはグラキエス王国第一王子、メテオラ・クラウストラであるぞ!」
『ソラトキ』攻略キャラ人気No.4の『メテオラ』王子の登場だった———
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