第05話「偉大なるプラウダー(Part,2)」
試合時間およそ八秒。決着は予想通りの瞬殺を迎えるかと思われた。
『まぁ無理もないかァ?』
相手は神人レベルと契約をしたプラウダー。海東蓮汰郎に勝てる見込みなど微塵もない。そのはずだったのだ。
『その気持ちは分かるぞ。俺から見てもあの女は上玉だ。透き通った白い肌。頬を摺り寄せたくなる肢体。何より顔だ、顔がいい。あのあどけなさが背徳的だと思う。あとは性格がよければ妃の一人に出迎えたくなる可憐さだ』
試合の時間は止まることなく続いたまま。蓮汰郎は無傷で尻もちをついて呆然としたまま。
白い貴族服、羊のような毛綿が彩られたマント。
そして童話の王様が被っていそうな王冠。まさしく 王子様。
「こ、子供が?」
身長およそ130cm! 幼稚園児並の身長と、その体に相反するかのように伸ばされた二メートル以上の黒い髪。先端が燃え盛ったまま浮遊する異質な髪!
「俺の見間違いじゃなかったら! あの子供が、魔法を受け止めたよな!?」
「分かる。分かるぞ……あの子供が只者じゃないってのは分かる! だけど何だアレ!? 俺達の勘違いじゃなかったら……見た目通りのままだったらよぉ、あの子供ってつまりよぉ……!!」
女子生徒だけじゃない。男子生徒までもがざわつきはじめた。
『……無礼者共が大勢いるな? なぁ、蓮汰郎? 聞いてるか? さっきからずぅっとお前を舐め腐ってるぜ、外野の連中は……本当にか弱くて可哀想なのは自分だってことも気づけない残念な連中がな。醜すぎて逆に聞こえがいいぜ。ベートーベンのクラシックと同じくらい聞いてて飽きが来ない。笑えてくるぜ』
少年の前に突如現れた謎の子供はズレた王冠の位置を治す。上から目線で蓮汰郎を見下ろすその姿は傲慢さすらも伺える。
「いや、そんなはずないだろ! だって男は……! 不可能だっ!!」
「----勘違いしてる奴、割といるんだな」
ざわつきの中。一人の男子生徒が呟いた。
「確かに男のほとんどが神人と交約出来ない……だが不可能というわけではない」
男子生徒だけではない。ベンチに座ったまま試合の終わりを待っていた教師ジャネッツもその子供の出現に反応していた。
「あぁ、そうだ。いるのさ」
タバコをポケット灰皿にしまい、二本目のたばこに火をつける。
そう、突如現れたこの子供の正体。あれは紛れもなく-----
【
「----ち、違うよぉお~~~ッ!?」
蓮汰郎、突然の紅潮! 渦巻のように螺旋を描く困惑の瞳!
「そ、そんな不埒な目で見ていたわけじゃっ! 確かに綺麗な人だったけど、恋人にしたいとか、あの人の隣にいる事がどれだけ幸せなことだろうとかっ。そんなこと考えていたりなんてしないから! 本当にないからッ!!」
両手を振り回し、懸命に王子様衣装の子供の言い分を否定している。鴇上叉奈を前、一目惚れしてしまったが故に油断を晒したわけではない、と。
『隠すなよぉ~。俺は言っただろ~、『気持ちは分かる』ってよォ~? 俺はお前の中で生きているんだぜ? お前の考えてることはそれなり頭に入ってくるからお見通しサ。慌てて馬鹿正直に白状するお前は見てて最高に笑えるぜっ。あははっ!!』
「くっ、うぅううう~~~……!!」
蓮汰郎は何も言い返せなかった。王冠を被った謎の子供に言われるがまま!
「か、固まってたのって恐怖してたんじゃなくて……」
「見惚れてたから……??? はぁあ~~~……???」
生徒達が唖然とする。腑抜けた理由で固まっていた蓮汰郎に対して。
蓮汰郎は恥じらいが好調に達したのか身をダンゴムシのように寄せかけていた。
『お前はああいう綺麗で清純な女が好みだ。色恋沙汰に正直になるのは別に恥ずかしい事じゃない。告白の一つでもしたらどうだ? 出来ないのなら俺が変わってやってもいい。女を口説くのはそれほど難しいことじゃ、』
「もう黙ってよォッ!! あぁああーーもうぅうう~~~~ッ!!」
涙目。号泣しながら蓮汰郎は訴える。
「あぁ、もうダメ。帰りたい……恥ずかしすぎて頭が爆発しそう……」
穴があったら入りたい! 布団があったら飛び込んでその身を隠したい!
嫌な事ずくめの板挟みにより窮地追いやられていた。
『---んで、やるのか?』
王冠の少年はまた頬を歪めた。
ニヤつくその表情は“興味と歓喜”を現している。
『言っておくが、俺はもうスタンバイオーケーなんだぜ?』
親指を突き立て、蓮汰郎からの返事を待つ。
『緊張はよく解れただろ? なぁ?』
王冠を被った少年が呟くと気のせいか……背中で燃え盛っていた炎がより大きく広がっていく。
獅子のたてがみのように粗ぶっていくのが分かる……!
「---うん、やるよ!」
紅潮した頬を両手で叩き、グッと閉じられた両手を胸に蓮汰郎は立ち上がる!
『あぁ! わかってるな!! 見せてやれ! 俺の偉大さ、お前の強さ!』
それに対し、王冠の少年も笑みで返し蓮汰郎の前に立つ!
「----あぁ、実はいるのさ」
舞台は整った。
「二千万人に一人。神人と交約出来る資格を持った男がな」
教師ジャネッツのタバコの煙が狼煙となって天へと昇って行く。
『俺の威光に平伏し崇拝せよ愚民共ッ! 今、お前達が対峙しているのは一体誰だと思う!? 神話の世を支え続けた貴族の一人か!? 或いは神話に寄り添い続けた忠実なる臣下か使者か!? いいや、そんな劣等種共と俺を一緒にするなよ!!』
挑発! 罵倒! 自身以外全ての生命を見下すような礼儀知らずの御挨拶!
『神話より生まれし星の民共よ! その耳かっぽじって聞いて驚け!』
王子様衣装の少年はその場で大きくジャンプ。
真後ろにいた蓮汰郎の背中へと回り込む。男と言うにはやや頼りなさを感じる彼のなで肩へと手を添える。
「そう! 僕の仲間! 僕と共に戦うその男の名は!!」
やがて髪を燃やすだけであった炎は体全身に回っていく! 燃え盛る炎がやがて蓮汰郎の体にも燃え移り、二人揃って炎に飲み込まれていく!
『俺は偉大なる太陽王……!』
そして名乗りを上げる!
『この世界の光! 星の輝きの頂点ッ!! 【アポロ】だァアアーーーッ!』
----アポロ!
----その名はアポロ!
----そう、アポロだ!
その名を讃え歓喜し崇拝せよ!
再度問う! 君達の前に現れた
「さぁ行くよッ! アポロッ!!」
『加減はいらん! 最初から全力で叩き潰すぞ!!』
瞬間、炎に包まれた蓮汰郎は大きく片手を振り上げポーズを取る!
日曜朝九時の子供の時間! 男なら誰もが一度憧れるであろうヒーロー達を意識したような豪快なポーズと共、叫びがコロッセオにこだまする!
『この太陽も、星も……全て、俺の手中なり!!』
雲は一つもない! 不穏な風の香りもない!
空から差し込むのはコロッセオを輝かせる太陽の光のみ!
「……掴みに行く」
熱気あふれるコロッセオの中、
「勝つよ! 僕達はッ!!」
小さな太陽の中。殻を破るように、戦士は中からその姿を現す。
「『最強無敵だッ!!!!』」
-----推参。
-----その名は太陽王。世界を照らす炎を操りし英雄の卵。
----今一度、戦士達の名を呼ぼう。
----アポロ。
----その名を司る戦士の名は……【海東蓮汰郎】だッ!!
「「「……」」」
男子生徒達は唖然としていた。
小さな太陽の中から現れたのは鴇上叉奈同様に制服を脱ぎ捨て“偉大なる装束”を身に着けた海東蓮汰郎であった。
真っ白いヒーロースーツ。首に巻かれた赤いスカーフ。
髪はほどけ、真っ白に染め上がると同時に倍以上の長さへ伸びている。アポロと同様、髪は先端で炎が揺らめき、打った鉄のように真紅の輝きを放つ。
両手両足に装着されたのは特別製のグローブとブーツ。腰には何の意味があるのかも分からないヒーローデザインのベルト。
ヒーロー。そう、その姿はまるでヒーロー。
神そのものを身にまとったヒーローがコロッセオへと舞い降りた。
「……ねぇ、アポロ」
未だにポーズを取ったままの蓮汰郎が口を開いた。
「もしかしてこのポーズ……凄く、ダサいんじゃないのかな……!?」
涙目。紅潮する顔。
そして冷凍庫に放り込まれたかのように身震いする体。
『まぁ正直言うがガキっぽい。誰が考えたんだ、このポーズ』
「アポロだよねぇッ!? 今朝ノリノリで考えてたよね!? 周りの反応を見てから意見変えたよね!? ねぇエエエエエエーーーッ!?」
蓮汰郎は再び泣き叫んでいた。
無言。あまりの無言。
海東蓮汰郎は無言のまま向けられる生徒達の視線を……“失笑”と捉えていた!
(((えええぇえ……!!)))
なんとあまりにしまらない登場か。
皆のイメージするプラウダーとは程遠い情けない姿。生徒達の緊張は空の彼方へと吹き飛んでいった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
<<解説>>
●プラウダー
神話時代が終わり数千年。神たちの魂は今もこの世界に残っていたとされる。
プラウダーは魂と交約することで、その神と一体化する事が出来る。一時的に神そのものとなりその力を使う事が出来る特殊な魔法使い。
神は神人と神獣が存在する。それぞれに種があり、ランクがある。神人はその中でも最高ランクに匹敵するもので交約出来る相手も限られている。
神人は女性しか交約出来ないとされているが……?
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