第19話 花火大会②
恵美が強引にナンパされるというトラブルがあったたものの、その後は特に何事も起こらず無事に花火大会の会場に到着する事ができた。
「うわー、あっちを見てもこっちを見ても屋台がいっぱいだ」
今にも1人で走り出しそうな雰囲気を出している夏海ちゃんに俺は念の為釘を指す。
「迷子になったら面倒だから絶対俺から手は離すなよ」
「うん。分かったよ、パパ」
するとその様子を見ていた恵美が面白そうな表情をして口を開く。
「和人君、前よりもパパが似合ってきたんじゃない?」
「そうか? 夏海ちゃんとは普通に接してるだけで俺的にはあんまりそうは思わないけど」
「なるほど、水瀬はもう意識しなくてもパパになってきたという事だな」
俺の言葉を聞いた西条先輩もニヤニヤとした顔でそう声をかけてきた。
「あっ、パパ。夏海、あそこの屋台にあるわたあめ食べたい」
「わ、分かった。分かったからあんまり引っ張るな」
夏海ちゃんに引きずられて俺はそのままわたあめの屋台の列に並ぶ。
「微笑ましい光景だな」
「ですね」
西条先輩と恵美は俺達のやりとりをみながらニコニコとした表情でそんな事を話していた。
そしてわたあめを購入して夏海ちゃんに渡した後、俺達は花火が始まるまでまだ時間があるため4人で会場を回り始める。
「おっ、あんなところにヨーヨー釣りがあるぞ。皆んなでやらないか?」
「夏海、やりたい」
「賛成、和人君も一緒にやろうよ」
ノリノリな西条先輩に誘われて夏海ちゃんと恵美は参加する事を決めた。
子供の頃から苦手なため正直あまり気は進まないが、恵美から誘われてしまったため断るという選択肢は取れそうにない。
「オッケー、多分あんまり取れそうな気はしないけど俺もやるよ」
「決まりだな、早速やろうか」
お金を払って早速ヨーヨー釣りを始める俺達だったが、俺と夏海ちゃんはこよりがすぐにちぎれてしまって全く取れずに苦戦をしている。
だがそれに対しては西条先輩と恵美はヨーヨーを釣るのが上手く、次々に水の中から釣り上げていた。
「恵美お姉ちゃんも美菜お姉ちゃんも凄いね。夏海、全然取れないよ……」
「よし、そんな夏海ちゃんに美菜お姉ちゃんが分かりやすくコツを教えてあげるぞ」
それまでは苦戦していた夏海ちゃんだったが、西条先輩から手取り足取りコツを教えてもらう事で無事にヨーヨーを1つ釣り上げる事に成功する。
「やったー、見て見て取れたよ」
「おめでとう、夏海ちゃん」
「良かったな」
「私の教え方が美味かったおかげだな」
嬉しそうにヨーヨーを見せてくる夏海ちゃんに対して、俺達はそれぞれの反応をした。
それからしばらく会場を回って金魚すくいや射的をしたり、答えを間違えた罰として恵美にりんご飴を奢ったりしているうちに花火の開始時間が近づいてきたため俺達は準備していたレジャーシートを地面に広げる。
「花火楽しみですね」
「ああ、何歳になっても花火大会はワクワクするな」
そんな事を西条先輩と話していると花火大会の開始時間となり、夜空に最初の花火が打ち上げられた。
「あっ、和人君。始まったよ」
空には花火が次々と打ち上げられ、色とりどりの光とともに破裂するような短い音が辺りに鳴り響く。
「パパ、見て見て。空に綺麗な赤と青の花が咲いてるよ、綺麗」
「それは分かったから一旦落ち着け。それ以上揺らすと缶の中身がこぼれるから」
夏海ちゃんは今まで花火大会にあまり参加した事が無かったらしく、大はしゃぎな様子だ。
はしゃぎすぎて手に持っていた缶ジュースをこぼしてしまいそうな勢いだった。
「今の夏海ちゃんを見てると小さい頃の和人君を思い出すよ。和人君も小学生の頃の花火大会の時にはしゃぎすぎてかき氷を地面にこぼして怒られてたのを覚えてるもん。子は親に似るって言うけど、まさにその通りだね」
「えっ、そんな事あったっけ……?」
正直全く記憶に残っていない俺だが、記憶力の良い恵美が言うのだから多分実際にあった事なのだろう。
「……そうか、河上は私の知らない水瀬の事を知っているのか。やはり幼馴染というのは手強いな、だが私は絶対に諦めないぞ」
そんな中、俺達の会話を聞いていた西条先輩は深刻そうな顔で何かを小声でつぶやいていたが、花火の音にかき消されて内容は一切聞こえなかった。
だが次の瞬間、西条先輩はいつも通りの顔に戻っていたため大したことでは無いのだろう。
その後も4人で盛り上がりながら花火を見続け、夜空に最後の大きな花火が打ち上がったところでフィナーレとなった。
「夏海、楽しかった」
「私も楽しかったよ、美菜さん、和人君、夏海ちゃん、ありがとう」
「花火も見れたし、ついでに水瀬の浴衣姿が見れたから私も満足だ。いい夏の思い出ができたよ」
1人おかしな事を言っている
「じゃあそろそろ帰りましょうか」
「そうだな、そうしようか」
俺達は荷物をまとめると、帰り始めている人達の後に続いて会場を後にして駅へと向かい始めるのだった。
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