第三話 勝手に期待する勇者 あっさり外れる異界人
空気が重い。
「ナナヲ様……大丈夫、ですか?」
「あ、はい。大丈夫です。ありがとう、ミルルさん」
気遣ってくれる法衣を着た女性改め、ミルルさん(さっき自己紹介してもらった)の優しさが暖かく、そして気拙い状況が加速していく。
「まぁ仕方ないわよ。スキルの適正は人それぞれだから」
「ですよね……」
「ほら、シャキッとしなさいな!」
「んん゛っ!!」
露出の激しい魔法使いの女性改めエレーナさん(さっき)がバシッと背中を叩いてくれる。存外痛いのが異世界感あってビックリする。
こうしてお二人が僕をフォローしてくれるのは、僕が何のスキルも持っていない事が分かったからだ。
岩陰から出てきたでけートカゲの前に放り出されて何か出せ! とフィンギーさんの勇者式スパルタでマジで死に掛けた。
しゃーねーなとトカゲと戦うフィンギーさんに何か支援しようと踏ん張ってみるが何も出ず、結局は声援を送ることしか出来なかった。
何も出来ない。せめて手を動かせと予備の剣を渡されたけど何かクソ重いし……。遠心力を肌で感じてたら何かもう、取り返しのつかない空気になってしまっていた。
「帰るかー」
「えっ、もう……ですか?」
「だって此奴使えねーし……世話しながら深層なんて無理だろ」
「……」
辛辣な言葉に怒れるような成果を出せてない僕はジッと肩身を狭くして耐える。
「まぁ……しょうがないわよね」
「ナナヲ様を地上に送り届けるのも大事なことだと思います……」
「せっかく拾った命だしな。こんな場所で散らすのも可哀想だろ」
フィンギーさんは口は悪いが良い人だった。流石勇者だ……好きになりそう。
「ほら、帰るぞナナヲ!」
「あ、はい……ごめんなさい、役に立てなくて」
「期待してたんだけどなぁ???」
「すみません……」
「馬鹿垂れ、冗談だよ! なに、戦うことだけが生き方じゃねーよ。何か警備する仕事してたんだろ? じゃあほら……あれだ……なんかこう、見回る仕事とか合ってんじゃねーか?」
別にこの道何年みたいな経歴はないのだけど、まぁ前職と同じ仕事なら即戦力として頑張れる可能性はあるだろう。
「それでしたら……墓守なんてどうでしょう?」
「墓守? へぇ、そんな仕事あるんですか?」
「おぅ、いいじゃねーか。どういう仕事か知らんけど墓を守るんだろ? 墓なんて誰も来ねーし楽じゃん」
それはそれで物悲しいところもあるが、世界が違えば価値観も宗教観も違うだろう。其処に突っ込むのは地雷の可能性もあるので何も言わない。
「でもそんなに沢山お墓でもない限り募集なんてしてないんじゃないですか?」
「いやいや、それがそうでもねーんだよ」
「え?」
「さて問題です。此処、どーこだ?」
フィンギーさんが両手の人差し指で地面を差す。あー、なるほど。
「ダンジョン、ですか」
「そういうこと。ダンジョンにはモンスターが出る。戦う。勝てば良いが、負ければ死ぬ。死ねば死体はお墓行きだ。まぁ運が良ければな」
この場合の運というのは運良く死体が回収出来れば、の運だろう。運が悪ければモンスターの食卓行きだ。
しかしちゃんと弔う文化があるのは好感が持てる。チッ死んじまったかしゃーない捨て置け、みたいな悲しい倫理観じゃなくて良かった。僕が死んでも、もしかしたら弔ってもらえる可能性があるのだから。
「じゃあとりあえず戻りましょうよ」
「だな。行くぞナナヲ。帰るまでが探索だ!」
「はい……!」
気合いを入れてパーティーの間に入る。
いやまったく、情けない限りである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます