完醒世界 アルカ≒プラウド

九羽原らむだ

完醒世界 アルカ≒プラウド

=01章= 神帝學園戰線 入樂編

第01話「終末」





   ”どうだゼウス。見ているか”


 黒き影が玉座を後ろから抱きしめる。

 影の中より現れた眼は歴史変動の瞬間に戸惑っている民達を見下ろしている。

  

   ”新しい時代が始まるぞ”


 黒い影が笑う。

 玉座をより強く抱きしめ嗤う。

 太陽が輝きを失い、墜落をする。


 王国が燃える。

 世界が燃える。








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「どうだ叉奈さな……綺麗だろう」

 一人の少女は何かを見下ろしている。人の形をした何かの群れを見下している。

「死だ。私達は死の中にいる。無限の死が私達を祝福してくれる。この永遠の死が私達そのものなんだ。そう聞こえれば私達は美しいとまで思えてしまえるんだ」

 人の形をした何かは笑いながら少女の肢体にそっと身を寄せ、顔を覗き込むように笑っている。 

 少女は表情一つ変えなかった。感情なるものが存在しなかった。喜びもなければ怒りもなし。哀しみがなければ楽しさすらもそこにはない。

 ただただ“人だった何か”と“世界”を見下ろすだけの少女は----涙を流すばかり。

「闇はいいぞ。闇はいいものなんだ。闇が私達である以上、世界とは私達だ」

 溶け込んでいく。少女の体が人だった何かと一体化していく。

 少女の姿が-----“化け物へと姿を変えていく”。


「楽しんでいけよ。世界の闇を。自分の行方を----」








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「なんだよ!? この気味悪い化け物はッ!?」

「俺が知るかッ!」

 戦士達の前に現れるのは……視界に入っただけでも吐き気を誘うもの。

 その生き物が何なのか理解出来やしない。理解しようと視線を向けるだけで脳が腐る。目元が歪む。意識が悶え狂っていく。

 人間はその生き物を、認識することが出来ない。

「次々と姿を変えていくんだけど……ううっ、ぷふっ……!」

「今度は大きく……ひぎぃい、ァアアアアアァアアアアッ!!!」

 苦しい。死ぬ。死ぬ。

「痛い痛い痛いッ! 体が溶ける脳が溶ける骨が溶けるッ!! 俺たちは何だったんだ!? 今の今まで俺たちがやってきたことは何だったんだッ!? どうしてだっ、どうして報われないんだッ! どうして世界は俺達を見放したんだァアアッ!!!」

 人の命が。人の時代が、人の文明が、死んでいく。

『そうです! 戦いなさい! そして乗り越えてみせなさい! その先にあるものが我々の望む栄光の兆し! 兆しなのです!』

 人々の滅びを、たった一人の男が嘲笑う。



『もうすぐ終焉の審判が下されます! どうか貴方達に由緒正しき死をォオッ!!』








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「サンダルフォン……私達を裁くつもりか。私達を罪人だというのか?」

 黒き翼を広げる女天使は漆黒の剣を手に訴える。

「いいや違う。悪はお前だった……お前達が地球を捨てた。人類を捨てたお前こそが悪以外他ならない。だから俺はお前を殺したくなった」

 相手の不誠実を。相手の不躾を。相手の愚かさを。

 罪人を裁く。そんな言葉など虚言の極みであると天使は叫び続けた。


「いい加減黙れ。お前達の言葉の一つ一つが俺の頭を刺激する」

 白き翼の天使は黒き天使の訴えに対し冷たく心閉ざすのみ。

「俺はこの都合よく創造されたシステムを壊す。お前達のような勘違いの独裁者達が創り上げた身勝手な楽園に終止符を打つ! もう俺はお前の横に並べないッ!」

「ならば! お前を滅ぼすだけだ! もう私はお前に対して迷いを抱かない!!」

 漆黒と極白の鼓動がぶつかり合う。

「「砂塵となってぇッ!! 消えてしまええぇええええッッ!!」」

 雲は裂け、大地が割れる。放たれた二つの異彩はこの純白の世界を真っ二つに引き裂いた-----









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「へへっ……ようやく俺の活躍の番も回ってきたってわけだ……!」

 巨大な槌を振るう戦士は跪きながらも声を上げる。

「かかってきやがれ、王のなりそこない野郎がッ……!」

 こんなボロボロの戦士を嘲笑い、見下ろす獣がいる。

 獣は数百の眼があった。数百の耳があった。数百の鼻があった。

 そして数万の口があった。

 舌なめずりが四方八方から聞こえる。体の管の全てが腐り潰れてしまいそうな悪臭。腐った唾液のシャワーを戦士へ吹きかける。

「テメェみたいな奴は俺一人で充分なんだよ!」

 雷光! 立ち上がった鋼鉄の戦士は槌を天に掲げ、あたり一面にオーラを放った!

「男・氏田徹うじたとおるの全力全開だァアッ……俺諸元死にやがれぇえええええええーーーッ!!」








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「なんて実に不完全で愚かだというのか! 我ら地球の未来を壊し続けていたのは……それこそ、我らの星に住まう人間だったというのか!?」

 一国を火の海へと変えるミサイルの前。軍服を身に纏う男の悲しき咆哮。

「否! 地球の未来を奪っているのは我々人間じゃない! 神などに現を抜かした異端者共の所業だ! 我ら星を思う者達の想いは届いている! 民達よ!そう思うだろ!」

 男の咆哮に対し、数億人の人間達の共感と悲鳴が地球上で轟いた。


 殺せ、殺せ。殺せ、殺せ。


 罵詈雑言と呪詛の嵐。地球は今、これほどにない一体感を見せ一つになっている。

長きに渡った戦争も差別も国の壁もそこにはない! 今、人類は間違いなく一つとなったのだ!


「異端者達よ! 我らの星からいなくなれぇえええッ!!」

 スイッチが押され、希望を乗せた一撃が放たれる!

 全長200メートル級! 地球に穴を開ける驚愕の一撃が今、雲を引き裂き空へと上がった!







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「これで分かっただろう蓮汰郎れんたろう? 人類なんて守るに値しない軽薄な生き物なんだぜ?」

「やめろッやめろッやめろぉおッ! 聞きたくないッ! そんなこと聞きたくない聞いてない聞きたくない聞いちゃいけないッ……! 」

 漆黒と紅蓮。

 身を焼き尽くす浄化の炎。

「お前がどれだけ頑張っても人は変わりやしねぇ。お前を賞賛もしないし崇拝もしない。お前のやってる事って意味あるか? アイツらからすればお前はそこらの蛆虫と何ら変わらな」

「黙れェッ! 違うッ、違う違う違うッ……僕は皆を守りたく戦って……皆を苦しめるつもりなんて更々なイッ!! 違うんだ、違う、そんな目で僕を見ないでッ!!」

 体が溶けていく。塵になる。

 その存在そのものが無へと誘われる。

「俺が意味のある本当の行いを見せてやるよ。だからお前はもう消えろ。お前の力、俺がしっかりと役立たせてやる。新しい世界の為にな」

「嫌だぁああああああーーーーッアポロォオオオオーーーッ!!!!」






「これでやっと、俺は王になれる-----」







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 遠くない未来。青き美しい星は紅蓮と暗黒に包まれた。


 地球を抱くのは視界には収めきれない巨大な魔神。

 姿形認識不可能。宇宙の物理法則の何もかもを崩壊させた巨大な陰が地球を飲み込み焦がしてゆく!


「あぁ……やった、やった! おれたちの“し”はむだじゃないんだ!」

 最早火の中の人形。骨も皮も何一つ残らない。人々は自身が愛した故郷の地と一つとなり、その最後に笑みを浮かべている……!

「おれたちはせかいになるんだ! わたしたちはやくにたてるんだ! ぼくたちはきっと、うつくしいほしそのものになれるんだ!」

 まさしく、これは【大団円】ッ!!

 宇宙という無限の空間に溶け込む魔神は抱き殺した人々達に愛情の眼差しを向け続け、一つになっていく!!


「万歳! 生命賛歌万歳!」

 手を挙げて喜べ! その最後に喝采の声を!


「「「万歳万歳万歳万歳万歳万歳万「歳万歳万歳万歳万歳万歳万歳万歳万歳万歳万歳万歳万歳万歳万歳「万歳万歳万歳ばん「ざいばんざいばんざいばんざ」いばんざいばんざいばんざいばんざいばんざいばんざいばんざいばんざいばんざいばんざい」ばんざいばんざいばんざいばんざいばんざいば」んざいばんざばいざばばんばざばばばばばばばbbbbb
































「また、滅びの未来か」







 ローブの少女は呟いた。

 光り輝く巨大な球体を前。宮殿と思わしきその場所で一人、奈落の底まで続くだろう失望の息を漏らし、大の字になって大理石の床に倒れ込む。


「これだけは変わらないというのかしら」


 球体は光を失い、その一室を暗闇へと染め上げた。


「私は……あと何回、コレを見続けなければならないの?」


 2XXX年。今を生きる人類の世界。

 地球は今、滅びへ直面していた。

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