第17話 本屋とカフェ
オープンキャンパスに行ってから数日が経過した今日、俺は夏休みの宿題である読書感想文を書くための本を探すために朝から家の近くにある本屋へ来ていた。
ちなみに夏海ちゃんも何か本が欲しいらしく、俺と一緒に本屋まで着いてきていた。
本屋に着くと夏海ちゃんは嬉しそうにあちらこちらに行って本を見始める。
そんな夏海ちゃんの可愛らしい様子を見て微笑ましい気分になりながら、読書感想文用の良さそうな本を探していく。
「あっ、パパ。見て見て、こっちに赤い本がいっぱいあるよ。これってなんの本なの?」
「……げっ、赤本じゃん」
夏海ちゃんが指差した方向を見ると、そこは大学入試過去問題集である赤本の棚だった。
真っ赤で遠くからでもかなり目立つため夏海ちゃんの幼い子供心を刺激したのかもしれない。
「これは大学入試関係の本だから夏海ちゃんにはあんまり関係ないかな」
「なーんだ、もっと面白い本かと思った」
赤本の説明をすると夏海ちゃんは興味を無くしたようですぐに別の棚へと向かい始めた。
「赤本か……夏海ちゃんにはまだ早いけど、俺は来年受験生だから3年生になったらめちゃくちゃお世話になりそうな気がする」
来年の事を軽く想像した俺はそんな事をつぶやいた後、再び読書感想文用の本を探し始める。
しばらくして良さそうな本を見つけた俺は自由に歩き回っていた夏海ちゃんと合流し、今度は小学生低学年用の小説コーナーへと足を運ぶ。
一緒に棚を見ながら歩いていると、見覚えのあるタイトルが目に入ってきたため足を止める。
「怪談カフェか。懐かしいな、この本まだ続いてたんだ」
小学生の時にハマっていた小説がいまだに売られている事に気付いた俺は懐かしい気分になった。
確か小学生3年生の頃、怪談カフェのリプレイカレーライスという話を読んだ夜怖くて眠れなくなった事があったなと遠い昔を思い出していると、夏海ちゃんが興味を持ったらしく口を開く。
「ねえねえ、この本って面白いの?」
「時々めちゃくちゃ怖い話もあるけど結構面白かった記憶があるな。まあ、お化け屋敷が全然大丈夫そうだった夏海ちゃんにはそんなに怖くは感じないかもしれないけど」
俺がそう答えると、夏海ちゃんの中では買う本の候補に入ったらしく嬉しそうに手に取っていた。
それから夏海ちゃんが満足するまで本を探し回った俺達は会計を済ませると、今度は本屋に併設されたカフェへと向かう。
夏真っ只中という事で本屋に行くだけで結構な汗をかいてしまったため、家に帰る前な一休みする計画なのだ。
「さあ、好きな物を頼んでいいぞ。お金は心配いらないから」
「やったー」
俺がそう伝えると夏海ちゃんはめちゃくちゃ嬉しそうにメニューを見始める。
「じゃあ夏海はとりあえずオレンジジュースが欲しい。それとケーキも欲しいけど、ショートケーキとチョコレートケーキで迷っちゃう……」
夏海ちゃんはメニューを見比べながらかなり迷っている様子であり、決めるには時間がかかりそうな様子だ。
両方頼むという方法もあるが、それだと昼ごはんが食べられなくなる可能性があるため、あまりおすすめはできない。
そんな中、名案が浮かんだ俺は夏海ちゃんにとある提案をしてみる。
「じゃあさ、俺と夏海ちゃんで別々の奴を頼んで2人で分けるってのはどう?」
「パパ、ナイスアイデア。そうしよう」
「オッケー、すみません」
頼みたい物が決まったため俺は店員を呼び、アイスコーヒーとオレンジジュース、ショートケーキ、チョコレートケーキを注文した。
そして数分後テーブルに運ばれてきたケーキをフォークで半分に切り分けて、お互い半分ずつ交換する。
「パパ、ありがとう」
「いいよ、俺もちょうどケーキを両方食べたかったし」
本当は俺はケーキを注文する気は無かったが、夏海ちゃんを喜ばせるためにしれっと嘘をついた。
嘘をつく事は悪い事だと散々教えられてきたが、時には優しい嘘くらいついても罰は当たらないだろう。
「じゃあ食べようか、いただきます」
「うん、いただきます」
俺達は半分こにしたケーキを2人で仲良く食べ始めるわけだが、周りの客からは微笑ましいものを見るような目線を向けられている事に気付く。
恐らく年の離れた兄妹にしか見えないため、誰も俺達が実は親子であると思うはずがないだろう。
そんな事を考えながらアイスコーヒーを飲んでいると、夏海ちゃんの頬っぺたにクリームが付いている事に気付く。
「ほっぺにクリームついてるぞ」
俺はポケットからティッシュを取り出すと、手を伸ばして頬っぺたのクリームを取る。
「えー、全然気付かなかった」
「時々頬っぺたにご飯粒とかがついてる事もあるから注意しろよ」
「それ、凛花お姉ちゃんとかおばあちゃんにも言われてるよ。注意するね」
夏海ちゃんは笑顔を浮かべながらも一応反省しているようだった。
「じゃあ、そろそろ家に帰ろうか」
「うん、ごちそうさま」
食べ終わった俺達は会計を済ませると、夏の暑い日差しに照らされながら家へと帰った。
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