第十五話 レアドロップ
アークスケルトンメイジとなったシエルが魔力を使った会話が可能になり、これまで以上に意思疎通が楽になり、そして一つの問題が浮き彫りになってきた。
「うーん……」
『ナナヲ様、こればっかりは……』
「いや、まぁ……そうなんだけど」
ぶち当たってしまった壁は圧倒的な僕の経験不足だった。考えてみれば当然も当然で、一応僕の使役下に位置しているとはいえ、生前のシエルは大魔導士だ。当然、戦闘経験は豊富で、更には知識も底が見えない。お世話になっているのは、お荷物になっているのは完全に僕なのだ。
そんな状態だからいつの間にかシエルの口調も砕けてきた。僕としてはその方が接しやすいので、そのままで居てほしいと伝えると、自分もその方が楽だと微笑んでいた。ただ、様付けはしたいと、其処だけは譲ってくれなかった。何でも役を演じる事は己の力にもなるからとか……よく分からなかったけど。
とまぁ、そんな感じで経験値なんてものは一朝一夕では手に入らない。ふしぎなアメなど無いこの世界では、地道に戦って学んでいくしかなかった。
「せめて武器くらいはどうにかしたいところだね」
『じゃあダンジョン産の武器とかどうかな? 異界人であるナナヲ様でも魔法の行使が可能になる物も産出されたりするよ?』
異界人であることはすぐに伝えていた。フィンギーさん相手には服装と異常な出会い方ですぐにバレてしまったが、シエルには此方から伝えた。これから一緒にやっていく間だし、極力隠し事はしたくなかった。
「魔法かぁ……魅力的ではあるけれど、漸く基礎を学んだ程度で全体的に経験値が少ない僕の手には余るんじゃない?」
『うーん……無きにしも非ずだね。なら純粋に武器がドロップするまで戦う? 戦闘経験も詰めるし、一石二鳥だよ』
「それしかない、か」
探索を終え、墓地を見回った後の管理小屋での作戦会議はこれで一旦終了とした。
ちなみにシエル……アークスケルトンメイジは太陽光の下でもある程度の活動が可能だった。本人曰く、ちょっとヒリヒリしますけど元々引きこもりだったので太陽は嫌い。とのことだ。最近は小屋のクローゼットにあった男性用の大きな外套を頭からすっぽりかぶっている。僕も太陽とはあまり仲が良くないので気持ちは非常によく分かる。青空って目に悪いよな。
汗を流し、僕が布団に潜るとシエルは一人になってしまう。けれどこれも元来の引きこもり体質が問題解消へと繋がった。調べもの。空想夢想妄想。魔力循環による個人訓練など、暇を潰す才能が彼女にはあった。
(それこそ経験の差が出る証拠ではあるけれど、寝ない訳にもいかないしな……)
彼女には言えないが僕の小さな悩み。隠し事をしたくないとは言ったが、こればっかりはどうしようもなかった。生前の彼女だって寝てる間は訓練なんて出来なかったのだから、今は環境が違う。
生者と死者の壁は厚く、そして高かった。
□ □ □ □
地下ダンジョンでスケルトン達を倒し始めて1ヶ月が経った。お陰様で戦闘経験は徐々に上がり、臨機応変な対応が出来てきているのが実感出来る程度には成長した。
ダンジョン内で得たドロップアイテムは様々だが、一番持て余しているのがスケルトンの骨だ。どの部位かも分からない、両端に間接が用意された武骨な骨。それで殴って戦えと言われればまぁ、出来なくもないような、そんな骨。それが我が家に籠3つ分は貯骨されていた。
「これなんか使い道ないのかな?」
『うーん……煮込むとかどう?』
「ヒトガラってか?」
人骨を煮込む僕の人柄に問題が発生する。
『でもそういう研究は大昔にあったよ。私の知り合いのネクロマンサーが夜な夜なお墓を掘り返して人骨を……』
「いやそのエピソードは大丈夫。聞きたいか聞きたくないかで言えば絶対に聞きたくない」
『故きを温ねて新しきを知るというのは研究の初歩だよ!』
「僕はただの墓守だし。てか墓守が人骨煮ちゃ拙いでしょ……」
大体煮込むにしてもこの数は流石にしんどい。何本あると思ってるんだ。
だがドロップしたのは骨だけではない。スケルトンに比べて出現率の低いレイスからは半透明の布がドロップした。浮遊霊みたいなモンスターであるレイスが身に付けている襤褸切れだが、ドロップした物は綺麗な長方形の布だ。今は綺麗に折り畳んでクローゼットの中に仕舞ってある。
そして時々見る腐乱死体、ゾンビ。奴等の腐った肉を斬る感触はおぞましいし、匂いも最悪だ。見た目からして18歳未満には刺激が強い。
だがそんなゾンビが実は優秀なモンスターであることが、ドロップアイテムから発覚した。
『腐毒剣インサナティー 毒効果のある刃を持つ短剣』
これがゾンビからドロップしたアイテムを鑑定した結果だ。これがコロンと地面に転がっているのを見つけた時は目を疑った。スケルトンから骨。レイスから布。そしてゾンビから短剣。ある程度予想がついていたドロップ品から大きく外れたゾンビアイテムだ。
だがこれが普通とは違うということはすぐに分かった。暫くインサナティーを振り回していたら再びゾンビが出てきたので一発で仕留めたところ、インサナティーとは違うアイテムがドロップしたのだ。
『腐った腕 ゾンビの腕 用途不明』
骨、布、とくれば腐った何かという予想が妥当だ。だからこれが、通常のドロップアイテムなのだ。だからインサナティーは通常とは違う、所謂レアドロップアイテムということになる。
これに味を占めた僕とシエルのレアアイテム狩りが始まった。そして気付けば一ヶ月経っていたというのが、オチだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます