浮気されるのも、婚約を破棄されるのも、私が太ったからですって

香木あかり

浮気と婚約破棄

「君が悪いんだ!僕は細くて綺麗な君が自慢だったのに、そんな身体になってしまって……。イレーネを見ろ!お前とは比べ物にならないくらい美人だろ?」


婚約者のサイモンが、私に暴言を浴びせています。


どうしてこんなことになったのかしら?


どうしてあの日、私は街でサイモンを見かけてしまったの?





数日前、私はサイモンの誕生日プレゼントを探しに、中心街で買い物を楽しんでいました。


彼は、鮮やかな青色の小物を好んでいたわね。このハンカチなんか喜んでもらえそう。あら、あちらのブローチも良いかもしれないわ。


そんなことを考えながら、街をぶらぶら歩いていると、前方に見知った姿が見えました。


サイモンだわ!今、何しているのか聞かれたら上手く誤魔化せる自信がないわ……バレないようにしないと。


サイモンの死角になる位置から彼を見つめていると、彼はとある女性に手を振りました。あれは、彼の幼なじみのイレーネさんね……。一緒に買い物でもするのかしら?


気になって見ていると、二人は腕を組んで路地裏に入っていきました。なんだか胸騒ぎがして追いかけると、二人は路地裏で唇を重ねていたのです。


どうして……?彼女とは家族みたいなものだって言ってたじゃない。私と婚約しているのに……。


訳が分からなくなって、その日は何も買わずに街を離れました。



そして今日、サイモンと会ってその日のことを聞いたのです。


「イレーネさんとあなたが口づけしているのを見たの。なにかの間違いよね?」


サイモンの口から聞きたかったのです。それは見間違いだったのだと。


それなのに……。


「なんだ、見てたのか?見てたなら分かるだろ?そういうことだから」


と言い放ったのです。そして、先程の暴言を吐き捨てたのです。


私は、変わり果てた彼のことを呆然と見ていることしか出来ませんでした。


「わ、私達は婚約しているのですよ……?これからどうするおつもりですか?」


辛うじてそれだけ口にすると、彼は笑いながら言いました。


「じゃあ婚約は破棄してやるよ。イレーネも結婚したがっているしな。それで満足だろう?」





その後は、どうやって帰ったのか覚えていません。気がついたら、自室のベッドで寝ていました。


まだ頭がぼんやりとしています。少し前まで、サイモンはとても優しかったのに……。


彼はいつも私にこう言っていました。


「シランが美味しそうに食べているのを見ると、僕も幸せな気分になるよ。ほら、もっと食べなよ」


彼がそう言うから、彼の前では少し無理してでもたくさん食べていたのに……。


でも、仕方のないことですね。以前より少し太ったのは事実ですし、私よりイレーネさんが美人なのも明白です。



もう、終わったんだわ。


重いため息をつくと、扉がノックされました。


「シラン、起きたかい?少し話をしたいんだ……入るよ」


お父様が遠慮がちに入ってきました。

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