第19話



 今回は、そんなに考えなくてもわかりました。はい……あまり口に出したくはないんですけどね。


「ご両人、答えに至りましたようですな。それでは、この笑止千万な物語の首尾を整えるといたしましょうか」


 大庭さんはそう発すると、この物語の最後の謎……いや、オチをつけにいったのです。


「小二郎、いや隆直はですな……尻に病を抱えていたのです」


 ですよね。


「隆直は若殿の側用人として召されたと申しましたが、側用人と言っても色々ありまして……」


 言い淀む気持ちはわかります。はい、わかります。


「文字通り、若殿の側に仕えるのが仕事であるのですが……その」


 頑張れ、頑張れ。


「……衆道が原因なのです」


 うん。知ってた。


「一言で申せば……夜の共をするのです。これ以上はご想像にお任せしたい」


 ああ、それは得意分野です。


「しかして、隆直は尻に病を生じ……其れを悪化させ、遂には騎乗する事かなわず……」


 なんとも面目なさそうに言葉を紡ぐ大庭さん。ちょっと可哀相になってきますね。


「その事情は若殿も拙者も存じておりましたので……鷹狩の折、隆直は儂の側に控えておったのです」




 ━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・━




 大庭さんは健康サンダルを履くと、アタシ達のオフィスのような部屋から去っていきました。


 大庭さんを見送り終え、部屋へと戻ってきた時にコムさんが口を開きます。


「多分さ、杉家の家督継承時の次郎さんも同じだったんだろうね。彼も馬に乗れなかったから大庭さんが乗ることになったんじゃないかな」


 ああ、なるほど。確かにその点だけは触れられないままでしたね。ここへの伏線だったんですか。


 コムさんは自身のデスクへ向かうと椅子に腰を下ろします。アタシも自分の椅子に座ると足をプラプラさせ始めました。


 そして、コムさんが何か思いついたんでしょうか、口を開きます。


「次郎さんも同じだって言ったけど、隆直さんの方がお尻の病が軽かったんじゃないかな」


「ん? どういう事です?」


 コムさんの言い出した事に思い当たる事がありません。アタシはコムさんに発言の真意を問います。


「だって……隆直さんは小二郎なんだから、病も小さかったんじゃないかなってね」


 その思いつきを言葉にして発したセンスが解せない……


「そうそう、多分だけど、政直さんも程度の差はあれど……同じ思いをしていたのかもしれないね」


「どういう事です?」


「最初の時にさ、ソファーに正座してたり、履物が健康サンダルだとか……それとお酒も断ったでしょ。それって痔の症状を緩和させたりする時の行動なんだよね」


 あ……そういう事でしたか。血は争えないものなんでしょうね……。


 なんだか徳川光圀を思い出しながらも、今回の物語には終止符が打たれたのです。




 第2話 『次郎と二郎と痔瘻じろうと』了


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