第7話 天籟の翼
春の肌寒い季節から、少しずつ暖かくなると鳳凰宮の庭の池に蓮の花が咲いてきた。蓮を眺めながら、執務室で
コンコン
「殿下、お茶をお持ちしました」
天籟の
「今日は、
「気分が悪いので、代わりにわたくしがお持ちしました」
「……」
「いつもはたくさん侍女を引き連れてくるが……?」
すると突然、短刀を隠し持った侍女が
「!」
天籟は奥に下がり、後ろに控えた武術の達人、
ザクッ
捧日の右腕に刺さすが、金属を縫い込んだ衣だったので貫通することはなく、滑るように短刀が落ちた。
「なに奴⁉ だれかおらぬか‼」
天籟は置いた茶を侍女の顔にかけると女はすぐに土色になり、そのまま倒れ込む。捧日が体を起こすと、侍女はすでにこと切れていた。
「くそっ。茶には毒。あらかじめ奥歯に毒か……。どのみち自害するつもりだったのか。捧日、この侍女を徹底的に調べろ」
「はい。仰せのとおりに――」
しかしこの侍女を調べても、出所が分からずじまい。不思議なことに厳重な警備にもかかわらず、かんたんに天籟の執務室に侵入できたのだった。
帝が即位すると、皇后は、五大
続いて四妃(
四妃の中、五大世家の
(誰がオレの命を狙うのか……)
母といい、オレも、紅
あることないこと理由をつけられ、オレは処刑されるのか……。内々で処理される。まるで贅沢な暮らしをしている死刑囚だな……。
だがここにきて、気が変わった。腹違いの兄弟にむざむざと殺されるつもりはない。
***
今日も今日とて紫微星城の瑠璃瓦は金色に輝く。
雨の多い時期はすぎて、暑い季節がやってきました。城を守るように水堀があり、城下町には美しい運河が流れ、まいにち船が行き交い物資を運んでいる。千年以上君臨する王者の都――。
「わたしの相棒は蒼鷹の
「ハヤブサもいいな……」
天籟は鹿の皮で作った手袋を装着して、ハヤブサの
「……チキッ」
「お……おい、
すると月鈴が不安そうな天籟の手をとる。
「手を揺らさないでくださいよ~。それより落ち着いてください。鷹狩り用に訓練されているので大丈夫です」
天籟は動物が好きじゃなかったが、月鈴が鷹を飛ばす姿をみて、やってみたいと思うようになった。空を自由に舞う鷹―。
「鷹は毎日、必ずお世話をしないと信頼関係が築けないです」
「そうか」
「殿下もまいにち竜王殿にきてお世話してみましょうよ。餌の小鳥をむしるのは平気ですか?」
「おい……。お前はオレに本気で言っているのか⁉」
天籟は動揺して冷や汗をかく。
「冗談ですよ。殿下があまりにも熱心でいらしたので」
「なに⁉ ああ、殿下じゃなくて天籟でよい」
「へ……? なぜ」
(しまった! また気軽に受け答えしてしまった)
月鈴は口を手で押さえ天籟をチラッと見る。冷笑を浮かべるも何もいわなかった。
「お前はその……一応、皇子の妻候補として……夜伽したってことになっている」
「はぁ~⁉ 冗談でしょ! 訂正しないと」
「あーよいよい。
「え……そんなぁ~。金子なんてないし後ろ盾も……」
月鈴はショックを隠し切れない。
「そこで考えた。月鈴は妻候補の立場から出世してくれ、秘術で協力してもらったあかつきには、約束通り
「は、はい。ありがとうございます。では……天籟さま」
「うむ。言葉遣いも、もうこのままでよい」
「うっ……。すみませんでした。だからわたし、妻にふさわしくないんですって~」
月鈴は顔を真っ赤にした。
「ははは」
天籟は心から思いきり笑った。
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