第8話 東京都庁視点①
東京都庁は執筆作業にいそしんでいた。
東京都庁はリアル世界では知らない人はいないほどのミステリー作家だった。
しかし、彼はその仕事に飽きていた。
出版業界でミステリーを書くと、出版社や編集者に「ココはこうしてくれ。その方が売れる」と自分の書きたい作品とは別物を書かされる。
彼は次第に執筆の筆が進まない様になっていった。
そんなある時、小説投稿サイト「カクプラ」を目にした。
ああ、どうせ素人集団の集まりだろ?
大した作品なんて無いさ。
始めはそう思った。
しかし、興味本位で読んでいるうちにその認識は甘かったと思い知る事になる。
ここでは出版社や編集者に話を修正される事無く、皆が自分の書きたい作品を自由にのびのび書いていた。
柔軟な発想。
型にはまってない面白い文体。
そしてコメントを通じた活発なユーザー同士の交流。
彼はリアル世界でのペンネームでは無く、「東京都庁」と言うユーザー名でカクプラに作品を投稿してみた。
プロの自分が書いたのだから、すぐに注目されてランキング上位に入るだろうと彼は思った。
・・・しかしこの認識も甘かった。
カクプラでは数多くの作品が分単位で更新され、彼の作品がどのようにレベルが高いものであろうと、多くの作品の中に埋もれてしまう。
そう言えば、ミステリー小説の宣伝は出版社が行っていたな。
自分は書く事ばかりに専念して、販売戦略などほとんど練った事は無い。
いや、そうだろうか?
彼は思う。
少なくとも自分が若かった頃、新人賞に応募した時は、いかに選考委員に読ませるかの工夫はしたつもりだ。
カクプラのランキング上位を見て研究してみる。
成程。
上位ランカーは読ませるための工夫を綿密にねっている事に気が付く。
読まれやすい曜日の、読まれやすい時間に投稿すれば少なくとも数分間はトップページに表示され、読者の目を引くことが出来る。
奇抜なタイトルが多いが、これも目を引くための戦略だろう。
表紙のイラストもかなりの割合でプロのイラストレーターに依頼している様だ。
成程。
成程。
成程。
それに、上位ランカーは読み手との交流も積極的に行っている様だ。
逆にデビューしたばかりの新人投稿者はどうだろうか?
彼は興味本位で読んでみる。
個人差はあるが、必ずしもランキングと小説のレベルは一致しないと思った。
むしろ、上位ランカーよりも新人の方がのびのび自作品を書いている印象を受けた。
ああ、成程。
上位ランカーは言うならば自分のリアル世界の境遇と似ている。
読まれる為の工夫をしているがゆえに、ある程度読み手に迎合しなければならないのだ。
その結果読み手の推しキャラを死なせられない。
話を読者の期待通りにするため、主人公に絶対的な不幸、苦痛が訪れる事が少ない。
万人に受け入れられる話にするため、当たり障りのない展開になってしまう。
それを踏まえると・・・。
自分が参考にするべきは、新人投稿者の方ではないか?
彼はデビューしたばかりの投稿者に眼を向けた。
その中で感銘を受けたもの。
そう言う切り口があるのかと思ったもの。
面白い発想だと思ったもの。
それらに賛辞のコメントを送った。
コメントを送られた投稿者も自分のミステリー作品を読んでくれた様だ。
その様な人々の中に「神奈川」もいた。
独特な言い回しや若々しい個性。
見どころのある作家の卵だと思った。
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