第15話

 


 華やかな婚約発表が一転、大広間は静まり返った。 世界で僅か数人の加護持ち、それも公爵令嬢、まもなく花嫁になるはずだったステラリアは石像と化した。


「なっ、なんてことだ……」

「石に……なった……?」


 周りは次第に状況を呑み込んでいき、これが悲劇だと認識する。


 わたしは立ち上がり、怒りなのか絶望なのか、震える父に向かって歩を進める。


「すみませんお父様、救えませんでした」


「こっ……この役立たずがッ!! 結局お前は何もノームホルン家に貢献しないではないかッ! お前なぞもう娘でも何でもないッ! この家から出ていけッ!!」


 今度はわかり易く顔を紅潮させ手を振り上げる。 それくらいは覚悟の上、これでさっぱりこの家と……


「――ぬっ!?」


 わたしは決別の痛みに目を瞑ったが、


「ジルベール様、それはとても痛いのですよ? 私も最近ある女性にぶたれましてね」


 その手は振り下ろされなかった。


「ぬぅ……! はっ、離せダラビットの伜がッ!」


 リオネルの手を振り解き、息を切らせるお父様にリオネルは言った。


「婚約するはずのステラリアは石像になってしまった、私は石と添い遂げる気はありません。 ジルベール様、この婚約は――――破棄させていただく」


「こっ……こんな時に恥知らずがッ!!」


「そうですね、私はとんだ恥知らずですよ。 何故なら……」


「――わっ」


 リオネルはわたしの肩を抱き寄せ、大広間に居る来客全てに向けて声を張り上げた。


「ダラビット家のリオネルは、婚約者を失ってすぐ心変わりをする恥知らずだッ! それも婚約者の姉であるこのダリアにね!!」


 ……ああ、やっと、やっと戻れた。 あなたの隣に……。


「フン! そんな病弱の役立たず勝手に持っていけ!」


 お父様……いえ、もう父ではありませんね。

 わたしの事は構いませんが、


「お言葉ですが、ダラビット家の方々に恥知らずはいません、本当の恥知らずというのは――――こういう者を言うんです!」


 わたしが指差した先には、石化した娘にではなく、金に変わらなかった石に縋り付く元お母様の姿があった。


「どうして……私の、私の金はどうなるのッ!」


 呆れて物が言えない、この人はそれしか頭に無いのか。


「……そういう事か。 思うところはあるが、やれやれ、恥知らずな息子を持ったものだ」


 ことの成り行きを見ていたアインツマン様は前に出て、


「これはダラビット家当主である私の責任だ! この愚息と追い出された娘も私が請け負おう!」


 自分の私情で苦しめたわたしを、ダラビット家へ迎えてくれると言ってくださった。



「アインツマン様……」



 さあ夜会は大詰め、あとは……



「お集まりいただいた皆様、そしてノームホルン家の方々にもお見せ致しましょう――――本当の加護の力をッ!!」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る