第四十二話 魔法と魔法のような飲み物
残ったのは従業員の僕達とエレーナとミルルさん。見知ったメンバーだ。
「いやぁしかし、今度はカタコンベか……お前も忙しいな、ナナヲ」
「アル君もこれから忙しいし、お互い様だね」
「誰のお陰で忙しいと思ってるんだ……」
溜息を吐きながら天井を見上げるアル君。その頭をフランシスカさんが通りすがりにペシッと叩いた。
「ほら忙しいんだから」
「はーいはい。行きますよ、っと。じゃあなナナヲ。頑張れよ」
「うん、アル君も。フランシスカさんも頑張ってね」
「えぇ。ナナヲも気を付けてね。早く帰って来なね」
2人を見送り、残ったのは僕、シエル、エレーナ、ミルルさんの探索メンバーだけとなった。
「いよいよカタコンベね……」
「シエルのお陰で深淵古城までの攻略は簡単だ。たけど、恐らく最奥の核はモンスターと融合してると思う」
「ほぼ確実にしてるだろうね~。また復活しないようにこの前みたいに私が取り込んでしまうのが一番の解決策だとは思うけど……」
「カタコンベを……支配下に置くことで、探索者からの攻略対象にならないかが、私は心配です」
迷宮核を取り込んだシエルが探索者の敵に……なんてことは絶対に避けなければならない。だが、取り込んで支配下に置かないと墓地の地下はいつまで立ってもカタコンベに浸食され、いつかはグラスタもダンジョンに取り込まれてしまう。
「もういっそのこと、カタコンベもカテドラルも全部滅ぼしちゃえば簡単なんだけどね」
「聖天教としてはその辺はどうなの? ダンジョンとはいえ、神世樹だけど」
「教義としては……あれは『堕ちた樹』という、認識になっています。簡単に言うと……私達は天まで伸びる姿を慈しみ、力強く根付く姿に尊敬の念を抱き、寄り添うように生きることを目的としています。ですので、ダンジョンという悪しきものを生み出す樹は折るべし……という風になっています」
「でもほら、この間、私が神世樹のこと言った時ミルルちゃん……」
「あ、あれはその……反射的に……その、最近はそういう風に言う人も居なかったので……」
シエルが失言してしまった時の話だろう。ミルルさんは珍しく顔を真っ赤にして否定している。その様子にシエルは苦笑いしながら頬を掻いていた。
「こほん……つ、つまり、あのダンジョンを攻略するのは、聖天教の使命でもあるのです」
咳払いをし、平静を装ったミルルさんがピッと人差し指を立てて説明を終える。それはシエルの癖だ。まだまだ動揺が抜け切れてないのがよく分かり、クスリと笑ってしまう。
「ところでナナヲ、あんたアレは完成させたの?」
「あぁ、ばっちりだよ」
アレというのは地下ダンジョン攻略後からずっと練習していた魔法だ。シエルの理論と助言のお陰で僕は僕だけが使える魔法を構築することが出来た。
「バフ魔法の為の魔法、ねぇ……そんなのあんたしか考えないわね」
「僕だから考え付いたんだよ」
魔法の名は『
今までは循環させることでバフ魔法を発動させていた。そしてそれを魔素循環法で維持しながら更に魔法を重ねていくのが僕が出来る魔法の極致だと考えていた。けれど、シエルの組み立てた理論、『魔法を使う為の魔法』のお陰でその壁を突破することが可能となった。
この魔法を練習する時は墓地の地下へ行った。シエルにモンスターのスポーン比率を上げてもらっての訓練だ。スポーン比率が上がると、魔素量も比例して上がる。効率良く魔素を吸収することが出来たが、同時にモンスターの量も倍になる。かなりきつかったが、お陰様で短期間で魔法の習得が出来た。
「バフ魔法の方は?」
「そっちもまぁまぁ。色々覚えたよ」
以前から覚えている速度強化、精度上昇、攻撃力強化、防御力強化、体力上昇、感覚鋭敏化に加えて『
「重力属性に闇属性、光属性ね……本当に苦手属性ないのね」
「これで攻撃魔法が使えたらな」
「贅沢言い過ぎよ……って言いたいところだけど、魔法特化の異界人の能力は凄まじいって伝承があるから何とも言えないわね」
魔法特化かぁ。憧れではあるな。何某かのクエストに登場する賢者のように全部の魔法が使えたら……なんて想像ばかりしてしまう。あー、よくないよくない。
「全属性扱えるだけ凄いことよ。羨ましいわ」
「そう言ってもらえると嬉しいね。もっと頑張らなきゃ」
「その調子よ!」
攻略前に気合いを入れ直す。まだまだ僕は成長できる。シエルに教えてもらっているが、完成していない魔法もある。
ふとミルルさんを見ると、にこりと笑った。僕が首を傾げいていると、懐から取り出したポーションを渡された。
「これは?」
「以前……ナナヲ様と一緒に研究していたポーションが、完成したのでお渡ししておこうかなと」
味の改善をしていたのを思い出す。あれからきっと美味しくなったに違いない。
「ありがとう、ミルルさん。じゃあ怪我した時はこれを……」
「いえ……これは、怪我をしていなくても効果があるので、今飲んでも大丈夫です」
「へぇ~、それは凄い……じゃあちょっと飲んでみますね」
心配はしていないが、受け取ったポーションを観察してみる。試験管のような細長い瓶の中身はピンク色の液体で満たされていた。軽く振ってみるとぷくぷくと小さな気泡が出てくる。炭酸……?
そのコルク栓を、中身がこぼれないように慎重に抜いて一気に飲み干す。
「んっ……!」
シュワッとした感覚が口内を刺激する感覚が懐かしい。味も以前のようなポーション特有の苦さや葉っぱ臭さもない。それどころかとっても美味しい。……というか、懐かしい味だ。
「まだ……安定はしないのですが、飲むと全体的に能力が上がるんです。……少しですが」
「なるほど」
効果は人によって異なるところも含めてそっくりだ。エナジードリンクに。
「いいですね、これ」
「治癒成分の多い……果実や、植物で作っているので、体にも良いんです」
あっちのとは違って体にも良いとなると常飲しても問題はなさそうだ。
「夜、眠いけどやらなきゃいけない仕事とかある時に飲むのも良さそうです」
「あ、なるほど……そういう使い方も出来ますね」
「何でも聞いてください」
常飲してたので。とは言えず、僕は曖昧な笑みを浮かべた。
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