第47話

「悠希、テストの点数、何点だった?」


先日受けたテストが返ってきて、全教科の得点が記された成績表を眺めていると、にこやかな笑みを浮かべた美月が話しかけてきた。


「まあ、普通だ、可もなく不可もなく、雪平、お前は……点数よかったんだな」

「分かる?分かっちゃう~?ジャジャ~ン、私の成績に刮目せよ」


機嫌よさげに鼻歌を歌う、美月がこちらにテストの結果を見せてくる。


「学年で15位か、伏見からは聞いてたが、雪平、お前、頭よかったんだな」

「まあね~悠希は何位だった?」

「俺は35位だな」

「えっ、めちゃめちゃ成績伸びてるじゃん⁉ 前回、250位とかだったよね」

「まあな、今回は真面目に勉強したからな」

「あの、悠希が真面目に?」


何か怪しいと疑いの目を向けてくる美月のことは無視する。

美月が疑いの目を向けてくるのも無理はないだろう。

仮に汐音からの教えとご褒美が無ければ、悠希もここまで真面目に勉強をしていなかっただろう。

思いのほか汐音からのご褒美が悠希の勉強のモチベーションになったのは間違いない。


因みに、汐音からの条件だった数学と英語8割の条件は達成した。

数学の方はちょうど80点で危なかったが。


「悠希、成績の張り出し見に行こうよ」

「ああ」


悠希の返事を待たずに既に廊下の方に駆け出して行った美月を追う。

成績優秀者が張り出される廊下の掲示板まで足を運ぶと、そこには既に人だかりができていた。

さすが、進学校ということだけあって、周りの生徒の成績が皆、気になるらしい。


しばらく、待つと人だかりも解消されて、掲示板に張り出された紙が見えるようになる。

海皇高校では生徒500名の内、成績上位の50位まではテストの結果が張り出される。

テスト上位者の成績を公開することで競争を激しくさせようとするのが、学校側の狙いとしてあるらしい。


因みに学年で成績が下から10番の生徒もクラスと出席番号が公表されるため別の意味で成績表にのりたくないと勉強をする者もいる。

先に成績不良者の欄に目を通すと諒真の出席番号はなかった。

勉強会を開いてあげた意味はあったらしい。

夏の補習者欄にも名前がないので今回はかなり勉強を頑張ったのだろう。


「今回もしおねっち、一位みたいだね」

「そうみたいだな」


美月の言う通り、汐音の名前は一番左上に書いてあった。

2位と30点差をつけた堂々の1位。


汐音が1位であることを確認したし、次は自分の名前でも探そうとしたところで、周りの生徒の言葉が耳に入ってきて、悠希は拳を握りしめた。


「今回も天使様1位だぞ!」

「さすが、天使様、やっぱ俺たちとは頭の出来が違うぜ」

「やっぱ、生まれ持った才能ってあるんだよな」


頭の出来、才能。

確かに汐音には勉強の才能があるかもしれない。

でも、少なくとも悠希は、悠希だけは汐音の努力を頑張りをそばで見てきた。

時間が許す限り汐音は勉強に打ち込んでいた。

それを、才能などと言うよくわからない一つの言葉で片付けられるのが嫌で悠希は表情を硬くした。


「悠希、どうかした?」

「いや、なんでもない」


悠希の顔が強張っていることに気づいたのか美月が声をかけてくる。

それになんでもない風に装いながら、悠希は頭の中で汐音を褒めてあげることを決めた。

他の人が汐音の努力を知らなくても、悠希だけは汐音が学年1位になるためにしてきた不断の努力を知っている。

だからこそ、普段はクールで律儀で努力家で極稀に甘えてくるようになった汐音のことを褒めてあげたいと悠希は思った。

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