第47話


 

 皆さん、【謎】は解けましたでしょうか。アタシは解けました。


 コムさんは……ダメですね。思考した形跡すら見られません。続きが気になってしょうがない感じです。例えるなら、餌をずっと【待て】させられている子犬のようですね。ちょっと可哀相なので……そろそろ続きを見せてあげましょうか。


「安さん、答えがわかったんですけど……いいですか?」


 アタシは安さんに解答の提示の許可を求めました。安さんは頷きを返してくれます。


「撮影で起こった事故、それは……」


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 アタシの解答を受け取った安さん。周囲は再び暗転しました。そしてテレビは再び……先程のシーンを映し出すのです。




 * * * 




 階段の頂上で立ち往生する彼女。ゾンビは勢いよく階段を駆け上がってくる。そして……ゾンビの右腕が彼女の肩を掴んだ。彼女はそれを振り払おうとする。その時……過酷な撮影に耐え忍んできた安っぽいゾンビの手袋は、これまた安っぽい悲鳴を上げて破れたのである。彼女の肩を掴んで引き寄せよう……そう力を込めた瞬間に手袋が破れたのだ。込めた力は行き場を失う。そして、それはゾンビの身体を後方へと誘う力となった。ゾンビは正面を向いたまま……背後へと倒れていく。そして倒れた先は……長い長い参道の階段であった。


「うわあああぁぁぁっぁぁぁぁぁぁ……」


 階段を転がり落ちていくゾンビ。その悲鳴は遠ざかるにつれ、小さくなっていくと……ついには聞こえなくなった。そして、そのゾンビは……再び動くことはなかった。




 * * *




「これ、本当に痛かったんですよ」


 笑いながら語る安さん。それは痛かったでしょうね。まず最初の転倒からして受け身が取れていません。そして驚異的な速度での【階段落ち】ですから……その苦痛は想像を絶するものだったでしょう。


「頭打ったからなのかも知れないけど……途中で目が回って気持ち悪くなっちゃいましてね」


 ああ……それも辛そうですね、しかもマスクを付けていますし。もしも、そこで嘔吐でもしようものなら……お寺の階段で【階段落ち】をキメながら溺死するという謎ムーブが成立したかもしれません。不謹慎ですが……【謎】が、これだったら解けなかったでしょうね。


 ちなみに【階段落ち】のヒントは何処にあったと思います? タイトルの【戒壇】以外にもあったんですよ、実は。それはですね……ヒロインが使用した武器です。順に【戒杖刀かいじょうとう】【ダン・ウェッソン・リボルバー】【オチキス H35】。この頭文字を二文字ずつ拾ってみてください。ほら……謎の答えになりますよね。こんな示唆のされ方もあるんだなと……妙に感心したものです。


「でも……私が落ちた段数なんですが、軽く三桁は越えていたと思うんです。それを考えると、私は映画界の前例を越えたのではないかと思うんですよね」


 えっと……有名な【階段落ち】は三十九段だったと思います。少なく見積もっても三倍ですか……ひょっとしたら十倍くらいあった気もするんですが……細かいことは気にしないでおきましょう。


「ですので、私……こちらの世界の住人にこそなってしまいましたが、現世の映画界の歴史には名が残ったのかもしれません。それはそれで満足です」


 安さんはそう言うと、笑いました。不思議に思われるかも知れませんが……ゾンビのマスクが確かに笑ったのです。アタシには……そう見えました。




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 奇怪な【謎】を解決したアタシ達は談笑を続けています。とは言いますが、実は……コムさんがB級映画談義に安さんを巻き込んでいるだけなんですけどね。アタシは見事な作り笑いで、己の存在を空気と化しています。


「ちなみに先程の作品……最後はどう終わるんですか?」


 ふと、コムさんが尋ねました。そうですね……アタシは安さんの事故死の【謎】を解決出来たので、さも終わった気になっていましたが……肝心の【戒壇・オブ・ザ・デッド】の終わり方は聞いていませんでした。


「私も台本でしか知らないのですが……最後のシーン、お寺まで来ていたじゃないですか」


 安さんは映画の最後についてを語り始めます。


「そこでですね……お寺の住職が念仏を唱えるのです。そして……ゾンビは成仏するんですよ。これが映画の締めですね」


 ポカーンとするアタシ。納得の頷きを見せているコムさん。笑顔のゾンビ。




 かくして今回の【謎】作品。【戒壇・オブ・ザ・デッド】は【階段落ち】で【怪談オチ】がついたのでした。




 第5話 『会談・オブ・ザ・デッド』 了



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