第3話

 


 両親には違う理由をつけて、今わたしはダラビット家の夕食の席に居る。


「はぁ」


 ため息をついたのは緊張ではなく、実家よりここの方が落ち着くからだ。

 まず内装が素晴らしい。 必要以上の調度品は無く、だから僅かに置かれた高級な品が映える。


「それに比べて……」


 実家は、あの日以来そこら中に金がチカチカしていて暮らしにくいし、何より嫌味だ。


「ダリア、また体調が優れないのか?」


「――あ、いえ、大丈夫よリオネル」


 もうっ、わたしのバカ。 余計な心配をさせてしまったじゃない。 頭の中で自分を小突いていると、アインツマン様が、


「そうだ、ダリアに渡したい物があってな」


 そう言うと、メイドが小さな木箱をわたしの前に置いた。


「これは……」


「モデラトリア地方で採れる薬草でな、疲れが吹き飛ぶ程の効果……らしいが、実際はどうかわからんので、あまり期待しないでくれ」


 苦笑いをするアインツマン様は、本当の家族からは久しく感じてない思いやりをくれた。


「ありがとうございます……!」


「良かったね、ダリア。 父さん、ありがとう」


 わたしの肩に手を置き、嬉しそうに微笑むリオネルの顔が、また癒しを与えてくれる。


「まあ、あまりおねだりをしない息子が珍しくうるさかったものでな」


「と、父さん!」


 リオネル……わたしの為に……。


「リオネル、食事中に大きな声出さないで」


「す、すみません、母さん」


 奥様のコリーン様は本当にキレイ。 わたしもこんな風になりたい、リオネルの妻として。


「ダリア」


「はっ、はい」


「あなたは顔立ちがとても良いから、元気になったら少しお化粧を薄くしなさい。 お肌が荒れるし、それで十分綺麗だわ」


 優しい声と言葉。 本当、こんな両親がいるリオネルが羨ましい。


「そんな、コリーン様に比べたらわたしなんて……」


 楽しくて、暖かい夕食は続き、でも終わってしまう。 そして重い足取りで、また家に帰らなくてはならない。



「今日は楽しかった、いつも良くしていただいて申し訳ないわ」


「そんな事ない、二人共君が好きなんだよ。 私と同じでね」


「う、うん、ありがとう……」



 わたしも好きです。

 あなたが、そしてご両親も。



 ダラビット家はノームホルン家をライバルだなんて思ってない。 お父様が勝手に張り合ってるだけだと、大きくなったわたしは、その人達に触れて確信した。


 それどころか、わたしと妹が加護を授かる前、ノームホルン家はお父様の事業の失敗で没落寸前だったらしい。

 今は大分盛り返したけれど、それでもダラビット家との力の差は歴然だ。


「アインツマン様は領地の統治に優れていて、あの人柄で人脈も広いから」


 家に戻ったわたしは、独り言を零しながら自室に向かっていた。 その時、お父様とお母様が言い合う声が聞こえて、


「あの女のせいで私がなんて言われてたか知ってる!? コリーンの代わりだとか、妥協した嫁なんて言われてたのよッ!!」


「仕方がないだろうッ! ステラリアがそう言ってるんだッ! もしあの子が機嫌を損ねたら……」


 ……ステラリアが戻ってきてる? 王子妃教育が終わったのかしら、それはわたしにとっても嬉しい事だけど。


「だからって、ダラビット家のリオネルと婚約なんて……!」



 …………は?



 リオネルと、ステラリアが……



 ――――婚約!?


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